大谷翔平vs藤井聡太
金澤流都
この作品はフィクションです(当たり前だ)。
「ついに歴史に残る戦いが始まります、『二刀流』大谷翔平と『AI越え』藤井聡太がついにあい見えることとなりました! 実況はわたくし花野でお送りいたします! 解説をつけたかったのですが野球でも将棋でもないので適当な人を呼んでくることができず、とりあえず地の文さんに解説をお願いしようと思います!」
いやそんなの託されても迷惑である。だがこの歴史的な一戦を解説できるのは、いち日本人として幸福なことなのかもしれない。
「ズバリ見どころはどこでしょうか?!」
WBCでの大谷選手の活躍は、多くの日本人に勇気を与えた。一方で藤井名人の七冠達成も、大いに日本を盛り上がらせた。その両者の戦いが、いったいどのようなものになるか、そこが一番気になる。
「では試合開始です! 先攻に大谷翔平、後手に藤井聡太……というのは、野球は後攻めが有利で将棋は先手が有利なので、それを相殺した、ということでしょうか?」
おそらくそうなのだと思われる。本来の力を発揮してしまうと日本が爆散する恐れがある。
【一回表 大谷翔平の攻撃】
「藤井聡太が和服にたすき掛けをして、マウンドに上がっていきます。球種はなんでしょうか」
藤井名人は居飛車党なので、おそらく2六歩だろう。あれ? 将棋盤の上では藤井名人が先手になっている。まあいいや、続けましょう。
「藤井名人の一球目です……おおーっと、脇においたポットからお茶を汲んで飲んでいる!」
藤井名人といえば初手お茶である。大谷選手は困惑しているようだ。今度こそ振りかぶっている。投じたのはやはり2六歩だった!
「大谷、すばらしいスイングで藤井名人の2六歩を打ち返し、ファンの詰めかけた2階席まで届くホームラン!!」
よくまあこんなイカれた勝負にお客さんが入るものである。さて、藤井名人はどう応じるだろうか。
【2手目 藤井聡太の手番】
大谷翔平がマウンドに上がる。藤井名人は扇子を持ってぱたぱたとあおいでいる。どうやらこの扇子で打ち返すつもりらしい。
「大谷選手のボールをですか?!」
さきほど藤井名人はボールを投げることで大谷選手に勝負をかけた。であれば大谷選手が、藤井名人に沿った形での攻撃をすることは明白である。ふつうに投球することはないだろう。
「なるほど……あ、藤井聡太が扇子を大きく広げました! 扇子には詰将棋が書かれています! 17手詰です!」
これを解かせる攻撃ということかもしれない。大谷翔平は将棋に詳しいのかは知らないが、17手詰ということはアマチュアなら有段者レベルではなかろうか。
「大谷選手が将棋に詳しいという話は聞いたことがありませんねえ……あっ、諦めたようです」
藤井聡太がダイヤモンドを一周する。1対1の白熱した試合運びである。
【試合は進んで9回表 大谷翔平最後の攻撃】
「各回一点ずつ取っていくという非常にシンプルな勝負になりました。まあ試合形式がこれだから仕方がないのでしょうが」
至高の肉体と至高の頭脳がぶつかるというのはこういうことなのかもしれない。藤井名人はおやつに「ぴよりん」とオレンジジュースを摂り、この回に備えていたようだ。
「大きく振りかぶって……これは△3一銀?! AI越えと話題になった3一銀だ!!!!」
オーっやったーっ!!!!
「大谷、打ち返せません!」
つまり次の回で藤井名人が点をとれば、サヨナラである。
【18手目 藤井聡太の手番】
「さて最終回ですが地の文さん、どういった展開が予想されますか?」
ここまで実力拮抗で試合は進んできた。しかし両者とも、熱戦で疲れも溜まっているはずだ。大谷はメジャーリーグの中継でよく見る、ヤバい色のスポーツドリンクをグビグビと飲んでいる。
藤井聡太もそう簡単には大谷翔平の一球を打ち返せまい。この試合は長引くのではないだろうか。
「藤井名人がなにか取り出しましたね……あっ、ニンテン⚫︎ースイッチです。『棋士藤井聡太の将棋トレーニング』が起動されています!」
まさかの一手である。大谷翔平は完全に虚を突かれた顔だ。
そのとき球場に、ちょっとモサっとした例の声で、「悩ましい手ですね」という声が響き渡る! 対戦モードの棋譜を解析したとき、悪手を指したところで言うセリフだ!
「対する大谷は高校生のころつけていたノートを取り出した! 体や心だけでなく善行を積んで運まで鍛えたあのノートだ!」
2人の視線が激突する!
「森林限界の手前です!」
「憧れるのはやめましょう!」
ドドドドドドドド……スタジアムが白熱していく!
ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!
「地の文さん、見事な爆発オチとなりましたが」
いや花野アナなんで生きてるの。
大谷翔平vs藤井聡太 金澤流都 @kanezya
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