第5話 聖なる手榴弾

走る。

手足を振り、走るたびにアーマーに搭載されている人工の筋肉が伸び縮みするのを感じる。

うっそうとしたジャングルを無我夢中で走る。

背後から迫るは巨大な爬虫類…の頭部をもつ筋骨隆々の人間だ。

いや、あれは人間ではないのであろう。


「ね〜お願いだよ〜!!見逃してぇ〜!!」


自分の真横を走る男性が泣きながら懇願している。だが蜥蜴男リザードマン達は噴気音を上げるだけで足を止めようとはしない。


「アンタ、そうやって喋りながら走ってると舌を噛むぞ!」

「あぁそうだよ!!もう何回だって噛んでる!!でも喋って命乞いでもしてないと怖いんだよ!!」


お前が喋るせいでどんどん蜥蜴男の数が増えるんだよ!位置がバレバレだ。

なんでこんなことになったんだ…




蛇喰が説明を終えてから、数十分のうちにその場にいた者達は散り散りになっていった。

一人で去る者がおれば誰かと仲良くなり共に出る者。もちろん、朧ユウマは真っ先に一人で森へと入っていった。彼からすれば興味の対象はプレイヤーから王や、黒騎士テラトフォネウスへと移ったのであろう。

そしてエイジに声をかける者はやはり多かった。当然ではある。誰もが逃げ惑うしか無かった幽霊男、朧ユウマに対して渾身の一撃を決めたのだから。


「アンタすごいな、俺らと一緒に来ないか?」

「え…?行くってどこへ?」

「もちろん、王の討伐だよ!報酬の1000万は山分けだ!」

「何言ってるんだ!なぁ君、こいつらなんかより俺たちの所にこい!俺たちはプロゲーマーチームだ。1000万には一番近いぞ!」


どうしようか…、正直こいつら全員知らないしなぁ…。誰とチームアップしても同じではあるけど、等しく信用もできない。

いっそのことソロで攻略するか?いや、それこそ危険だ。ある程度は知らない連中と即席でチームを組んだとしても2〜3人は信用できる仲間が欲しい。


「ぎゃっ!?」


誰かが呻き声を上げた。

振り向くと、先ほどまで言い争っていた者の一人がうずくまっている。

よく見ると首に木の棒?のようなものが突き刺さり血が噴き出している。


「あっ?おいっ!大丈夫か!?うがっ!?」


どこからともなく槍が飛んできている。

辺りをぐるりと見回すと、投げた槍の持ち主が飛行艇の上に立っている。

更にその仲間と思われる者達も飛行艇の裏からぞろぞろと集まってくる。

装飾や肌の色に違いはあれど、みな筋骨隆々でそして爬虫類を思わせる頭をしていた。


「走れぇーー!!森へ逃げろぉー!!」


誰かが叫ぶと同時に弾かれたように全員森へと走り出す。

後ろからは蜥蜴男達の鳴き声のような雄叫びのような声が聞こえていた。





「クソッ!こうなったらもう戦うしか…」


でもどうやって!?レッドライン…?とかいういわゆる奥の手のようなものはさっき使っちゃったし、そもそも条件があるみたいだし、何も思いつかない…。何か武器でもあれば…、ん、武器…


「コンソーーール!!!」

「なんだよアンタ!!そんな大声上げたら位置がバレちゃうじゃないかぁ!!!」


そうだよ思い出した!コンソールの中に武器を選べる画面があったはずだ!幽霊男もそれで瞬時に銃を取り出していた!


「何か解決策があるの?」


前方を走っていた小柄な人物が声をかけてきた。声の感じからして女性らしい。


「コンソール!腕の!操作してるとインベントリ画面が出てくるからそこから武器!選べる!」


焦ってるのか異性相手で緊張しているのか全然うまく喋れない。ちゃんと伝わってるかな?いやいや、それより自分がどうにかしないと!


急いでインベントリを開く。

中には銃や剣など様々な武器がそれぞれのアイコンと共に羅列してある。

その中からおそらく長銃であろうアイコンをタップする。


「おおぉ…」


コンソールから光が照射され、3Dホログラムのように銃の形が形成される。

銃身やストック、グリップ等はパールがかった白をしており、トリガーなど所々の細かいパーツはオレンジ色でワンポイントになっている。

ずしりとした重たい感触はあの蜥蜴男共を追い払ってくれそうな、そんな頼もしさがある。


「うわぁ!銃!?いいもん持ってんじゃん!あのトカゲマッチョ共ぶっ飛ばしちゃってよ!」

「うん!」


くるりと後ろを振り向き、蜥蜴男達に照準を定める。引き金を引くと青い閃光と共に弾が発射された。


ギャアアアァァァッッ!!


「よっしゃ!その調子!ガンガンぶっ倒せ!」

「これなら!…ってあれ?」


弾が皮膚に突き刺さった蜥蜴男は悶絶している。だが、弾を逃れたものは恐れることなくこちらに向かってくる。


「え?え!?ちょちょちょっとぉ!?」


バチンッ


強力な刺突。間一髪銃身で直撃は防いだが、その衝撃で銃に穴が空いてしまった。中からはドロリと青い液体が流れ落ちている。


「うわぁ…これ、もう使えないかな……ッ!」


更に一撃、二度の刺突を受けた銃はもう使い物になりそうもない。

木の枝にツタのようなもので尖った石をくくりつけただけの原始的な、非常に簡素な槍は蜥蜴男達の人間離れした筋力により鉄すらも貫く強力な武器となっている。


「まさに一撃必殺だな…うぉっ!」


三度目の刺突を避け、コンソールを操作する。


「どうすんだよ!?」

「まずは聖なるピンを抜く…」

「え?」


先ほどの小柄な女性だ。手には手榴弾を持っている!?


「次に3つ数える。これは多すぎても少なすぎてもダメ。」


女性はピンを抜き祈るようなポーズをとる。

え?え?どういう意味?


「あとは投げつけるだけ!!」


爆風が当たりを包み込んだ。凄まじい爆音と閃光だ。直撃した蜥蜴男たちだけでなく風圧で僕らも吹き飛ばされた。


「そうすれば目障りな敵はくたばる…」


何故か彼女だけは吹き飛ばされずにポーズを決めていた。

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異世界侵略大作戦! おべんぶー @sbsbmanjugani_4

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