第11話 俺はちゃんと空気が読める話

「鬼ちゃん達~」

「配信見てくれて~」

「「ありがとう~!」」


 配信終了の時も、開幕同様に芝居がかった大げさな挨拶で閉める。

 コメントには無数の応援コメントから興奮したコメントが流れる。

 そして、妹とリムのコラボ配信は終わりを迎えた。


「楽しかった……」

「私も……」


 女の子はよく手を繋いで歩くのを見かける。妹とリムが手を繋いでこちらへ歩いてくる。

 か、か、か、可愛い過ぎる…………。

 思わず、配信が終わったのに写真を撮りまくった。

 マコトくん曰く激しすぎず、でも探索者として躍動感ある振付を考えたと言っていた。

 でも踊り自体では結構な体力を使う。その上で狩りまで行った妹はへとへとだったが、どこか清々しいくらい楽しかったようだ。


 その時、ダンジョン内の空気・・に淀みが感じられた。


「お兄ちゃん? どうしたの?」

「…………また空気が変わった。前みたいな気配がする」

「前みたい……って、アークデモンがまた現れるって?」

「ああ。あの木偶の棒みたいな魔物だな。それなのかは分からない。でも空気感からして、Fランクよりははるかに強そうだ」


 俺が感じてる空気感が正しければ、以前現れた木偶の棒と同等か、それ以上か。

 気配だけならCランクダンジョンの魔物よりも遥かに強いな。


「今回は一層ではなさそうだからいいか。帰ろう」

「待って! お兄ちゃん! 待って!」

「ん? どうした?」

「もし本当にイレギュラーが起きるなら助けないと!」

「…………」


 俺は妹の両肩に手を上げた。


「セシリア。助けたい気持ちは分かる。でも今のセシリアには荷が重いはずだ。今はゆっくり休んで――――」

「嫌ぁ! お兄ちゃん? イレギュラーっていつも大勢の人が犠牲になるんだよ? それに前回みたいなアークデモンだったら……ダンジョンにいる探索者全員が……死んじゃうかも知れないんだよ!?」


 それはその通りだ。多分Fランクダンジョンに入った連中では手も足も出ないはずだ。


「鬼さん。私も助けに行くべきだと思います」

「リム……」

「私達では役に立たないかもしれません。でも鬼さんなら助けることができるんでしょう? 私達が行けば助けてくれますか?」

「お兄ちゃん……お願い……」


 ――お兄ちゃん……お願い……。


 ――――お兄ちゃん……お願い……。


 ――――――お兄ちゃん……お願い……。


 ――――――――お兄ちゃん……お願い……。


 ぬおおおおおお! やらないでどうするんだあああああ! 妹の頼みなら全てを叶えるのが兄の宿命だろうがあああああ!


「リム。リアとマコトくんを連れて、外で待ってなさい」

「お兄ちゃん!」

「鬼さん!」

「俺は少し下に行ってくる。絶対に外で待っていてくれ。いいな?」

「「分かった!」」


 俺は深呼吸をして一気に走り出した。

 空気からして一層ではなく、ずっと深層だ。

 一層から二層へ、一気に通り過ぎる景色は変わり映えはしないが、ダンジョン内の空気の流れを読めば下層への階段なんて簡単に探せる。

 二層から三層へ、そして四層、五層、六層、七層にやってきた。


 七層に入ると濃くなった空気が俺の体を包んだ。

 魔物はまだ現れてはいないようだが、現れるまであと少しだろう。


 俺は幼い頃からずっと地下ダンジョンで筋トレを続けてきた。

 中学生の頃。友達ができずに悩んでいた俺は、とあるサイトで『友達ができない人が友達を作る一歩』という記事を見つけた。

 そこにはいくつかの方法が書かれていたが、イチオシというところに『空気を読む』と書かれていた。

 だから俺は必死に空気を読もうとした。毎日毎日空気を読み続けた。


 そして、俺は――――地下ダンジョンで空気が読めるようになった。


 ダンジョンにはちゃんと空気の流れがあって、生まれてくる魔物の場所も分かるし、何となくの強さも分かるし、ダンジョンからどれだけ強力な魔物が現れるのかすら分かる。

 まあ、ダンジョンの空気は読めるようになったが、何故かクラスメイトの空気は一向に読めなくて、中学校を卒業するまで友達はできなかったっけ。それはいまはいいか。


 そんなこんなで七層に空気をよどませた張本人が出現した。

 取り敢えず、そこに向かって全力ダッシュする。


「う、うわああああ! く、くるなああああ!」

「いやあああああああ!」

「誰か……助けて…………」

「お母さん…………」


 四人の探索者パーティーが見えた。どうやら配信中だったらしくて、スマホからは『逃げろおおおお!』などのコメントが大量に流れていた。

 さて……助けに――――――――と思ったその時。


「今すぐ助けるぞ!」


 と、馬鹿大きな声と共に、現れた魔物に向かって飛び蹴りをした男がいた。


「今日の運命は七層と出ていたが大当たりだったな!」

「ソロモン! そいつやばいよ!」

「臆するな! 我々は最強パーティー【フレイム】だぞ! ここで退いたら大勢の探索者が命を落とす!」

「まったく……占うんじゃなかったわよ!」


 男とメンバーなのか、白い神官服の女性と、黒い魔法使い服装の男、金髪のイケメン弓使い男が攻撃を始めた。


『す、すげぇ~! フレイムだああああ!』

『ソロモン頑張れ~!』

『フレイム頑張れ~!』


 フレイム……? ソロモン……? どうやら有名人らしいが、イレギュラーとやらで現れた魔物と激戦を繰り広げ始めた。

 と思ったが、激戦でも何でもなかった。

 あいつら、攻撃というのを何も分かってない。形だけ・・・の攻撃であの魔物に効くわけないだろう…………。

 わざと・・・攻撃を受けていた魔物は、卑猥な笑みを浮かべた。

 そして、殴りかかった男にたった一撃食らわせた。

 巨大な魔物の拳を全身で喰らったソロモンという男が吹き飛んでいく。


「ソロモンおおおおおおお!」

『おいおい……嘘だろう……ソロモンが……』

『フレイムの攻撃が一切効かない? は?』

『誰があんな悪魔を倒すんだよ!』


 その時――――魔物が笑い声を上げた。


「ギャハハハハ!」


 こいつ…………喋れるのか。喋れる魔物なんて初めてみたな。地下ダンジョンの魔物も強いのに喋るやつには会ったことないぞ?


「キサマラニンゲンドモナンテ、ゼンインクチクシテヤル!」


 ニホンゴジョウズデスネ。


 吹き飛んだ男が壁から出てきた。

 全身がボロボロになって、口から血を流しているが、中々のタフさだ。


「ま、待て……絶対に……いかせない……」

「ソロモン!」


 神官服の女性が魔法を使って男を治し始めた。

 ふっ…………回復魔法は妹の方が上だな。

 フレイムとやらはどうやら初心者の中で有名なパーティーらしい。

 大袈裟のコメントにちょっとワクワクしたけど、やっぱり予想通り・・・・あの魔物には手も足も出ないよな。だってこいつら弱すぎるもの。


「ダレカラクッテヤロウカ!」


 一瞬で移動した魔物が金髪イケメンを掴もうとした時、ソロモンが魔物に跳び蹴りをする。


「やらせねぇよ!」

「ソロモン! 連携いくぞ!」

「おう! アスモ! バル! 俺に合わせてくれ!」

「「了解!」」


 ソロモンが跳び上がり、全身に真っ赤な炎が灯る。

 そこに魔法使いの爆炎の魔法が放たれ、弓使いの青い光の矢が放たれる。二つが混じり合って青い爆炎となり、ソロモンと合体すると、全力でかかと落としを魔物に食らわせた。


「「「襲烈断撃極滅牙かかと落とし」」」


 青い炎が周囲に広がっていく。

 中々の熱気だった。が、魔物はまるで蚊にでも刺されたかのようにポリポリ掻く。


「コンナモンカ」


 次の瞬間、消えた魔物により、三人の男が殴られ吹き飛ばされた。


「ギャハハハハ! ニンゲンフゼイガ、オレサマ――――アザゼルサマニカナウハズモナイダロ! ギャハハハハ!」

「がはっ…………こ、このままでは…………」

「ソロモン! ど、どうしよう!」


 神官女があたふたしながら回復をして、ソロモンが悔しそうに拳を握りしめた。

 大声で笑う魔物の前にみんな絶望した表情を浮かべている。


 …………やはり妹の言うことは聞くべきだったな。もしここに俺が来なかったらこの場の全員は死んでいたのか。さすが妹は天使。聖女。女神。


 俺は大笑いしている魔物の前に立った。






―――――――――――――――――――――

 【あとかき】

 技名が決まらず、技名決めてくれるサイトでランダム引きで良さげなやつ引っ張ってきました……(´・ω・`)

 とりあえず、かかと落としと読んませてみましたが、興味ある方はぜひ音読みしてみてください(全く深い意味はありません)

 では空気をちゃんと読める鬼さんは次話で活躍できるでしょうか~?お楽しみに~!

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