第5話 反逆罪

「ミラダス暦27年8月10日カトレア嬢のご婚約者でデンドロビューム侯爵の次男ステファン様とリリー嬢学園3階の空き教室にて、11時より、ん、う、うん、だ、男女の、睦み合いを1時間行い、イグニス王太子と裏庭で密会をした後、2階空き教室にて、グラマト嬢の婚約者であるアルストロメリア侯爵三男であるオーヘン様と、ゴホン、睦み合いを2時間その後帰宅されて、3時間後にお着替えをされてから、街の宿屋止まり木203号室にて、ファレノプシス嬢のご婚約者であられるオンシジウム伯爵ご子息のエネン様と2時間の睦み合いの後、ご帰宅後就寝されました。ミラダス暦27年10月25日10時ミディ嬢のご婚約者パフィオ公爵次男エンバー様と空き教室で、…ん、ゴホン、睦み合いが2時間程あり、昼食後に裏庭でイグニス王太子と…。」


迄言うと、いきなりイグニス様が


「あーっ!もう良い。解った。解ったから。僕達が間違っていた。そうだな、みんな。」


イグニスは慌てて側近候補達を首をブンブン振りながら見渡すが、皆さんは項垂れて床に視線を落としていた。こんな学園の卒業プロムの学生が皆集まった場所で、婚前交渉をバラされてしかも、仲間が違う意味での仲間であり、兄弟と言う呼び名迄ある位のものをバラされたら、恥ずかしくて居られないだろう。ただ、イグニス様、理解されているのかは定かではない。

だって彼は昨日彼女に言っていた。


『余り他の奴らとは仲良くするなよ。こういう行為は特にだ。解っているよな?』


しかし、蓋を開けてみれば、1日ほぼ行為に耽っている。大丈夫なのだろうか?

まさか、お腹に…なんてないわよね?


王妃殿下は、影に続きを促すと、イグニス様より身分上の王妃殿下の意に沿い頷いて続けた。


「昼食後、イグニス王太子様を引きずって3階空き教室迄連れて行き、睦み合いを3時間程行い、その後、教室へ鞄を取りに行き、グラマト嬢の婚約者であるオーヘン様と2階空き教室で1時間睦み合い、帰宅。帰宅後3時間後に街の宿屋止まり木の203号室にてカトレア嬢の婚約者ステファン様と2時間睦み合い帰宅後、就寝。となっております。この日からイグニス様との睦み合いは毎日の日課となり、必ず何処の時間で…。となりました。」


「言い難い事をありがとう。さて、リリー嬢、わたくしも、ここ迄したくは無かったのよ。でもね、卒業プロムは一生に一度しかないのよ。卒業生は。それを中断させて断罪式にしたのだから、自分にも相応の覚悟はあったのでしょう。」


「か、覚悟?」


リリー様は、全く理解をされていない様だったが、王妃殿下は、諭す様に続けた。


「これは、ハニートラップによる反逆罪よ。解らなかったのかしら?」


「は、反逆!?」


「だって、王太子であるイグニスを身体を使って、いい様に洗脳して、自分の思う通りの国にしようとしたでしょ。」


リリー様は、首を左右に大きく振りながら違う違うと叫び出した。


「だって、ここは、ゲームの世界で、私はヒロインだから、皆が私の思う通りになってくれて、愛を大好きな推しの声優が語ってくれる世界だもん!」


「違いますよ。ゲームだなんて。ここはフローラル国で皆んなはこの国で現実的に生きているのです。貴女の為に、生きている人なんて1人もおりません!」


リリー様は膝から崩れて落ちて両手を床に付いて、身体を支えていた。


「陛下。約束ですよ。」


ああ。と小さく返事をした後、顔を上げて立ち上がった。


「フローラル国、国王の名において宣言する。王太子イグニスは、国家反逆罪の加担と看做し、この時を持って廃嫡とし、第二王子マゼランを王太子とする。また、アンセリウム嬢は、婚約時の契約において、王太子の元に嫁ぐものとするの文言通りに、今後は、マゼランの婚約者とする。良いか。アンセリウムよ。」


私は首を垂れてカテーシーをしてホールに響き渡る様に、御意。と返答した。


「えっ、待って、待って、一つずつ、マゼランが王太子って。父上…?」


陛下に縋る様に返答を期待したイグニス様に応えたのは王妃殿下だった。


「わたくしは反対したのよ。イグニス、貴方はハニートラップに掛かるから王には向かないって。でも、陛下は貴方を推したのよ。絶対に大丈夫だって。だから、もし、トラップに掛かる様なら廃嫡は約束だったの。信じていた陛下を裏切ったのは、イグニス、貴方よ。」


イグニス様は、よろけながら、背後へ数歩下がった。

踵に当たった何かを振り返ると、まだ、床に膝を付いたままのリリー様がいた。

イグニス様はご自身も膝を付いて、リリー様に目線を合わせた。


「そうだ。リリー、僕、少し解らないのだけど、彼らと睦み合いって…。なんの事だい?」


今迄の話の流れで理解出来なかった事にドン引きした。誰だって解るでしょう。自分がして居た事をしていたんだから。それとも、解っていながらも、理解したくはなかったのだろうか?リリー様はゆっくりと顔をあげた。その顔は歪んでいて、可憐さ等は微塵も感じられなかった。


「は?イグニスだってしたじゃない。気持ち良いって。大好きだって。毎日やっていた事よ!」


イグニス様はリリー様の迫力に驚いて尻餅をついてしまった。


「可憐で男性から守って貰わなければ生きられない女性の本性よ。良い機会だから皆んな覚えておきなさい。」


リリー様を冷たく見詰めたまま王妃殿下が発した。

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