その頃二人は
ろくろわ
楓の扇子
私の部活の後輩、
男の子に可愛いと言う表現は褒め言葉ではないのかもしれない。だけど私の事を「
そしてもう一人の後輩、
きっと椿ちゃんは陽平君の事が好きなんだろうなぁ。
部活が終わる十八時。
部室を片付けながら私は陽平君に聞こえるような声で同級生で茶道部部長の
「牡丹ちゃん。今度の土曜日は私のお茶会にして大丈夫?」
「楓、大丈夫だよー!楓の誕生日だもん、いっぱいお祝いするからね」
「ありがと!さっすが牡丹ちゃん。楽しみにしてるね!」
部活中は物静かな牡丹ちゃん。
実は凄く声が大きく活発な子でよく運動部と間違えられる。そんな牡丹ちゃんと話している私の側に陽平君が来るのが見える。
「あのぅ、楓先輩って誕生日近いんですか?」
「そうだよー陽平君!四月二十日が誕生日だから陽平君も覚えてといてね!プレゼントはいつでも受付中だぞ。なんちゃって」
「分かりました!楓先輩、任せておいてください」
「こら陽平。楓へのプレゼントはちゃんとしたものにするんだぞ」
「分かってますよ部長。喜ぶもの探します」
そう言いながら陽平くんは軽い足取りで椿ちゃんの所に向かっていった。
牡丹ちゃんの声がしっかりと陽平君に届き、上手く誕生日が近いと伝えることが出来た。
私はきっと陽平君は椿ちゃんに私の誕生日プレゼントを相談するんだろうな、とそんな事を考えながら表情に出さないものの嫌そうにやり取りを聞いていた椿ちゃんに視線を向け微笑んだ。
土曜日。
部活が始まる前に陽平君が顔を紅くしながらプレゼントを渡してくれた。
薄いピンクの背景に紅葉した楓が描かれた扇子。
私は思わず笑みが溢れた。この扇子を選んだのはきっと椿ちゃんだ。椿ちゃんは負けん気の強い女の子だけど、陰口を叩いたり嫌がらせをするような女の子ではない。この扇子だって、薄いピンクは私のカラーではないけれど茶道の邪魔になるような色合いでは無いし、紅葉した楓も秋には丁度良い絵柄だ。今の時期には少し合わないだけ。
きっと私に直ぐに使って欲しくないんだろうなぁ。だからごめんね椿ちゃん、ちょっとだけ意地悪しちゃう。でもね、きっと椿ちゃんのためになるからねと、私は一人で小さく胸の中で呟いた。
「陽平君扇子ありがとう!すっごく嬉しいよ。そうだ、折角だから今日のお茶会で使ってみよっか」
「よかったぁ。楓先輩が喜んでくれて嬉しいです!」
「そうだ陽平君。プレゼントもらったお礼に明日暇ある?一緒に買い物に行かない?」
「えっ、良いんですか?」
「いこう!明日は九時に駅前集合ね!それじゃお茶会にいこうか」
私は陽平君の「はい」の返事を待たずに陽平君の手をとり椿ちゃんもいる茶室へと向かい、差し替えた扇子を目立たないようにチラリと椿ちゃんに見せた。
さて、明日の日曜日は陽平君にちょっと頑張ってもらうかな。映画に行ってパンケーキとかも食べにいって、それから雑貨屋にも。そしてそれとなく椿ちゃんの誕生日がもうすぐな事も陽平君に話さなきゃ。
私は陽平君からもらった誕生日プレゼントの扇子を見た椿ちゃんがキュッと唇を噛み締めるのを見ながら、やっぱり私は微笑み、そんなことを考えていた。
あれから数日が過ぎ椿ちゃんの誕生日の次の日、椿ちゃんは私が気付くように椿が描かれている扇子をそっと出して部活に取り組んでいる姿がみれた。
あぁもう可愛い。
私に陽平君を取られまいと私の誕生日プレゼントと同じ扇子を選ぶ所もそれをチラリと見せるところも。
私の部活の後輩、
そしてもう一人の後輩、
きっと気が付いていないのは椿ちゃんもだと思う。私は可愛い陽平君と私にやきもちを焼いている椿ちゃんが可愛いくて大好きなのだ。
だから椿ちゃんの可愛い所がもっと見たくて私は陽平君にちょっかいを出してしまうんだろうな。
扇子を大事そうに抱え、少し照れている椿ちゃんを見ながら私は温かく微笑むのだった。
了
その頃二人は ろくろわ @sakiyomiroku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
人見知り、人を知る/ろくろわ
★57 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます