言葉は悪くないのに

藤原くう

言葉は悪くないのに

「お天国にお行きになられたらいかがかしら」


「そういうあなたこそ、終点まで行ったほうがいいと思いますわ」


「なんですのそれ」


「『あれ』のことを英語で終点というのですわ。もしかしてご存じなられないのかしら」


「し、知っていますわそれくらい。自慢ですの」


「自慢だなんて、貴女の勝手な想像にすぎませんわあ」


「…………」


「それより、おゲームの続きをしましょうよ。次は――」


「格ゲーだけはイヤですわ」


「あらあらあら。負けるのが怖いのですか?」


「そんなわけないでしょうが!」


「おお怖い怖い。大声出しちゃってまあ」


「……あなたのそういうところ大嫌いですわ」


「どういたしまして」


「褒めてない!」


「それよりも、どんなゲームで戦いたい? 私はどんなゲームでもいいわよ」


「わかったわ。落ち物ゲーなんてどうかしら」


「ふむ。テトリスとかぷよぷよの類でしょうか」


「ええそうよ。だけども、あなたはこれで遊んだことがないでしょう!」


「その赤と白で構成されたいかにもレトロチックなそれは!?」


「……ノリいいわね」


「ノリなんかではないわよ。本当に驚いているわ。――まさかファミコンを持ってくるなんて」


「ただのファミコンじゃないわ、ディスクシステム付きよ! まあ、今回は使わないのだけれども」


「接続されているのは、ドクターマリオね」


「ヨッシーのクッキーと迷ったけれど、こっちの方が有名だろうからこっちにしたわ」


「むしろマイナーな方が私との勝負によさそうだけれども」


「あっ。……い、いいのよっ! ドクマリだって、わたくしは得意なのっ」


「ドクマリって略称初めて聞いた」


「なによなによ! いなかっぺ大将だって言いたいの」


「別にそこまでは言っていないのだけれども」


「とにかく! やるわよっ!」


「テレビは?」


「テレビくらいその辺にあるでしょう」


「この中庭にはないわよ」


「なければどこからか持ってくればいいじゃない。テレビくらい校舎のどこかにあるわ」


「そうね。ゲーム部にでも借りましょう」



「さてゲーム部にやってきたけれど、だれもいないわねえ」


「朝六時半だからね。って考えると、あなたもどうして来てくれたのかわからないわね」


「そりゃあ後輩からの頼みですもの」


「しかし、だれもいないなら鍵を開けることができない――」


「ここで取り出したるは、こちらの鍵」


「なんであなたが持っているのよ」


「たまにゲームをしに来ているのよ。部長、メルブラ好きだから」


「メルブラってなに?」


「まあいいじゃないですか。それよりも、入りましょう」


「そうね。うわっ、はじめて来たけれど汚い」


「確か、大掃除中なのだ。先輩が遺したという幻のネオジオコンを探しているのだとか」


「なんだか知らないけれど……ふぁkk」


「何言おうとしてるの」


「な、なんでもありませんわ。ただ、お排泄物のことを叫びそうになっただけですわ。それより、何か踏みつけてしまったような……。あ、これだ」


「八方向スティックがあるこのコントローラーがネオジオコン」


「そうなの。っていうか、探し物見つけてしまったわね……」


「そうだなあ、これは私から部長へ渡しておこう」


「ちょっと待ちなさい」


「何だい」


「勝負よ。あなたがこのわたくしに勝ったならば、このネオジオコン? ってやつをあげるわ」


「いいだろう。貴女が勝ったら、先ほどまでの五十連敗と、レッドブル五十本はなかったことにするわ」


「やった。絶対だからね!」


「当然だ。この生徒会長たるもの嘘はつかん」



「なんで! どうしてっ! 勝てないのよ!」


「そりゃあ貴女がそうやって興奮しているからだろう」


「うるさいうるさいっ! どうせズルでしょチートでしょ! ハードウェアチートだ!」


「私は何もしていないのだけれども」


「その余裕ぶっている話し方もむかつくわ」


「ぶってなどいない。本気で余裕なの」


「あ、カチンと来たわね。表に出なさいよ!」


「リアルファイトでもするつもりなのかしら。でもあいにく、私は動物園の連中と戦う時のために、合気道を勉強しているわ。灰皿が飛んできたって回避できるわよ」


「言ってなさい。……絶対ぶっ殺す」


「――ついに言ってしまったわ」


「あ」


「あーあ。警察来るわよ。というか、もうサイレンの音が聞こえてくるじゃないの」


「ほ、本当だ。いやだ。檻の中に入れられるのは絶対」


「と言われてもなあ。日本の言論警察は優秀で、手助けなんてしたら私まで逮捕されてしまう」


「かわいい後輩を助けてよ!」


「ふむん。確かにかわいいが……。そうだ、私の家に来るかい」


「あなたの家?」


「ああ。両親が文士だからね。言論警察にも結構顔が利くのさ。ま、貴女が私の家に来たからといって、助けられるとも限らないがね」


「そ、それでもいいからっ」


「ふふふ。わかったよ。それじゃあ行こうか」


「え、今から?」


「そうとも。早く行かないと豚箱にぶち込まれてしまうぞ」


「それはそうだけど、なんか、準備がよすぎるような」


「気にするな。……これからは、ずっとずっと一緒にゲームができるからな」


「何を――うっ」


「うふふ。あははははっ」

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