らっきょう
らっきょ、らっきょ、らっきょちゃん。塩漬け、甘酢漬け、どうしよね、ららら。
右手に持っていた包丁を無言で置く。
意味不明な歌が頭の中で流れ出した時点で疲れはピークに達している。
田舎の母親がらっきょう(生、下処理なし、土つき)を送ってきたのは昨日のこと。朝からせっせと下処理をしているのだが、まー終わらない。おかげで貴重な土曜日がパアである。
泥を落とし、皮をむき、上下を切り落とす。延々と、淡々と、同じ作業の繰り返しは精神に来るものがあった。意味不明な歌がエンドレスで脳内に流れる程度には。
現在時刻は午前二時。始めたのは午前八時だから……やめよう。考えたくもない。手はとっくに痛みを訴えているし、そろそろ目も霞みそうだ。
ちら、と自身の左側を見る。処理前のらっきょうは、まだ山のように積み上がっていた。もう、魔法かなにかで消えてしまえばいいのに。
親切で送ってくれたのは嬉しい。らっきょうは好きだし。けどねオカンよ、キロは要らん。一人暮らしの娘に五キロもらっきょうを送るな。なんなら五百グラムもいらない。いやむしろ、漬かったのを送ってくれ。
らっきょうは小さい方が高級らしい。そりゃそうだ。この手間を考えたら納得である。
あー、と出した声は、寂しく響く。
大量のらっきょうと更けていく夜に、とてもとても孤独を感じた。
徒然なるまま、あるがまま ゆらぎの花 @yuraginohana
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