最終話 鬼さんとリア

「ナンダ?」


 不満そうな表情を浮かべて俺を見下ろす喋る魔物。

 アークデモンというのとは少し似てるが、それよりもずっと強そうだ。


「まさか……! 鬼さん!?」

「ああ。私がきた!」


 どうやらソロモンという初心者くんは俺を知っているようだ。

 何に感極まっているのか分からないが泣き始めた。


『うおおお! 鬼さん! 頑張れ~!』

『我らの鬼さん! 頑張れ~!』


 ん? うちの妹のリスナー達がいるのか?


「鬼ちゃん達でもいるのか? まあ、別にいいけど、これからもうちのリアの配信をよろしくな~」

『たまたま緊急連絡で付けたら鬼さんがいた!』

『鬼さん! やっちゃってください!』


 ドーンと鈍い打撃音が響き渡る。

 俺がコメントを見ていたら、喋る魔物が俺を殴ってきた。

 こいつ……見た目に反して(?)落ち着きがないな。


「おいおい。喋ってるんだから少し待ってろって」

「ナニッ!? オレサマノコウゲキガキカナイダト!?」

「はあ……ダンジョンの魔物ってこうもベラベラ喋るのか?」


 うちの地下ダンジョンの魔物は全然喋らないんだけどな。

 まあ、それはいっか。

 周りの壁、地面、天井から空気まで音を立てて震え始めた。

 喋る魔物の怒りによって震えているようだ。


「キシャァアアアアアア!」


 魔物が全身に禍々しいオーラを立ち上らせて、壁や天井を超高速で移動し始める。

 段々速度を上げた魔物が俺に向かってパンチを繰り出してくる。

 パンチが俺に当たる直前、時間が止まり、俺と魔物の目が合った。

 血走った目が中々だな……うちの妹が見たら泣き出しそうだ。こんなやつはさっさと始末するに限るな。魔物だし。

 魔物のパンチが俺に届く前に、軽めに魔物の顔面にパンチを叩き込んだ。

 大きな顔面がぐしゃっとなって、跳び回っていた時よりも遥かに速い速度で壁面に激突した。


「オ、オレサマガ……イチゲキ……ダ……ト……? コノ……アザゼルサマガ……?」


 魔物の身体が少しずつ塵となって消え始める。


「ニンゲンカイヲ……シハイスルトイウ……ワガユメガ……ココデ……ツイエルトハ…………」

「ん? もしかして、いつも変な魔物送るの、お前か?」

「ソ、ソウダ…………ダガソレモモウオワリ…………ワレノハイボクダ…………」

「そっか。悪いことしたら怒られるのは当然だからな。魔物なのに妙に賢かったけど、輪廻転生しても悪さすんなよ~」

「ガ……ハ…………」


 魔物はその場で灰となり散っていった。


 こうして、俺と魔物の激闘は――――


「鬼さぁぁぁぁぁん! で、弟子にしてください!」

「は?」


 ソロモン達が俺の前で土下座をした。


「弟子なんかいらん!」

「そこをなんとか! 荷持ちから雑用まで何でも頑張ります!」


 ん? 雑用? そういや、マコトくんが照明を持ってくれる人がほしいとか言ってたな。


「そっか。ならうちの社員として雇ってやる」

「あ、ありがたき幸せ~!」

『すげぇ~! ソロモンがフロンティア社に入るのかよ~!』

『あのレイルスター社も断ったソロモンが!』

『鬼さんすげぇ~! 強すぎる~!』

「おいおい。勘違いするんよ! 俺が強いんじゃない!」


 俺はカメラに向かって人差し指を指差す。


「俺の妹、セシリアちゃんが最強に可愛いんだ! 明日の配信を楽しみにしな!」

『リアたん~! 待ってるよ~!』

『リムちゃんもよろしくお願いします~!』

『リムリア☆彡 リムリア☆彡』

「リムリア……中々良い名前じゃないか! 採用!」

『リムリアおめでとう!』


 戦いを終えてダンジョンの外に出ると、大勢の警察やら消防やら救急やら集まっていた。

 何事かと思ったら、ソロモンがボコボコにされたから集まったらしい。

 何故初心者がああなったくらいでこんなに大騒ぎなのか。


「お兄ちゃん!」

「リア」


 妹を「リア」と呼ぶと顔を赤らめる。いつもながら可愛すぎる。


「お兄ちゃん、みんなを守ってくれて本当にありがとうね! ――――大好き!」


 抱き着いてきた妹の優しい香りに、妹の頼みを聞いて本当に良かったと心の底から思えた。






 こうして妹の頼みでイレギュラーとかいう魔物を倒して、うちに新しい社員が四人入った。

 中でも白い衣装の女性も初心者のわりには有名だったらしくて、妹とリムと一緒に組むこととなった。


 あれから三人でグループを組み、毎日ダンジョン攻略配信を行うことになった。

 日々リスナーが増え、いつの間にか配信探索者のランキングが一位になった。

 これは凄い快挙らしいが、妹が可愛すぎるので当然すぎる結果だ。

 レイルスター社の社長が言っていた、「セシリアちゃんを見せるために」ではなく、「セシリアを見るために」をもっとに、毎日配信を頑張っている。

 リムもソロモン達も毎日楽しそうに配信を手伝ってくれる。

 ソロモンに関しては修行を付けてほしいというから、地下ダンジョンに連れて回った。

 最初こそガキみたいにワンワンと泣いてたのに、それが一年もするとマシな顔になってきた。


 妹が高校卒業の日。

 優秀な成績を収めたからと卒業代表で挨拶をした妹の晴れ舞台は最高だった。

 配信も頑張ってるのに勉学も頑張るうちの妹最高だ!






「お兄ちゃん~」

「ん?」

「私、これからも配信アイドル探索者頑張りたい!」

「もちろん俺も応援するぞ。どこまでもリアの好きなように頑張るといい」


 満面の笑みを浮かべる妹。とても嬉しそうだ。


「そこでお願いが……あるんだけど……」

「ん?」

「その……えっと…………私ってお兄ちゃんの義妹でしょう?」

「お、おう……だがそんなことは気にしなくていい。リアはいつまでも妹なんだ」

「えっと…………妹…………だけなの?」

「えっ……?」


 妹が人差し指をツンツンと合わせる。


「えっとね? 義妹って…………結婚できるらしいの…………」


 ――結婚できる


 ――――結婚できる


 ――――――結婚できる


 ――――――――結婚できる


「お兄ちゃん!? は、鼻血! は、ハンカチ! お兄ちゃんが固まっちゃった!?」


 その日はそれ以上記憶がない。

 だが、数年後の俺はウェディングドレス姿のリアを夢で見たような気がした。



---------------------




【フロンティア社】リムリア最高スレ・Vol.6


34:名無し鬼ちゃん

最近レイルスター社、倒産したらしいな


35:名無し鬼ちゃん

>>34

配信者の収入巻き上げ、裏金、色々あったらしいね


36:名無し鬼ちゃん

>>34

リムリア誕生からあの会社聞かなかったけどそうだっていたんだな~


37:名無し鬼ちゃん

>>34

そんなことよりリムリア最高~!


38:名無し鬼ちゃん

>>37

それな


39:名無し鬼ちゃん

>>37

それな


40:名無し鬼ちゃん

今日のリムリアも最高だったな!


41:名無し鬼ちゃん

最近リムリアの影響か、配信開幕躍る探索者も増えたらしい


42:名無し鬼ちゃん

>>41

完全に影響されて草ww


43:名無し鬼ちゃん

>>41

流行りを産んだリムリア最高~!


44:名無し鬼ちゃん

そういや、最近リアちゃんと鬼さんイチャイチャやべぇよな


45:名無し鬼ちゃん

>>44

鬼さんの画角が神すぎて


46:名無し鬼ちゃん

>>44

わかる。リアちゃんの本気のアタックたまらん~


47:名無し鬼ちゃん

これからもリムリアが永続しますように~






――【完結】――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

配信中Sランク魔物をワンパンでバズりからの義妹アイドル生活!?~何でもワンパンする俺より金髪美少女義妹の可愛さに痺れろ!~ 御峰。 @brainadvice

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ