第2話 初日
目を開けて広がるはファンタジーの世界、ということはなかった。
窓のない金属製の壁と床、天井からは吊るされた電球がゆらゆらと揺れている。さらに壁を背に等間隔に並べられた椅子の上にはフルフェイスのヘルメットを被った、機械でできた白い鎧を着込んだ人が座っている。皆、自分と同じように困惑している様を見るに、恐らく周りからは自分もそう見えているのであることは想像に難く無い。
全員がプレイヤーだ。これから共にゲームを攻略していく仲間であり、ボス討伐報酬の1000万を奪い合うライバルでもある。観察しているとほとんどは戸惑う者ばかりであるが、中には余裕そうな態度で腕を組み堂々と座っている者、隣の席に座っているプレイヤーとおしゃべりをする者、腕についているコンソールを触る者、悲痛の声を漏らしながら貧乏ゆすりの止まらない者、千差万別だ。
「あの」
隣に座っている男性が話しかけてきた。
声の感じからして歳は40ほどか…?だが、その年齢にしては弱々しく、どこかおどおどしている。
「なにか?」
「あぁ、いえ、これどこに向かっているのかなぁと思って」
「どこにって言われても…」
あぁそうか。
先程から時折、ガタガタと揺れを感じていたのだが何処かに運ばれているなら納得だ。
だがそれはいいとして…
「うーん」
「どうされましたか?」
隣の男性から問いかけられる。
「実は、ログインして早々ですけど今回のベータテスト、辞退させてもらおうと思ってまして…、運営に直接連絡を取る手段を探しているんですけど、全く見つからなくて」
腕のコンソールを弄ると、視界に様々な情報が広がる。ステータス、レベル、ヒットポイント。だが、肝心の問い合わせが何処にも出てこないのだ。
「わぁ、すごい!ファンタジーかと思いましたけど、案外SFな世界観なのかもですね」
男性もコンソールをポチポチと触り出したが、悦に浸っておりあまり役に立たない。
さて、どうしたものかな。
「ちゅうもーく」
中央付近に座っているプレイヤーが突然声を上げた。
「えー、みなさん!どうもこんにちは。おそらくご存知かと思いますが、私は『ゲーム・アニメ毎日速報』管理人のめめもりと申します」
しんと静まり返った中でプレイヤーは自己紹介を始めたが、ほとんどが誰?やなんだあいつ?といった様子で困惑している。(ただ、中には「おぉ!めめもり氏もパライゾに!?」と、プレイヤーを知っているものもいた)
「静粛に!みなさん、静粛に!まったく、これだからミーハーは困りますな…。私から2点、重要なお願い事があります!」
重要なお願い?グリード社の関係者か?
おそらく他のプレイヤー達もそう思ったのか、おしゃべりをしていた者達も黙ってめめもりが話し始めるのを待っている。
「まず1点目、わたしと共に同行し、王の討伐を補佐するメンバーを募りたいと思います。共に報酬の1000万を獲得しに行きましょう!次に2点目、わたしに協力しないプレイヤーに忠告です。わたしの邪魔をするものには容赦しません。もしも邪魔をしたならば、この1ヶ月間まともにプレイは出来ないものと思っていて下さい」
驚いた。こいつ関係者なんかじゃない。ただの
機内を見渡すと多くのプレイヤーは好ましくない反応を示す者が多い。
だが、
「無論!めめもり氏に協力いたしますぞぉ〜!」
「めめもり氏といえば、様々なゲームをやり尽くしたゲームのプロフェッショナル!1000万も夢ではないですな!」
4〜5人ほどではあるが同行の意思を示す者がいる。思ったよりも支持する声が多い。
「ふっふっふ〜、まずは5名確保。フィールドに出た後も仲間を募ります故、今言い出せなかった者は後で遠慮なく声をかけて下さいね〜」
ちなみに〜、とめめもりが付け加える。
「この世界、弱肉強食ですからね。PK〈プレイヤーキル〉されても文句は言わないように」
めめもりの発言で機内にピリピリとした空気が流れる。
すると突然、
ピンポンパンポーン
張り詰めた空気を掻き消すように機内アナウンスが流れた。
「アテンションプリーズ、当機はまもなく着陸致します。しばらく座ったままでお待ちください。
着陸後、武器のロックが解除されます。モンスターと戦う際は、残弾数に注意しましょう。
それでは!よい旅を!グッドラック!」
どうやらここは飛行機の機内だったらしい。
気流によるものだろうか?上下に少し揺られる。
「ようやく着陸ですね!どんな世界が広がっているんだろう!」
隣の男は待ちきれないといった様子で小躍りしている。運営と連絡を取るのはひとまず難しそうだ。まあ、初日ぐらいは観光気分でゲームを楽しむのもいいかもしれない。ログアウトについては明日以降考えよう。
着陸の衝撃を身体に受けたあと、シートベルトのロックが解除され、飛行機のハッチが開いた。
ゲームの説明中のことも含めると身体の自由が効くのも数時間ぶりだ。外に出たら一度、顔を覆う仮面を外して伸びをしよう。
期待に胸を膨らませ、機内から足を踏み出し外に出た瞬間、
ズガンッ
大きな音が鳴り響き、少し遅れてどさりと重いものが地面に落ちる音がした。
「えっ…?」
衝撃的な光景だった。
先程までスピーチを行っていためめもりが頭から脳髄をぶち撒け、地面に倒れ伏していた。
手足はその衝撃からか反射神経によるものかはわからないが、ぴくぴくと痙攣している。
「あ、ああああんた!!!ななななにやっててんだ!!!」
めめもりを支持していた者の一人が震えながら声をあげる。糾弾されている男の手には一丁の拳銃のようなものが握られていた。
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