案山子の青春
遠野 歩
案山子の青春
案山子の子 皆の期待を一身に 背負いて今日も 雀をにらむ
案山子の子 日がな一日 空にらむ 遠くの国で争い起こる
案山子の子 遊び相手は リスばかり あっちを齧られ こっちを齧られ
案山子の親 ある日突然いなくなり 途方に暮れて また日が暮れて
「東京」の響きに憧れ わけもなく 降り立ったのは 西国分寺
都会だと思って来たがこの辺は スーパーひとつ 「すき家」がひとつ
駅ビルに 案山子がいると聞かされて 会ってみたなら ペッパーくん
案山子の子 田を守りてその本分 此処には守るべきものがあるのか
案山子の子 日がな一日考えた 田を守るとは 人を守ること
アルバイト 配膳して調理して 夢中になって 汗を覚えた
新聞の勧誘 青年断れず アルバイト代 少しずつ減る
案山子の子 人混みの中 夢を見る 自分もいつかは 人として居る
終業時 気になる同僚 一人居る 今声掛けずに いつ声掛ける
初デート 海に行こうかどうするか 心配なのは 藁、濡れないか
「案山子なの?」比喩的な意味か ほんとの意味か 分からないまま 答えを探す
すれ違う きみのこころが分からない ぼくが案山子で 人じゃないから?
別れ際 鍵を返したきみの手が 野花のように 愛しく見えた
東京は ぼくには少し合わないと 握った切符 涙で濡らす
大家さん 餞なのだと金くれた 何も言えずに ただ受け取った
案山子の子 遠い山見て 決意する 人のこころを理解するまで
案山子の青春 遠野 歩 @tohno1980
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