父憎し/短歌・俳句コンテスト二十首連作部門

赤屋いつき

父憎し

父憎し思春期ゆえと人は言う

春はとっくに十度過ぎたが


父憎し傘を片手に子を抱く

古い写真の私の顔よ


父憎し酔うて帰りし宵の日は

眠るわが子を起こして回る


父憎し酒に溺れた愚かさよ

物と怒号を投げる馬鹿者


父憎し息を潜めて時を待つ

皿の欠片が片付くまでは


父憎し機嫌を損ねはしないかと

道化を演じ石を演ずる


父憎しテレビの前で笑い合う

作り笑いをおまえは知らない


父憎し他言なさるな母が言う

世間体などなくなれば良い


父憎し身体の中の血液を

半分捨てたい半分捨てたい


父憎し癇癪持ちのきかん坊

悲しいほどに私は似ている


父憎し親に言うべきことでない

叱るあなたは幸せ者だ


父憎し誰が育てたと思ってる

母と先生と友人と犬


父憎し酒に焦がれたことがない

それが唯一感謝すること


父憎しおまえが死ぬのを待っている

不謹慎だと詰られたとて


父憎し花を贈ろう母の日に

父の日はただの休日ですから


父憎しニュースが告げる親殺し

私じゃなかった保証がないのだ


父憎し好意でさえも疎ましい

私の写真を飾ってくれるな


父憎し喪主ならやってやってもいい

たぶん私はサンバを踊る


父憎しいっそ知らないままでいい

同じ墓にすら居たくないこと


父憎しそれでもここまで生きてきた

私はきっとしあわせになる

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

父憎し/短歌・俳句コンテスト二十首連作部門 赤屋いつき @gracia13

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ