第3話 プレイヤーキラー
飛行機を出るとそこは、大小様々な木々が周りに生い茂る拓けた所だった。
緑色の木々の周りを色とりどりの鳥が飛び回り、空間に彩りを与えている。
これだけ見ると現実のジャングルに連れてこられたように感じるが、空を見上げるとそこが現実では無いことを思い知らされる。
鉄でできているというか機械の様な風貌の巨大な月が空に浮かんでいる。(まるでスターウォーズに出てくるデススターみたいだと思った)
これだけの現実離れした幻想的な世界を見せられたのだから、きっとログアウトのことなんて忘れてこの世界を存分に楽しんだのであろう。
頭が弾けて血が吹き出している死体さえなければ…
「なぁ…」
ぞくりと背筋が凍る。
低く覇気のない声。
マスクに隠れていて顔は見えないが、幽霊のような雰囲気の男だ。
「そいつ…さっき言ってたよなぁ…この世界は弱肉強食なんだって…」
幽霊は糾弾した男の方へツカツカと詰め寄った。
「言ったよなぁ…?PKされても文句いうなってさぁ…?」
「いいいや…そそそれはそそうだけど…!?」
ぐしゃり
幽霊の頭蓋が男の顔面にめり込んだ。
「あがっ…はぁっ…なんっ…で!?げぇむなのに…!?いだいっ!なんでっ…!?」
男は鼻から血をダラダラと垂らしながらのたうちまわっている。
「くたばれ」
ズガンッ!
幽霊の放った凶弾が男の頭に撃ち込まれた。
現実世界のものとは桁違いの威力のそれは頭蓋を砕き、その衝撃で内容物を炸裂させる。
「うぇっ…」
あまりにリアルなそれを見せられ、空っぽのハズの胃の中身が逆流しそうになる。
「またPKかよ…!?」
このゲームは実質1000万円の奪い合いだ。
だが、それもゲームをクリアすればの話。このゲームにおけるエンドコンテンツ、『王の討伐』。運営によれば一筋縄ではいかない難易度であることは予想できる。つまり、序盤はプレイヤーの数を減らすよりも情報を得ることができる人間の絶対数を維持することが攻略への1番の近道となる。
だからこそいたずらにその数を減らす、そもそもの序盤の協力関係を結べない者は…
「誰かソイツ殺せェーッ!!」
徹底的に排除されるだけだ。
「来いよ…皆殺しだ…」
再度幽霊は銃を構える。
いつのまにか、先程まで使っていたハンドガンではなく、長銃に持ち替えている。
その時、機内でのことをエイジは思い出していた。機内でずっとコンソールを弄っていた者がいたことを。
そうか、腕のコンソールだ!
確かこの中に装備品の欄があったはず。
「あった!装備品!」
ハンドガン、アサルトライフル、手榴弾までゲームでよく見る主要な装備が揃っている。
「画面にタッチすればいいのか…?」
「何やってる!早く逃げろ!!」
「え?」
目の前に幽霊が立っていた。
幽霊の手には先程の長銃が握られており、その口はこちらに向けられている。
「は…はろー…」
「バァイ♡」
その瞬間、激しい閃光と衝撃が身を襲った。
顔、腕、腹、全身に銃弾を感じる。視界の左端に見えるHPバーがぐんぐん削れ、色もグリーンからオレンジに変わっている。
「痛だだだっ!!」
死ぬほど痛い!!こんなん当てられ続けたらマジで死ぬ!!!
「クソ!」
エイジは腕を大きく振りかぶった。
その瞬間、上腕から拳にかけて血管のように張り巡らされたラインに赤い灯が点った。
「いい加減にしろ!」
幽霊の顔面に思い切り拳を叩き込む。
赤い火花のようなエフェクトが走り、凄まじい轟音と共に幽霊は吹き飛んだ。
その勢いのまま幽霊は岩壁に叩きつけられ、剥がれた岩と共に崩れ落ちる。警戒し、ファイティングポーズを取るが幽霊はぴくりとも動かない。
「倒した…のか…?」
とんでもない威力を発揮した右腕からはシュウシュウと煙が上がり、血のように赤い液体が溢れ落ちている。おそらく今の力の反動なのだろう。今の力をすぐに使おうとしても、少なくとも右腕は使えない。そんな予感がした。
「なあ、あんた…」
一人の男が声をかけてきた。
「銃で撃たれてたみたいだったけど大丈夫か?…っていうかさっきの力はなんだよ?」
「いや…俺も無我夢中だったから…、自分でも何がなんだか…」
さっきの力は明らかに強力すぎる。それこそゲームバランスを崩壊させるレベルだ。
「この力…明らかに調整ミスじゃ
「調整ミスなんかではありませんよ」
この胡散臭い話し方と声は…。
「蛇喰!?」
長身の黒いスーツを纏った男が立っていた。
よくみると先ほどまで乗っていた飛行艇に設置されている映写機のようなものから投影されている。
「皆様、我が社が開発したアーマーの着心地はいかがですか?中には既に機能を使いこなしている人もいるみたいでわたくし驚いちゃいました」
「あのすごいパンチのことか?」
冗談じゃない。あんなもの危険すぎる。痛みを感じる中であの威力。下手したらショック死するぞ。
「すごいパンチ?あぁレッドラインですか。あれは使いこなしているうちに入りません。アーマーのHPが減ると自動的に起動するシステムのひとつです。あなたじゃなくて彼のことを指しているんですよ」
蛇喰が指し示す方を見ると、そこには幽霊が立っていた。まるでダメージなどなかったかのようにピンピンしている。
「素晴らしい戦闘センスですね。
朧ユウマ…それがあの幽霊の名前か…。
「なぁおい!蛇喰さんよぉ」
大柄な男が声を上げた。
「出てきてくれたんなら丁度よかった。今回のベータテスト?悪りぃけどやめるわけにはいかねぇかなぁ?」
そうだ!色々あってログインしてからすっかり忘れていた。俺もベータテストの辞退をお願いしようと思ってたんだった。
「あぁ、俺も辞退したい」
「わたしも」
自分と同じ考えの者がチラホラといたのか、ところどころで声を上げている。
「みなさま…今回のベータテストは1ヶ月に渡る長期のプログラムになることはご納得されているハズですが…?」
「あ〜…それな…、覚えてねぇんだわ。多分今やめるって言った奴らもそうだろ?悪りぃけどよぉ、生活が苦しい中、1ヶ月もゲームしてらんねぇんだわ。というわけだからよぉ、頼む、現実に戻してくれ」
蛇喰は少し考え込むような素振りを見せたあと
「……かしこまりました」
そう言って腕のコンソールを操作し始めた。
なんだか嫌な予感がする。
ピーーー、全装備をロックシマス
突然手足が動かなくなった。自分だけではない、この場にいる全員がだ。
ただ、一人を除いて。
「?」
朧ユウマだ。ただ、彼も状況を理解していないのか辺りをキョロキョロと見回している。
「朧ユウマさん、彼はログアウトを希望しています。殺してください。こちらで死ねばログアウト可能です」
「は??!?」
朧ユウマは銃を構える。
「O〜K〜♡」
「嫌だっ!!やめてっ!お願いします!!やめっ!!」
舞い散る血飛沫を前に、僕らは見ているだけしかできなかった。
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