第20話 リクの誓い<最終話>
あれから夜通し、リクはカールを担いで走った。カールとの戦闘もあったが、魔剣から得た経験値でまたレベルアップしていた。カールを死に追いやった魔剣でレベルが上がったことに素直に喜べていないが、それで今はいち早くカールの最後の願いを叶えてやれる力になっていることには僅かに感謝していた。
夜が明け、カールは街の近くまで来ていた。だが、悩みが一つあった。
「えーっと…、カールどうしよう…」
このまま死体を担ぎながらは絶対良いことはないだろう。カールを包んで隠せるような毛布とかも無い。それに、死体っぽいものをリクが担いでいればカールの死体だとすぐに噂になるだろう。そうなるとカールの亡骸に何をされるか分からない。
あと、死んだカールを抱きかかえていたので、普通にカールの装備を無意識に経験値に変えてしまった。今は触っていない右足首のレガースしか残っていない。「リクが『死体から装備を剥いだ』と思われるのも気まずい。こういう時の「EXP自動変換」はマジでウザい。
「どこかに置いておくか…。」
街に着く直前、リクはカールの遺体を一時的に近くの洞窟に隠すことにした。
岩壁を腕力で掘り進め、奥にカールを寝かせる。
入り口に大きな岩を置いて塞ごうとして
《素材:巨大な岩を手に入れましたが、経験値132になりました。》
「うるせー!!もうなんでもかんでも経験値にするなーー!!!」
仕方ないので更に奥まで掘り進め、入り口付近の天井を殴って入り口を塞いだ。
これでカールの死体を襲う魔物もいないだろう。小動物や虫の影響も心配もしたが、魔剣士のオーラを発していた肉体ならたぶん近寄ってこないだろう。
「これで大丈夫か。さ、街に行くか。」
街に入ったリクは寄り道もせずヴェラードの屋敷に行き、執務室長のユーゼリウスに経緯を話す。
「ユーゼリウスさん、カールとの決着が着きましたので報告に上がりました。」
「リクか、聞かせてもらえるかな?」
リクは今まで起きたことを説明した。事の発端は、ヴェラードがカールの恋人の墓を暴いたこと。それを知ったカールが復讐の為に殺したと説明した。カールは北の山で拾った魔剣の力で復讐するために力を蓄えていたこと、その後カールとの戦闘に勝利して自首するように伝えたこと、だが復讐しか考えられなくなっている自分を止めるためにカールが自らの命を絶ったことを伝えた。
また、ローズルビーはヴェラードの発言からもカールの恋人の身体から取り出したもので間違いなく、カールの希望でその子の墓に戻すことになっていることも伝えた。まぁ、実際、その宝石はもうこの世にはないんだが。
ふむふむと話を聞いていたユーゼリウスが口を開く。
「話は分かった。つまり、原因はヴェラード様の悪事が原因だと言いたいのかね?」
「長年、ヴェラード様のことを自分の主として支えてきたユーゼリウスさんにこういう報告をするのは心苦しいですが…」
「いえいえ、自由で大らかな方でしたが、黒い一面も御座いました。その報いでしょうな。」
何も語らなかったが、ユーゼリウスもヴェラードが良くない死に方をすることにどこか思い当たる節があったのだろう。
「とはいえ、此度の問題、世間的にも大きく出てしまいましたのでな…。」
「やはりこのカールが起こした事件は大きく知れ渡るんでしょうか?」
死んでしまったカールがこれ以上非難を浴びることを考えるとリクはとても辛かった。せめて一緒に償うチャンスがあれば、大手を振って外も歩けたのになとリクは悔しい気持ちで一杯だった。
そんなリクを見たユーゼリウスはいつもと変わらない口調で話し始める。
「そうですなぁ…。では、この事件はだ未解決ということで、カールの捜索は今後も継続することにしてはどうですかな?」
「捜索を続ける?カールはもう死んでいるのに…ですか?」
ユーゼリウスは言う。
「ええ、今、世間に真相を伝えれば墓暴きをしたヴェラード様のせいで、我々にとっても大きな事件になる。国からの取り調べなどもあるかもしれませんな。」
「でしょうね…。貴族自身が宝石欲しさに墓暴きだもんな…。」
「そうなれば一番不利益を被るのは残された我々執務室の人間。最悪、我々もヴェラード様の共犯で処刑かもしれませんな。」
「たしかに…。」
「ですが、まだ未解決事件として捜索が続いていけば、その結論も先延ばしになることでしょう。そして、そのうち皆忘れるでしょう。」
「え?忘れるものですかね?」
「誰かが覚えていても構わないんですよ。この事件は別にもうどうでもいいのです。」
と言い切る執務室長。
「え、さすがに領主が殺されたんですよ?一大事ではないですか?」
「ええ、旦那様が亡くなられましたが、この領地の運営は元々我々執務室の者達が中心に動かしておりました。旦那様は言い方が悪いですがお飾りでしたので。なので、犯人が捕まっても捕まらなくても、この領地に問題が出る訳でもありません。むしろ、ヴェラード様の無駄遣いの為にヴェラード様が拒否していた領地の改善案が今は我々が自由に行えるわけで、それは領民も喜ぶしかないですからなぁ。」
「あらら…。、はは、だからどうでもいいと…」
あまりにもあっさりとしているユーゼリウスの考えにリクは驚いていた。
「それに、こう見えて、私も貴族の端くれでしてね。もしヴェラード様が亡くなった場合は私がこの土地を引き継ぐことになっております。」
「それはそれは。よほど信頼されていたんですね。」
「いえ、いつかこういう時が来るために勝手に根回しをさせて頂いておりました。執務室全員グルでございます。」
「そんなこと、オレに言っても良いのか?ある意味、計画的な領地乗っ取りだし。それをオレが世間に公表したとしたら?」
「そうなると私の立場はありませんな。そうなると全財産没収の後に国から追放になるかと…。」
そう言うと、ユーゼリウスはとても残念な顔をする。だが、突然「あ!」となにかに気が付いた素振りを見せて言葉を続ける。
「あ!そうなりますと、ローズルビーも国に没収となりますなぁ。あれは高価な宝石ですからねぇ…。その時はリク、私の代わりに国へローズルビーの提出をお願いしますね?」
ニヤリと口角を上げるユーゼリウス。リクは呆れた顔で言う。
「あーあー、もう分かった分かった。そうなったら一番困るのはオレなんでしょ?」
「ハハハ、では、この話はお互いに内緒にしておきましょう。それですべて丸く収まるのですから。」
「それで良いなら。よろしくお願いします。」
「では、この事件もすべて決着がついたようなものですな。ところで、リクはこの後どうするつもりかね?この屋敷での警備の仕事はもう必要ないが、君が望むならこのまま雇うことも可能ではある。」
リクはすでに考えていたとすぐに答えを出した。
「カールからお願いされたことがあったので、このままお暇を頂きたいと思います。」
「よかろう。そう言うだろうと思っていたよ。」
ユーゼリウスは金庫の中に予め用意されていたと思われる袋をドスンという音と共に机の上に置く。
「となれば、リクにこれまでの報酬をお渡ししましょう。」
「いや、報酬は良いですよ。」
「そういう訳にはいきますまい。この事件を一応の形で収めた功績、冒険者ならそれ相応の対価を得るべきですぞ。まず、この金貨300枚を渡しておきましょう。」
と言った瞬間に袋の中身が消えた。
「ありがとう。出来れば銅貨で用意して欲しかったな。」
突然消えた金貨に困惑気味のユーゼリウス。
「なるほど。これがEXスキルの影響ということですな?」
「そうですね。お金は目の前から無くなったけど、実際は無駄になっていないです。自分の為になっているので感謝してます。」
実際、一気にレベルアップした。充分過ぎる報酬だ。そして、追加報酬として、この屋敷に遊びにくれば好きなだけ食事はさせてもらえることになった。もちろん、ユーゼリウスの奢りだ。その代わりに来た時は少しで良いので顔を見せて欲しいとのことだった。リクは快く了解した。
と、執務室長と一通り話をし終わる。カールとの約束の為、そろそろ屋敷を出ようとしたリクに執務室長が声を掛ける。
「ところで、カールの依頼が終えた後はどうする予定で?」
「しばらく色んなところを見て回ろうかと思ってます。」
「そうですか。では、またこの街に来られたらお声を掛けて下さい。」
その後、リクは街を出て隠しておいたカールの亡骸を回収した。
「さ、行くぞ。カール。」
カールを担ぎ上げ、ローザの墓へ向かう。ローザの墓は街からは徒歩で約7日かかる場所だが、レベルが上がったリクが走れば馬よりも速い。また、人目に触れるわけにもいかない為に山道を進むことにしたが、それが幸いにもローザの墓への大きなショートカットになった為に、その日の深夜にはローザの墓がある墓場の前に到着した。
墓場に着いたが、中に入ろうとすると墓守に止められる。
「こんな真夜中に何しに来たんだ?墓荒らしか?」
「いや、違います。これを…」
「む?領主様からの許可証?」
ユーゼリウスが特別に用意した許可証を貰っていた。死を尊ぶアストレアス、「二人を同じ棺に入れる」というカールの願いを叶えるのに墓守の許可がいるだろうと、ユーゼリウスが持たせてくれたのだ。ちなみにこれは「ユーゼリウスから墓守宛の手紙」なので経験値にはならない。
しかし、墓守はよく内容も確認せず、
「あー、認められないなぁ~。ヴェラード様直々の許可が無いとなぁ~。」
「ヴェラードはもう死んでるだろ?現領主の許可があってもダメなのか?」
「そうだな。まぁ、『その他の何か』があれば…許可が出ることもあるかもしれなんがな、へへへ。」
「ほう、そうくるか。」
にこやかで丁寧だったリクは明らかな怒りの表情で墓守に近づく。
「ヒュ~、怖い怖い。儂は国から任されている墓守だ。死者を守る聖職者だぞ?つまり、儂に逆らうのは国に逆らう行為だ。儂に何かあれば『国が動くぞ』?やれるのかい?」
「なるほど、なかなかに中身が腐った奴だな。お前みたいなやつが墓守だったからヴェラードが墓暴きが出来たってことだな。ま、金があればなんでも動くなら話が早い。お前が望んでる『その他の何か』を渡そうじゃないか。」
リクは茶色の封筒を渡す。
「へへ、分かってんじゃないか。まぁ、ヴェラード様のような額は期待してないから安心しな。でも、儂が期待している額より少なかった場合は…諦めてくれよ?」
ニヤニヤしながら封筒を開ける墓守だったが…、そこには折りたたまれた用紙が入っていた。その用紙を開いてみると、人物名がズラリと書かれたリストになっていた。そのリストのタイトルは…
「『墓暴きに関与したと思われる人物リスト』…だと?!」
「ん?どうした期待していたものじゃないのか?」
「ま、まさか…『ブルダン』…わ、わしの名前がリストに?!」
「いや~、ヴェラードが変な殺され方をしたのは何か裏があるってね。現領主が色々調べてるらしいんだよ…」
「ま、まさか…」
「で、あんたがブルダン?もしかして関係者?あらー、死者を守る聖職者という立場の人が、こんなことしたら国に逆らう行為だよな~。おい、ここにいていいのかい?早く逃げないと、『国が動くぞ?』」
「ひ、ひぃ~~~!!」
ブルダンは慌てて逃げだした。ユーゼリウスが用意してくれた『ウソの処刑リスト』がこんなにも効果的とはね。ありがたい。
誰もいなくなった墓場でリクはローズの墓を見つけた。丁寧に棺を掘り起こし、その蓋を開ける。緋爪族の血統のお陰だろうか。亡くなってからかなり時間が経っているが、ローザはまだその姿を保ち続けていた。ただ、ローズルビーが無いローザはこのままカールと共に姿を変えていくことになるのだろう。ローズを端に寄せ、カールを棺に納める。
「カール、左腕が無くなってよかったじゃないか。ピッタリサイズだぜ。」
ギュウギュウ詰めだが、密着した状態の二人はまるで寄り添い、抱き合っているようだ。二人が入った棺を蓋をしっかりと閉じ、埋葬して手を合わせる。どれくら手を合わせただろうか?色々な想い出が蘇る。楽しいこと、辛いこと、沢山の想い出があり、そのたびにリクは笑みがこぼれたり、涙がこぼれたりした。
ふと気が付くと、太陽が顔を出そうとする時間になっていた。東の空はだんだんと青みを帯びてきていた。
「さて、これで任務達成だな。相棒。」
大切な存在を失ったリクだが、その気持ちはすでに切り替わっていた。同じ環境で過ごした人間でも、選択で違う未来に辿り着くことを知った。人生で一番大切なものを簡単に失ってしまうこともあるのだと知った。だからこそ、限りある人生を謳歌したい、リクはそう思った。
右手に、カールと最初に稼いだ時の思い出の銅貨を握りしめる。そして、左手にはカールも持っていた最初に稼いだ時の思い出の銅貨を握りしめる。カールを埋葬する時にカールのポケットから零れ落ちたコインだ。
「カールもこの銅貨を大事にしてくれてたとはね。ホント、お前はいつまでたっても相棒だよ!」
2枚のコインを空に弾き、右手で掴む。そして、強く握りしめる。そして、リクは決意を固める。
EXスキルを授かった時に言われた言葉を想いだす。
「神はリクが生きていくために最良のEXスキルを分け与えられる」
リクは誰よりも早く強くなれるEXスキルを手に入れた。だから、誰よりも強くなり、世界で一番『優しい冒険者』になると決めた。あの時ローザを守れたら、あの時カールを守れたら、そう考えたら後悔しかない。
だから、人を守れる人になって、『自分に救えるものは全部救ってやる!』と決めたのだ。
全部なんて無理だって?いや、きっと出来る。だって、リクは全部救うまで諦めない。そうカールに誓ったんだから。
リクの瞳に決意の光が宿る。口元には、自信に満ちた笑みが浮かび上がる。彼は昇り始めた太陽に向かって叫んだ。
「よしっ!!オレは世界で一番『優しい冒険者』になるぞ!!だから…誰か飯おごってくれーー!!」
― 第1部 完 ―
「自動EXP変換」がアイテムもお金もすべて経験値にしてしまうので、最強剣士は最弱装備のまま普通の生活すら送れません 夢野しっぽ @yumenoshippo
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