愛しい嫁(ユリシーズ視点)

 ※おそらくニヨニヨ不可避ですので、電車など公共の場での閲覧には、十分にご注意ください(言いましたよ。言いましたからねっ)!




 ◇ ◇ ◇


 


 眠れない夜に、中庭のガゼボでひとりで飲んでいたら、たまたまやってきたセラ。

 一緒に飲むかと軽く誘ったら、遠慮なくごくごく飲みやがって……このワイン高いんだぞ……と思っている内に出来上がった、見事な酔っ払い。


「おま、飲みすぎんなよ?」

「おいひー! なにこれえ?」

「ワインだっつの」


 セラはごくん! とグラスの中身を飲み干したかと思うと、びたりと肩をくっつけてきた。

 近いな? と思う間もなく、

「えへへ~! りしゅ~」

 と俺の肩に頭をグリグリなすりつけてくる。

 

「りしゅ? ってひょっとして俺か? なんだよ。……!?」


 セラは、ばちんと人の顔を両手でいきなり挟んだかと思うと、うっとりとした顔で言い放つ。

 

「かあっこいい~~~~」


 

 ――ぶっ!?


 

「あ!? おっまえ、何言って……」

「かあっこいいねえ~~~うふふふ。あしの! だんなしゃま!」


 

 あー駄目だ。この酔っ払いには、恐らく何を言っても無駄だろう。

 

 

「おうおう。どうせ明日にゃ全部忘れんだろ。もう好きにしろ」

「しゅき? あしも、しゅきぃ~~~~!」

「は!?」


 

 こいつ今、好きって言ったか!?

 


 じっと俺の顔を覗きこむセラは、さわさわと頬を撫でながら、にこにこしている。

 酔っ払いめ。いい加減寝かすかと思っていたら、 

「りしゅー」

 とまた舌ったらずの声で呼んでくる。

 

「なんだよ」

「ね。ちゅーして」

「ちゅー? てなんだよ?」

「ちゅーうー!」


 

 両手で人の顔を挟んだまま、口をとがらせてみるみる近づいてくる。

 あ、キスのことか? と気づいたときにはもう遅い。口と口がくっついていた。


 

「!? くっそ。なにして……今すぐ押し倒すぞ! けどだめか……ああ? 嫁だぞ? 嫁なのに我慢するとか訳がわかんねえなっ! なんだこれ! 俺か! 俺のせいか! 俺のせいだな! ああーーーくっそ!」

「んふふふ。みけんにしわーーーー」


 当の嫁は、無邪気におでこを人差し指でつんつんしてくる。

 

「おーまーえーはーーーーーー!」


 たまらずガバッと抱き上げて膝に乗せた。

 横抱きにしたので、セラは俺の首に両腕を回して上半身を支えながら、ケラケラ笑う。

 

「にゃー! おこった? んっふ。おこった顔もね、かあっこいいねえ~~~んふふふおひげーーーー!」


 

 能天気に頬をすり寄せてくんじゃねえ!

 あーもう! 俺は決めた。決めたぞ。こうなったら、全部聞き出してやる。

 

 

「セラは、俺の顔が好きなのか?」

「しゅきー!」

「顔だけか?」

「んーん」


 

 顔だけだったらむなしいが、好かれてるだけ良いか。

 ……酔ってるくせに、一生懸命考えてるな。なんだこいつ。可愛いぞ。

 

 

「あとはねー、きんにくとー、においとー、しゅごいかしこいー! でもいちばんはねー」


 

 なんか急にもじもじし始めたぞ。頼むから膝の上でもじもじすんな。色々やべえから。


 

「しゅっごい、やしゃしいとこ。だいしゅき。えへへへ」


 

 あーーーーーーーーくっそ! くっそ!!!!!!!!!!!

 理性焼き切れるかと思ったぞこいつ……どうしてくれよう。


 

「りしゅ……」

「ん?」

「もう、ちゅー、しない?」



 そんな不安そうに見るな。たまらなくなるだろ。

 

 

「……する」


 小さくてピンク色の唇は、月光の下ではその色が分からない。

 代わりに、首元をもう覆っていないセラは、瞳も肌もキラキラと輝いている。もしも月の女神がいるのなら、こんな感じだろうかと錯覚するぐらいに美しい。

 

 頬に指で触れてから、そっと顔を近づける。柔らかい唇を軽く吸うと、リップ音が響いた。

 彼女の細い腰を抱き寄せ、もう片方の手でうなじから肩にかけてある鱗を撫でる。ひんやりとして少し湿ったようなそれらは、セラが身じろぎをする度に月光を反射させる。

 

 静寂の中で、何度も口を合わせ、唇を吸う。角度を変えて吸っては、また戻して。開いた口の間から舌を差し入れて、歯をこじあけて、奥で控えめにしていた舌を見つけ出し――深く絡める。


 ふたりが交わす小さな水音だけが中庭に響いて、俺の頭の芯はすっかり痺れていた。


「はぁ……」


 零れ落ちるなまめかしい吐息も。あふれる気持ちを隠さない、濡れた瞳も。芯まで火照った体温も。――すべて、俺だけのものだ。


 首筋に舌を這わせると、軽くのけぞって短い嬌声を発した後、潤んだ瞳でまだダメ、と小さく言われる。

 ほんの僅かだけ残っていたセラの理性が、きちんと俺を止めてくれたことに感動した。

 

「ああそうだな。この先は、きちんとしてからだな。……愛してるよ、セラ」


 すると、安心したかのように微笑んでから目を閉じ、俺の腕の中で眠りについた。



 ――っていうのが、俺の嫁だ。可愛くて愛しくてたまらないだろ?





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 お読み頂き、ありがとうございました。

 作者史上最大級の甘々、いかがでしたでしょうか。


 リスも、酔っ払ってます。酔うと饒舌じょうぜつになるタイプなんですねー。

 

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