第23話 かつての魔王 2/3



───アルマリア歴3971年

───魔王城 廊下


ラーゼロンが魔王の役職に就く前の話。

幹部候補生として部隊を率い、初の戦場から戻ったラーゼロンは、酷く狼狽していた。


「違っていた…。教えられた事の何もかもが…」


「ラーゼロン…」


そんなラーゼロンを気遣う魔族の女。

水色の肌、銀色の長い髪。

幼馴染のソニランだった。


「ソニラン…、お前は知っていたのか? 我より先に兵役に出たお前は…」


「………」


「人族は感情を持たぬ冷酷非道な種族…、ではなかった…。人族にも、心があった…。守るべき家族の為に戦い、信じる友と共に命を懸ける…。他者を思いやり、共感し、痛みを感じる…。我ら魔族と同じ心を持っていた…!」


「ラーゼロン…」


「我はもう……戦えない……」


その場でうずくまるラーゼロンを、ソニランは優しく抱きしめた。


「大丈夫…。大丈夫よ、ラーゼロン…。あなたはもう戦わなくていい……。私がなんとかするから……」


「ソニラン…?」


「私が参加する、今度の王都奇襲作戦…。人族にはバレてるけど、魔王様はそれを逆手にとり、魔王様自ら本隊を率いて援軍に来るんだって。そこでこの戦争に終止符を打つ…。だから、私に任せて…。ラーゼロンが戦う事はもうない…。この作戦で全て終わらせるから…」


「……ソニラン。…我はこれ以上、お前に人族を殺して欲しくないし、お前を失いたくない…」


「大丈夫…。これが最後の戦いだし、魔王様が来てくれるんだもの。必ず人族は降伏勧告を受諾するわ。そうすれば、もう魔族も人族も戦う理由が無くなる…。平和が訪れるわ」


ラーゼロンは懇願するように小さく呟いた。


「……ソニラン、どうか無事に帰ってきてくれ」


ソニランは一層強く抱きしめ囁いた。


「……ええ、ラーゼロンを残して逝くわけないじゃない」



──────────────────────────────────────



───アルマリア歴3971年 王都奇襲作戦 失敗後

───魔王城 魔王の間


「魔王様!! 魔王ビラン様!! 何故です!! 何故援軍を出さなかったのですか!!?」


激昂したラーゼロンは魔王の王座に詰め寄った。


「あンらァ? どうしたのかしらン? そんなに怒っちゃってェ」


魔王ビラン。

創生の神アルマリアに匹敵するという歴代最強の魔王(男)。

紫色のホッソリとした長身の肉体。長い手足、派手な装飾。

異様な威圧感を放つその姿、独特な言葉遣いに、ラーゼロンは一瞬怯んだが、すぐに持ち直し食って掛かる。


「…どうしたかですと!? それはこちらの台詞です!! どうして援軍を出さなかったのですか!? お陰で奇襲部隊は全滅だ!! ソニランも……、殺されてしまった…!!」


「あーー! その事ォ?! だってェ、援軍出してたらァ、王都、落とせてたでしょお?」


「…!? そうです! 我々の勝利で戦争が終決していたはずです!! それなのに何故!?」


「だからよォ」


「は?」


「戦争が終わっちゃうじゃなーいのよーゥ!」


「!??」


意味が分からない。

ラーゼロンは心の底からそう思い、それが顔にも出ていた。


「奇襲部隊に選抜した面子ってェ、ちょっと優秀過ぎ?っていうかァ? 戦況が魔族側に傾いてきたから掃除したのッ✩」


「は??? え???」


「え??? 逆に、え???」


「魔王様は、戦争を終決させる気が無いのですか???」


「ウフ♡ ココだけの話……ソーなの♡ だって平和な世の中って、刺激が無くて、退屈なんだもン✩」



「…貴様ァッ!!」



ラーゼロンは両手に魔力を込めた。

しかし、それを察知したビランが先に動いた。


「あらァ、ダーメよダメダメェン!」


「うわっ!!?」


ビランの手から放たれた魔力の塊に、ラーゼロンはぶっ飛ばされ壁に叩きつけられた。


「アンタってェ、門の血族よねェ? アタシに挑むならそんな貧弱な魔力じゃなくてェ、魔宝具『隔絶の衣』ぐらい持って来なさァい?」


「う…ぐっ…」


「もっとも、隔絶の衣の弱点も知ってるんだけどネ✩ 精神攻撃は通るっていう致命的弱点♡」


「…うぐっ、ふぅ…!」


ラーゼロンはよろけながら立ち上がった。


「さっ、もうお家に帰りなさい? もっと強くなったら遊んであげるから♡ チュッ♡」


「…後悔する事になるぞ!」


そう捨て台詞を吐いてラーゼロンはその場を後にした。


ビランは「こわっw」と嘲笑った。


魔王城の廊下を踏み鳴らしながら、ラーゼロンの頭の中はビラン討伐一色に染まっていた。

(魔族と人族の平和の為にも、ビランは倒さねばならぬ! だが、我の実力では到底敵わぬ…! 隔絶の衣も通用しないとなると…)


そこまで考えて、ラーゼロンはある方法を閃く。


(…いや、我が門の血族に伝わるのは、隔絶の衣だけではない…! あの禁断の魔宝具……『箱庭』なら……!)

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異世界魔王と七不思議 ~現代日本最強の七不思議 vs かつて江戸を壊滅させた最強最悪な七人の悪霊~ ぽにちっち @poniti

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