第4話 異世界侵略作戦

「ようやく静かになりましたねぇ」


なにごともなかったかのように蛇喰は言った。

ベータテストを辞退したい。そう伝えた大柄な男は全身の装備をロックされ、逃げることも出来ず朧ユウマという狂ったプレイヤーに撃ち殺され、強制ログアウトされた。


「まず皆様には伝えておきましょうか」


と、蛇喰。


「ここはパライゾ、我々GGIが社運をかけて作り上げたゲーム。そして皆様は、そんなゲームのベータテスターに選ばれた栄誉あるプレイヤー。ここまでが我々が用意したシナリオです」


シナリオ?どういうことだ…


「そしてここからが本当の話…。皆様が今立っているここはゲームの世界ではありません。」


え…?ゲームじゃない…?


「ゲームじゃないって言うならここは一体何処なんだよ!?」


プレイヤーの一人が声をあげる。


「そう慌てないで下さいよ。そうですねぇ…。皆様に馴染みのある言い方をすると異世界…とでもしましょうか。我々はこの世界を楽園『パライゾ』と呼んでいます。あぁ、ご安心ください、皆様をこの異世界に置いてけぼりにする為に連れてきた訳ではありません、ちゃんと目的があって皆様には来てもらいました」


蛇喰が腕を上げ、パチンッと指を鳴らす。

飛行艇から更にもう一つの映写機が飛び出し、ホログラムを映し出す。

それは透き通るようにあおい金属の塊だった。


「この世界にも石油や金などの様々な資源が豊富に存在しています。しかし、そのどれよりも素晴らしい資源がこの金属です。現地の住民はこれを魔石と呼んでいるそうですが、我々はこれを『マギアニウム』と呼称しています。これは非常に膨大なエネルギーを秘めており、ウランやプルトニウムなどの原子力に代わるエネルギーになると我々は期待しています」


更にもう一つの映写機が飛び出し画像を投影する。これは人間だろうか?純白の鎧を着込んだ騎士のような風貌だ。


「彼がこの世界の王、我々からすれば邪魔者です。我々は以前、王に接触、交渉を試みましたが…結果は散々。王により我が社から派遣した優秀なスタッフ15名は惨殺されました。その後、軍より兵士を借り、再度王の元へと向かいましたが…武装した兵士50人がかりでも王には一歩も及ばず、全員が死亡。パライゾへの突入を命じた我が国も報復を恐れ、全面撤退を言い渡しました」


絶句。みな、言いたいことは同じだろう。

冗談じゃない。そんなものを倒しに行けと言うのか…無理に決まっている。


「もちろん、皆様が言いたいことはわかっています。正規の武装した兵士でも王の足元にも及ばないという事実。そんな中、なんの訓練もしていない自分たちがまともに戦えるわけないと…そう仰りたいんですよねぇ?ご安心ください。皆様の身体は特別性の身体。我々は『アバター』と呼んでいます。皆様の本物の身体は我々のオフィスで横になっています。夢を見て、眠っているようにね。そして皆様の意識をこちらの世界に配置してあるアバターの中に入れております。アバターは現実の身体の5倍の筋力と骨密度です。耐久力やパワーだけで言えば兵士たちよりもポテンシャルの高い存在なのです」

「なるほどな…」


朧ユウマが声を開いた。


「要するに資源の採集のために邪魔な王サマをぶっ殺してこいってことなんだろ?兵士50人に勝った奴ならPKするよりも楽しそうだ」

「流石ですね、朧ユウマさん。しかし少し違います」


蛇喰がニコリと笑った。


「先ほども言ったようにこの世界はマギアニウムだけでなく、石油や金など様々な資源が豊富にあります。つまるところ…世界ごと…頂きたいというのが我々の本音、皆様にはそのお手伝いをしていただきたい。さしずめ…異世界侵略作戦とでもしておきましょうか」


一人のプレイヤーが前に歩み出た。


「それで…報酬は?まさか王討伐の1000万だけじゃないよなぁ?」

「もちろんです。討伐報酬の1000万とは別に日給20万円を支払いたいと思います!あ、ですが日給を受け取るためにはノルマもありますのでそこはご了承下さい!さっき殺したやつにもこの話してやりゃぁよかったな…まあいいか!それから、アバターは一人に一つまでです。作り出したコストのことを考えるとこれ以上誰も殺したくはないのですが、他に帰りたい方はいませんか?まあ、帰りたいと言ってもこの作戦が終了するまでは帰れませんけどね」


やっぱり帰れないか。なんとなくそんな気はしていた。多分他のみんなもそれは感じていたのだろう。ショックを受けているものはあまり多くない。


「皆様の腕の端末にマップをインストールしておきました。ご自身がどこにいるかはそれで確認してください。それから、こちらをご覧ください」


映写機から別の画像が投影される。

さきほどの王とは別の、黒い鎧の人物だった。


「王を守護する騎士、テラトフォネウスです」


黒い鎧の上からボロボロのローブのようなものを羽織っている。右手には彼の身長ほどはあろうかと思われる大剣クレイモアを持ち、その姿は王と同様の凄みを感じる。


「王には自身を守護する7人の騎士がいます。その中でも最も危険な騎士が彼です。彼は進出鬼没かつ交戦的です。そのことを踏まえればある意味では王よりも厄介な存在でしょう。」


皆様のレベルが上がるまではくれぐれも注意してくださいと、蛇喰は付け加えた。


「さて、ここまでがチュートリアルです。細かい内容は腕のコンソールでtipsを開き確認してください。我々は皆様に自由に楽しく侵略頂くことを心から望んでおります。ただいまより、異世界侵略作戦…開始いたします」


今日、僕たちの人生で最も長い一ヶ月が始まったのだった。


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