不器用な雨
丸瀬まる
不器用な雨
ひっそりと降り出していた不器用な雨がわたしにそっくりだった
静寂が心地よくってかたつむりみたいに殻に閉じこもるまま
なんとなく先史時代をおもうときそこはいつでも晴れていること
入口があった記憶はないけれどずっと出口を見つけたかった
さざなみを立てないようにうつくしい息の止め方を覚えてしまう
夢で見た(ような気がする)瞬間に平気な顔であいさつをして
泳げないわたしのためにあったのにわたしが膨らませてる浮き輪
光らずに生きていけると知ってからラメのアイシャドウがなくならない
飲み干したはずの紅茶がまだなにか言いたげにカップの底にいる
すりガラスみたいにうまく見えなくてきみの気持ちを探しつづけた
鍵をかけてしまっておいた後悔はわたしのなかの永久凍土
ほぼオブジェみたいな固定電話にも話をしたいときがあるかな
お買い得コーナーで買った古本にだれかの恋がはさまっている
気づくのは眠ってたときではなくて目の前がテーブルだったとき
つかむのをあきらめた雲 遠くから眺めていれば転ばずに済む
なぜ目には見えない頭痛だったのにきみはわかってくれたのだろう
みじん切りされたら元に戻らないのはたまねぎも心もおなじ
意味のない呪文のようにつぶやいたペトリコールはギリシャの言葉
冷たさは触れてはじめて冷たさになってそれから痛みになった
だいじょうぶ 傘はなくても死なないし虹はすべての頭上にかかる
不器用な雨 丸瀬まる @maruse__maru
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