第10話 アイドル☆始動の話
いつものF31にみんなでやってきた。
妹のあまりにも可愛らしい姿は天使そのものである。
となりには派手なリムが立っているが、百倍くらい妹の方がずっと可愛い。
『-配信が始まりました。-』
『天使?』
『は? 天使?』
『画面に天使が映ってるんだが』
『ここは天国?』
くっくっくっ…………
少し恥じらう妹と、覚悟を決めたリムが行動を開始した。
「み~んな~」
「ふろんてぃあ~の~」
「配信へ~」
「よう~」
「こそ~」
うあああああああああ。
あ……あっ…………。
うあああああああああああああああああ!
やっぱり天使だ。もう天使。最高すぎる。
ちょっと恥じらう姿もまた可愛らしい。最高!
『セシリアちゃん、復活おめでとう~!』
『リムちゃんとコラボ……最高かよ……』
『可愛さ天井突破しててやべぇ……』
『今の踊り最高すぎない!? 考えた人天才だから!』
ふふふっ……マコトくん。本当にいい仕事をしたよ。君は。
となりにいるマコトくんも嬉しそうに笑っていた。
そして、二人の――――踊りが始まった。
ここ数日ずっと踊りを練習していて、ダンジョン配信前に踊りを披露するという見せ方を思いついた。マコトくんが。
それに喜んで賛成した俺の後押しもあって、妹はずっと頑張っていた『人前で踊る』ということを叶える形になった。
妹に向けているスマホの上に『セシリアたんかわえぇ~!』とか『踊り最高~!』とか色んな応援コメントが流れる。
探索者になりたいと言った妹は、配信を見てくれる人を笑顔にしたいと言っていた。
人気者になりたいだとか、チャンネル登録者数が何人だとか、妹は一度も気にしたことがない。
一人でも増えれば嬉しいし、増えなくても見にきてくれる人を喜んだ。今まで減ったときはないので悲しんだりはしなかったが、減ったら酷く悲しむだろうな。
それくらい真剣に誰かのために努力する妹が眩しい。
妹はどうして誰かを笑顔にしたいんだろうか? あまり深く聞いたことはないが、妹がしたいことなら俺はできるだけ力になってやりたい。
マコトくんと一緒に踊りの練習も毎日頑張って、みんな帰った後、夜も鏡の前で練習していたし、それが実を結んで多くのリスナーを笑顔にしているはずだ。
あの会社のメッセージはいつも数字ばかりの連絡しか寄越さなかった。
そう思うと、フロンティアというプロダクションを設立してほんとうによかった。
これから妹達がやりたいように応援していこう。
マコトくんが流していた音楽が終わり、妹とリムの踊りが終わると、『88888』と無数のコメントが流れる。
さっきのリムへのコメントも多かったけど、それよりも多い。
「これからダンジョン攻略前はオープニングで踊ると思います! 応援してくださると嬉しいです!」
『一生推していくぜ~!』
『ダンジョン攻略前に踊るなんて天才すぎ!』
『こんなに華やかな攻略スタートがあるのか……神だ……』
「私はまだまだ弱くてまだFランクダンジョンなんですけど、これからも頑張りますので攻略配信も楽しんでください!」
『セシリアたん! 頑張れええええ!』
『応援するぞおおおお!』
『見守ってる! 俺達が付いてるから!』
「えへへ~鬼ちゃん達~ありがとう!」
コメントが大盛り上がりを見せて、ダンジョン攻略が始まった。
いつもの短刀を両手に握って、黒いウサギ魔物と戦い始めた。
飛んできた魔物を横に避けて斬るを繰り返す。
身体能力が低くて動きはまだまだだが、俺の教えを忠実に守っていて、しっかり集中して行動一つ一つを頑張っている。
一体倒して、表情を曇らせたまま、次の魔物がいないか周りを探し始めた。
――――焦っている。
それが分かるくらいには、妹は何かに焦っていた。
「リア~」
俺の声にハッとなった妹が振り向く。少し顔を赤らめている。
実は妹は「リア」と呼ばれると、ものすごく恥ずかしがる。
「
「え……がお?」
「そんな焦ったんじゃ
『そうだそうだ! 焦ったらダメだよ!』
『リアたん頑張ってもいいけど焦っちゃダメだ!』
『リアちゃん応援してるからゆっくり!』
「お兄ちゃん…………うん!」
ようやく笑顔になった妹はニパっと笑う。
ああ……やはり笑顔が一番だ。
それからの戦いはとても楽しそうに黒いウサギを倒しながら、倒す度にこちらに手を振ってくれた。
「それにしても彼女の才能が気になるわね」
「才能?」
「私は【二刀流侍】って珍しい才能なんだけど、リアちゃんの才能次第では戦い方があると思うから」
「確かにそれもそうだが、俺の考えは違うな」
「違うの?」
「ああ。仮に遠くから攻撃するタイプだとして、戦いで一番大事なのは――――身体能力。何があっても動ける体力だと思ってる。だから妹には他の戦い方があったとしても、全身を動かして魔物と戦ってもらってるんだ」
「そっか……」
「体力づくりは大事だからな。つまらなかったから先に帰っててもいいぞ?」
「ううん。リアちゃんは私の相棒だもの。相棒が来るまで見守るよ」
「そっか。妹も喜ぶよ」
リムは珍しい才能を持っていたのか。そりゃ刀を二つ持つわけだ。
でも今日はずっと一本だったのがちょっと気になった。
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