第3話 断罪式が始まりました
卒業式イグニス様が謝辞を述べて無事に終了した。
それぞれが一度帰宅をして、着替えてプロム会場である王城を目指す。
私はイグニス様と衣装合わせが出来ず、父が作ってくれたドレスを纏った。
「こんな、こんな酷い仕打ちをするなんて。絶対に許さん!」
「落ち着いて。お父様。ちゃんと準備は出来ているから。さぁエスコートをお願いします。独身生活最後かも知れませわ。」
「そうだな。幸せになるんだよ。」
涙を堪えているお父様に、勿論。と笑顔で応えてお父様と私と侍女のネモフィラと3人で公爵家の馬車に乗り込んだ。
⭐︎⭐︎⭐︎
プロム会場である王城の門は入場待ちの馬車が並んでいた。平民、男爵、子爵、伯爵、侯爵、公爵の順番で時間を指示されての来場の為夜会等よりは待つ事は無かった。
会場内に入ると、カトレア様、ファレノプシス様、グラマト様、ミディ様、が侍女を伴い、エスコート役のお父様方と私の来場を待っていて下さった。
父親達の視線は一箇所に集中して睨みを効かせている。その方向にはリリー様を中心に彼女達の婚約者が周りを固めている。
「今日らしいですな。フレグランス公。」
「その様ですね。あのドレスはマダムデイジーのデザインを王宮で買い取った物だと記憶しておりますからね。娘にと言っていた物が何故あの者が着ているのかは謎ですな。この後ご説明があるのでしょう。」
剣呑な空気の中、国王陛下と王妃殿下、第二王子のマゼラン様が入場した。マゼラン様は私を見つけると、愛らしい笑顔てウィンクをして下さった。私はクスリと笑ってしまった。
陛下達の入場アナウンスが響き渡り、陛下が卒業祝いの言葉を発して王族が着席をすると、イグニス様が、リリー様の腰を抱き2人並んで陛下の前に出た。
「私、イグニス・フローラルは悪役令嬢であるアンセリウムとの婚約を破棄して、このリリー・フラワー伯爵令嬢と婚約を改めて致します。他にも、カトレア嬢、ファレノプシス嬢、グラマト嬢、ミディ嬢の婚約も婚約者である、ステファン、オーヘン、エネン、エンバーと私の側近達も暗躍する意地の悪い悪役令嬢との婚約を破棄する。」
得意気に声高々と発した。
私達は盛大に溜息を吐いたが、父親達は怒りを堪えるのに必死だった。相手は腐っても王族だから。
「イグニス。リリー嬢は何故アンセリウム嬢に王家が作ったドレスを着けているの?そのドレスは特別だから2つとして世に出ないお品物のはずなのだけれど。」
「アンセリウムには着る資格がありません。それをこれからご説明致します。」
「資格がないのはリリー嬢なのだけれど。」
呟いた王妃殿下の言葉をイグニス様は拾う事は無かった。
横を見るとお父様は仇を見る様に睨み手には拳を作り震わせている。
お父様の手を右手で包んでから、手を緩やかに広げて拳を撫でると、下を向いてイグニス様から視線を逸らして手を開いて下さった。
堪えて下さりありがとうございます。お父様。
私は1人前に出て、イグニス様達と向かいあった。
「先ず、悪役令嬢が何なのか解りませんが、わたくし達が一体何をしたと言うのでしょうか?」
「やはりそう来たか。此方には証拠がある。ゼウス是へ。」
ゼウスはイグニス様付きの文官で、このままいけば宰相補佐候補だった。
「えっと、アンセリウム嬢ですね。」
5冊のノートから一冊を手に取り、残り4冊を脇に抱えた。
「ミラダス暦27年10月27日14時にリリー嬢はアンセリウム様から3階から突き落とされて足首を捻挫しております。」
私はイグニス様に目線を合わせたままネモフィラに指示を出した。
「ミラダス暦27年10月27日14時わたくしは、何をしていたかしら?」
ネモフィラは、数冊のノートからミラダス暦27年の10月27日14時の物を探して、読み上げた。
「その日は午前中は学園にて小テストを受けた後に、王妃殿下主催のお茶会のセッティングを指示されて、準備と、ゲスト対応をされていらっしゃいました。因みに、カトレア様、ファレノプシス様、グラマト様、ミディ様もお母様方とご一緒にご参加されていらっしゃいます。ですので、当家のアンセリウムお嬢様が階段から突き落とすのは、無理でございます。あ、勿論他のお嬢様方も無理でございます。」
ゼウス様をイグニス様が睨んでいる。ゼウス様は持っているノートを落とさない様にしながら額から流れる汗をハンカチで拭い始めた。
「えっと、ではミラダス暦26年の5月4日にリリー嬢を学園の池に突き落として、ドレスを破かれた事がごさいましたよね。幸いにも通り掛かられた優しい令嬢が、ロッカーにしまってあるドレスを下さったので事なきを得たそうですが。」
「その事は学園に通う女性で知らない方はいらっしいませんわね。」
「やはりそうか!貴女と言う人は見た目から黒髪に紫の瞳など。悪魔の様相だが、本当に悪役令嬢だな。」
私はまた、大きな溜息を吐いた。
「最後までお話しは聞いて下さいませ。何故学園中の女性が知っているかと言うと、その日は学園でレディースデイがありました。女生徒のみを集めた所謂淑女セミナーです。淑女としての嗜みを習うのですが、私が学園側から頼まれて講師をしておりまた。リリー様に苦手な男性から手を取られた時の対処法をお教えようとしましたら、いきなり悲鳴をあげて、外の池に向かわれて、ご自分で飛び込まれました。余りの奇行に皆様驚いて動けず、ドレスが水を吸って重くて動けなかったリリー様をわたくしと、ファレノプシス様とグラマト様で引き上げたのですが、その時岩に引っかかりドレスが裂けてしまったのでわたくしの予備のドレスを差し上げました。皆様ご存知の筈です。」
周りを見渡すと女生徒達が全員頷いていた。いきなり悲鳴あげて飛び出すなんて淑女はおりませんから。
「先程から仰っている悪役令嬢とはなんですか?」
イグニス様は、顎を上げて此方を見た。怒りに真っ赤になっているお父様の顔も見て下さると良いのだけれど。どうも視界には父親達が入っていないらしい。
「ヒロインを虐めたり嫌がらせをする悪い人の事だそうだ。」
私は、イグニス様を見詰めて顎に人差し指を置いた。
「では、わたくしは悪役令嬢には該当致しません。この後いくらリリー様がわたくしに何かをされたと仰っても此方は証拠も証人もあります。」
イグニス様は怒りに顔を赤く染めた。
「証人なんている訳ないだろう!居るなら出してみろ!」
「陛下。」
王妃殿下の透き通る声がホールに響き渡った。陛下は下を向いて小さくなっている。王妃殿下の声に何故か勢いを持ったリリー様がイグニス様の腕にしがみついて私に人差し指を向けて来た。
「王妃様は私の味方なのよ。証拠も証人も私だって用意出来るんだだから。」
人を指差すなとリリー様は教わらなかったらしい。前から思っていたけれどリリー様に必要なのは淑女教育ではなく、一般常識の様だと再確認をした。
「わたくしが、何故そんな事をしなければならないのかしら?どう言う事、イグニス。」
ゆっくりとはっきりと発する言葉には怒気が感じられた。イグニス様とリリー様には解らなかったらしい。
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