第8話 異世界転生

お姉ちゃんが朝、起きて来ないので、お母さんが部屋へ起こしに行くと悲鳴が上がった。


警察やら救急車やらが次々にやって来た。私は物語を観ている様にただ、ただ茫然と眺めていた。

司法解剖が行われた。


死因、ストレス性心臓マヒ


お姉ちゃんのスマホには、訳が解らない脅迫じみたメールが1日に数十件入っていた。


裁判中の女性からだった。


お姉ちゃんは微塵も辛さを見せなかった。


あの時ゲームなんかやらないで話しを聞いてあげれば良かった。

最後に会話をしたのは私だけだった。


こんなバカなヤツらのせいでお姉ちゃんが亡くなったなんて。


私は両親にお願いをして、大学に転学部届を出して入学試験よりも高得点で無ければ認められない転学部試験をパスして法学部へ移動した。お姉ちゃんが亡くなってからゲームを封印した。


必死に勉強して、司法試験も合格して、私は検事になった。

検事になって三年後に大学から付き合っていた弁護士になった彼と結婚した。


子供も女の子と男の子に恵まれて順風満帆だと思った。


小学5年生になった娘が物置から見つけたゲームをまた二人でやり出した。


当時は、こんなゲーム何処が良かったんだろう。


なんて思っていた。

娘は隠しキャラの所迄進めていた。


隠しキャラは王太子イグニスの弟でイグニスを選ばない時イグニスが闇落ちして、幽閉になる。そして出て来るキャラだった。


普通ではどうやっても出ないはずたわ。


謎は解けた。


って感じだった。でも昔みたいにキャーキャーする程でもない。本当に静かな感じだった。


仕事終わりに、家族へのお土産にケーキを購入して歩いていると、後ろから人が走って来る音が聞こえたので、端へ寄った。

ドスっとぶつかる音がした。

端に避けたはずなのに。


周りから悲鳴が聞こえた。

足元には血がポタポタと落ちている。腰にはべったりと濡れた感触。

振り返ると、夫の女友達が血で汚れたナイフを握りしめて、歪んだ顔で私を見ていた。


「早く離婚してくれないからよ!ざまぁみろ!」


この時やっと悟った。


夫がずっとこの人と浮気をして居たんだ。


と。


可笑しいとは思い何度も聞いた。月に数回土日に泊まりの出張何て弁護士であるのかって。

事務所に聞いても出張はして居ないと言う。はぐらかして、逃げて結果、私がこんな事になるのか。


言ってくれたら。離婚考えたのに。


娘と息子は大丈夫だろうか。

お父さん、お母さん、お姉ちゃんも亡くなっているのに。


親不孝でごめんなさい。


次に目を開けた時には、豪奢な部屋のベッドの上だった。


手を見るとプニプニしていて小さい。髪を掬って見ると黒髪ロングヘア。


小さなノックの後、扉をそっと開けて覗く顔はそばかすがあり、明るい茶髪の天パのセミロングを一つに纏めた女の子だった。


「お嬢様。起きていらしたんですね。今日は特別な日ですから頑張りますね。さぁ、お顔を洗ってお支度致しましょう。」


片腕に桶を持って扉を開けてスタスタと元気良く入って来た。


「貴女、誰?」


女の子は目をパチパチと瞬かせて私を見た。


「お嬢様、私をお忘れですか?ネモフィラですよ。」


ネモフィラ…。聞いた事がある。花の名前だけど、違う!王太子イグニスの婚約者で悪役令嬢のアンセリウムの侍女だ。


私はベッドから飛び降りてドレッサーの鏡を見た。


黒髪にアメジストの瞳


アンセリウムのビジュが鏡に映し出されていた。


転生もの…

夢じゃないの?


そんな事をぐるぐると考えている間に、ネモフィラは、私の口にサンドイッチを入れたり、オレンジジュースを飲ませたりしながらドレスを着せて支度を終えた。


鏡を見ながら最終チェック。


ネモフィラは優秀だわ。


鏡を見て感心してしまった。


玄関で待っている中年男性の顔を見る


あのビジュはアンセリウムの父親だわ。


「お父様、お待たせ致しました。」


それらしく、声を掛けてみた。


「こんなのは待ったうちには入らんよ。さぁ行こうか。あちらは流石に待たせる訳にはいかないからな。」


父親にエスコートされて馬車に乗り込んで向かって先は、王宮。


と、するなら今日婚約するのかな?


ゲームではイグニスとアンセリウムの婚約は出て来ない。

父親と手を繋いで歩いていくと、扉の前には、騎士が左右に立っている。騎士達が、扉を引くと中には3人立っていた。


少し気弱そうな優しい顔をした男性とピンクゴールドの髪を緩やかに巻いている美女としっかりと背筋を伸ばして虚勢を張る様に立っている男の子。


美女にどうしても目線がいってしまう。

美女の後ろに蜃気楼の様に見える人。


「お姉ちゃん!」


父親も男性も男の子も一斉に私を見た。


「ごめんなさい。少し2人だけでお話しさせて頂けないかしら。」


美女と一緒に居た男性と男の子は父親と一緒に出て行った。


ちは心配そうに何度も振り返っていた。


完全に2人の空間になると、


「花音なの?花音がぼんやり見えけど。」


「やっぱりお姉ちゃんだよね!私にも見えるよ。ぼんやりと。しっかし…。美人だね。お姉ちゃん。」


「花音も美少女だよ。」


2人で泣きながら抱きしめ合った。

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