第33話 善には善を。悪には悪を

 音無から話を聞き終えた俺は彼女の車で自宅に送ってもらい、ベッドで横になっていた。


 怒涛の数日間を終えて、一安心したからか急激に身体に疲れが襲ってくる。眠気を我慢して今日の出来事を振り返る。


「今日と明日はしっかりと休んでね。それと貴方とお母さんを狂わせた元凶の男達の居場所はこれから私達が調査していくわ。見つけた後どう始末するのかは貴方次第よ」


 帰り間際に音無が耳元で言った言葉…まだ俺の頭の中を支配して逃さない。


 元凶、憎しみの原因。それは純粋だった筈の母さんを豹変させて男共2人だ。…1人は俺の実に父親でもある。


 顔は見た事もない。母さんも憎んでいるからか、写真すら家には置いておらずどんな顔をしているのかもわからない。実際に彼らから直接的に危害を加えられたわけではない。だが、どうしても俺はのうのうと幸せに暮らしているであろうソイツ等を許す事は出来そうもない。


 身体が震え、動悸が激しくなる。橘誠也に罰を与えた後は自分の中に眠っていた狂気が少し落ち着いていたのだが、ソイツらクズ共の存在を思い出した事で怒りが湧き立ち始める。音無のおかげで復讐の時を得る事が出来るかもしれない。


 自分1人の力では絶対に見つからなかったであろう奴らの居場所が音無一族の力を借りる事で見つかるかもしれないのだ。怒りで震えていた身体が、今度は歓喜で震え出す。血管が開き、身体中から汗が流れ、その時はまだかまだかと興奮が治まらない。


 もはや地獄を見せるなんて生ぬるい事は言わない。


 『スベテウバッテヤレバイイ』


 その時スマフォの着信音が枕元で鳴り響いた。沸騰しそうな頭でスマフォを取り耳に当てる。


「もしもし、かっちゃん?いきなりごめんね。」

「ゆ…あ…か」

「え?なになに??何かあったの!?大丈夫!?

「…ああ。大丈夫だよ。ありがとう、優愛」

「本当に大丈夫なの??ならいいけど。あのね、今日ね」


 復讐したいという感情に取り憑かれ、おかしくなりそうだったが優愛の声のおかげで正気に戻ることができた。


 彼女は俺の人生の光だ。これまでも、そしてこれからも。彼女の声が、温もりがいつも自分を取り戻させてくれる。


 彼女がいたから生きて来れたし、彼女がいるからこれからも生きて行ける。

 

 どれだけ自分が壊れても優愛だけは絶対に手放さない。


「それでね、こう言う事があったからね。…ちょっともう!聞いてる?かっちゃん??」

「聞いてる聞いてる。…はは。えっとそれで何だっけ?」

「もう!!」


 電話口で怒る優愛が今どんな可愛らしい表情をしているのか容易に想像できる。


「ごめんって。あっそうだ。俺月曜から学校にいくから」

「かっちゃんそういうとこ…え!?ほんとに!?やったあああ!!」


 怒っていた優愛が電話口からも喜びが直に感じられるような大きな声をあげる。これで優愛と会える時間がまた増える。俺も自然と口が綻んでいる。


 上手く付き合えるかわからないが新しい相棒も転校してくるようだ。音無も同じクラスだ。


 …さて、これからさらに忙しい毎日になりそうだ。

 

◇◇◇◇◇

これにて完結です。打ち切りみたいな終わり方になってしまいましたが、ここまで読んでくださった方々本当にありがとうございました。


◇◇◇◇◇

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《渇愛》〜愛情に飢えた少年の狂気の果て〜 月美夜空 @tsukimi-yozora

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