第2話

 エたる。

 エターなるから来ている。

 意味は創作中のものが永遠に完結しないまま終わること。特に、ネット小説などによく使われる。


 どうして人はすぐにエたるのが問おう。

 あんだけ、芥川賞は間違いなしと自分自身で絶賛していたのに。それが、太宰治のグッドバイや夏目漱石の明暗のように完結をしないからこその名作であれば良い。しかし、思い違いしてはいけない。どうせ、僕の作る話など無冠の素人作品である。死後評価されればいいのだけれども、そもそも評価する作品自体がない。


「すまんな。本当にすまん」


 僕は今日もまたエタってしまった。

 僕の作品のキャラ。ハッピーエンドも、バッドエンドも迎えること出来ず作者の都合悪い状況によってその世界が閉じられる。何ともまぁ、理不尽な。


 どうしてエたるのか。そんなの簡単だ。山登りをするのに、地図も方位磁石も持っていかなければそりゃ、エタってしまう。それじゃ、地図を持っていけば良いのではないか。そうすればエたることなどないのではないか。


 そう思った諸君。甘いな。そんなこと、私は当の昔に気づいている。そして地図を持っていった。つまりはしっかり、ガッシリプロットを固めた。


 それが今、僕の書いている恋愛小説であった。

 今までエタって来た作品たちとは気合が違う。まず今回は参考文献がある。この小説を書く前に、恋愛伝授本や過去の恋愛小説など様々読んできた。


 はっきり言おう。私は別に恋愛などに興味ない。しかし、この小説を書くために本のレジに持ってきた時のあの感情。みんな褒めて欲しい。どれほど、顔を真っ赤にしたのか。あの若い女性店員に、クスリと笑われた時、私は言い訳をしようとどれほど思ったのか。いや、違うのです。これは決して自分がモテたいわけではないのです。恋愛小説を書くために、どうしても必要な行為なのですと。


 そうして構想に構想を得て完成した作品だ。この小説を書くためにノート一冊を使った。その一冊のノートはビッシリと文字が埋まっていた。


 今回こそは、今回こそは。完璧な作品になる。そのプロットを書いている時に、ワクワクが止まらなかった。今回こそは、芥川賞か直木賞。その何の賞を取れる。下手すればどちらの賞だって取れると。


 ちなみに僕は芥川賞や直木賞の受賞条件など知らない。


 そうしてしっかりと書いた構想。しかし丁度5000文字を超えた頃にそれは崩れ始める。どうも今、自分が書いている作品が面白いと思えなくなった。

 今回はプロットという、地図と方位磁石を持ってきたのに。


 だけれども考えて見てほしい。いくら地図とはいえ、ゼンリンの書いた細かい地図でも、それをしっかりと解読出来なければ使いこなすことが出来ない。さらに言えば、方位磁石も重ければそれはただの荷物になってしまう。


 というわけで、僕はガッシリとプロットを決めてしまったためどうも、作品内のキャラの動きがぎこちなくなってしまった。

 作品内のキャラが全員大根役者のように、棒読みのセリフを読んで動いているように見えてきた。


 そういうわけでこの作品もエタることにした。

 小説サイト4話分書き切った頃の話である。


 そして僕は自室の天井を見上げながらこう思う。

 これなら、クラスのみんなと焼肉にいけばよかった。青春を謳歌すればよかった。


 いや、違う。

 そう思ってはならぬ。僕は今という自由がたくさんあるこの時をしっかりと犠牲にしなければならぬ。会社員になったら。ほら、僕の父を見てみろ。奴隷のように働いて、すっかり自分の時間というものが存在しなくなっているじゃないか。


 大丈夫。

 この作品に縁がなかっただけ。いつかきっと自分の作品が完結する時がくる。

 そうして、その作品が世に出て、賞賛されて、アニメ化になって、チヤホヤされて、可愛い嫁を捕まえる時が来る。


 声優と結婚したって構わないさ。


 何ともまぁ。残念なことに、そんな妄想ばかりが膨らんでくる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

エタり癖がある僕は小説家になれず、そして普通の女の子とも恋も出来ず 一七六迷子 @karakusasakuraka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ