03_世界に一人

 時明市駅前通り。

 ガヤガヤという喧騒の最中。同じく午前で学校が終わったのであろう遊びに出てきている他の制服を着た学生や社会人たちに紛れて駅前を歩く。祝日でもなんでもないが、自身の知る平日に比べれば随分と喧しかった。


「ふあ」


 ここ最近、やけに早起きすることが多い。その割に寝る時間は変わらない訳だから、純粋に睡眠時間が足りていない。避難訓練や連絡事項などを終えて学校を出ると、もうそこから先は殆ど自由時間だ。気が抜けて、欠伸の回数も増えるというもの。


(やることないしなぁ……)


 そもそも暇を潰すという名目で通りに出てきたものの、懐事情は素寒貧も良いところ。アルバイトで得た給料は全額学費と施設代に回されている。買い食いをするだけの余裕すらもないのだから、お金のかかる娯楽全般が全滅している。冷やかしに冷やかしを重ねる客ではない通りすがりである。

 ゲームセンターなど憧れがあるものだが、これもまた素通り。悲しいかな、耳に特大の刺激を与えるだけで終わってしまう。本屋などはどうだと思えば、次は手と足の負担が結構バカにならない。体力を無為に消費できるほど贅沢ではないのだ。


「図書室が空いていればなぁ……」


 中学生からのスタンスとして、学校が開いている間の余暇時間は図書室に定住していた。蔵書の全てを読破できたわけではないが、それのおかげで時間には困っていなかったことの方が多い。

 閉め出されている(されてない)現状では悲しきかなそうはいかないのだ。……帰るわけにもいかないのだし。


「電気屋、本屋、カフェに服屋。雑貨屋ー……にファストフード。あ、いけね」


 思いっきりお腹が鳴る。今日一日何も食べていないのだから仕方ない。そろそろ空腹に耐えられないと胃が叫んでいる。我慢だ。

 視線が美味しそうなメニューへと滑るが我慢するのだ、俺よ。そうも言ってられないだろう。だから涎を飲み込め。意識してはいけない。

 設置されていたベンチに休憩という名目で座る。ありがたいことに飲食店その他が視界に入らない良い場所だった。


「………………」


 しかし自分にとって必要で、悩ましいそれが目についた。お店ではないが、広告としての看板だ。高級なのか市営なのかマンションがデカデカと撮られ、会社の名前などが載せられていた。不動産屋、もしくは建設会社関連。


「見つかる、のかね」


 不安が溢れる。いや、見つけなければならない。

 自身に残された選択肢はそう多くない。できる限り誰にも迷惑をかけず生きていく方法とやらを得るには、絶対に必要なことだ。温情によってまだ許されているが、甘えるにも限度というものがあるのはわかっている。

 院長は相談ならいつでもして良いと言ってくれた。けど、相談しようにも何を言えば良いのだろう。自分に明確な軸なんて何一つないというのに。


「まるで生きた屍だな、俺って」


 思考がネガティブ方面へと急激に吸い寄せられていく。それを拒むことはできない。必要だからだ。

 なぜ生きているのか。それすらわからない。正直将来も未来も展望だって何一つない。誰も己を必要としていないし、誰かの役に立てるほどの能力だってない。知らないことが多くて、言葉にできないことが多くて、辛い。

 明晰夢を生きているような、夢見心地のような。肉体があって、息をしているのにどうしてか。地に足が付かない浮遊感がもうここ数年ずっと身を包んでいる。


「考えても答えは出ない、か」


 いつも通りに打ち止めになる。

 空はまだ青くて、多分そう時間が経っていない。時計を見なければわからないが、感覚的には夕焼けまでまだ三、四時間はあると思うのだ。とても長い。

 空腹か、それとも心が沈んでいるのか。やけに重たく感じる身体に力を入れて立ち上がる。


 流行などには対して興味が湧かないが。入れ替わるからこそ新鮮に感じることはあるだろう。駅前周辺など殆ど制覇しているのだ。似合うとは思えないが、そこら辺に浸ってみよう。

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月を翔る龍星騎士(ドラグナイト) 野崎ハルカ @Nozaki_Haruka

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