エタり癖がある僕は小説家になれず、そして普通の女の子とも恋も出来ず
一七六迷子
第1話
僕は人間なんぞ興味ない。
高校生になるとみんな、青春を求める。皆、集団を作る。1人を怖がる。
ふん、くだらない。
僕は欠伸をした。退屈だ。どうも友達を作る気になれない。彼女を作るなんてもっての他であった。
高校生は人生で1番女性を求める時期だというけれども、その中心にいる僕がこんな感じだなんて。将来どうなるのだろうか。
「それでさ、何時に西宮北口集合する?」
そんな言葉が後ろから聞こえてくる。
ふん。ふん。
どうやら、来週クラスの数人と西宮北口で焼肉パーティと呼ばれるものをするらしい。こいつらは暇人だ。
僕は机の上に広げられた原稿用紙をじっと見つめながらそう思う。
恐らく、一言。僕も一緒に行きたい。そう言えば一緒に食事に行くことは容易いだろう。
僕はこのクラスでは別段、ヤバい奴ではない。普通の奴である。
このクラスには僕なんかよりもコミュ障な奴なんていくらでもいる。僕なんかよりも将来に希望がないボッチだっている。
それに対して、僕はまだ希望がある。
何だって僕は頭が良い。何だって出来る。今はこんなんだけれども、友達いない寂しい人生を過ごしているけれども。もし、芥川賞を取ったら、一気にこいつらよりも素晴らしい人生が待っている。
成功するには孤独が必要だ。
ほら、エジソンだって、アインシュタインだって、孤独だったじゃないか。むしろ私はその偉人たちに比べてどこか異常性が足りない。
クラスで不用意に発言なんてしないし、暴れたりもしない。本当のいい子ちゃんであった。僕にもどこか異常性が欲しい。
「ねぇ、谷上君」
と村上春香が私に話しかけてきた。
「谷上くんも一緒に行かない」
ほら、僕は普通の人間だから誘われた。
決して僕はボッチではなかった。
「うーん、僕はいいかな」
「えーなんで? 塾とか?」
「ううん。塾は行っていない」
「それならどうして?」
「うーんとね。その日は忙しいかな」
「部活動もしていないのに?」
「うん。まぁ色々とね」
本当にその日は何もない。
だけれども、どうしても原稿用紙を書かないといけない。小説を書かないといけない。僕は学生時代のうちに小説家デビューを果たしたい。
僕の親は一般企業で働いているけれども本当に大変そうだ。
いつも愚痴を言っている。あの上司が鬱陶しいだとか、何とかって。叱られた。減給になった。クビになるかも。そんなこと毎日言っている。僕はそんな風になれない。自分の人生を会社に捧げることなど出来ない。
だから遊んでいる暇なんてない。勉強をしている暇も当然ない。
小説家になるんだ。
その為にこんな遊びに時間を使っている暇などない。
また私は小説家になるために本を買わないといけない。こんなものにお金なんて使っている暇なんてないんだ。
「ふーん、そうなんだ。私は谷上君に来て欲しいけれどな」
「すまんな。僕にはどうしてもやらなければいけないことがあるんだ」
「それっていつもの、小説家活動?」
僕は否定なんぞしない。事実だから。
「まぁ、絶対になれるよ。谷上君は。だっていつも授業中こっそり難しそうな本を読んでいるもの」
「なんで、それを知っている!」
「何でって……だっていつも見ているもの」
「見ているって。チラチラと僕のことを?」
「う、うん……そ、それと、先生全員知っているから。谷上君が授業中に分厚い本を読んでいることを」
「えっ、マジか」
「うん。マジマジ。だからやるんだったらもう少しバレないようにやらないと」
と村上はニコニコ笑みを浮かべながらそんなことを言ってくる。
「だけれども谷上君はいつも難しい本を読んでいるよね」
「まぁね」
「カフカとかドストエフスキーとか。すごいよね。文字だらけで頭が痛くなる。私なんて本好きだけれども、有村狭作とかだからね」
「ふん。ふん。そんな大衆向けの本。まぁ普通の人が読むのならそれでいいんじゃない?」
「うん。やっぱり小説家になるには難しい本を読まないとね」
「ふん」
僕は肘を机につけた。
馬鹿げていると思った。はっきり言おう。僕は読書が好きというわけではない。ましてやカフカなどの小説を面白いと思ったことがない。
確かに彼は優れた小説家であるのかもしれない。だけれども、僕は本当はライトノベルのような小説を読みたいと思っている。
しかし、将来小説家になる僕はそれはダメだと言っている。
これはあれだ。将来プロ野球選手になる人が、軟式ボールを使ってはいけないと言っているのと一緒だ。
だけれども、正直に言おう。
僕は苦しい。今の僕は非常に息苦しい。本来娯楽であるはずの読書が娯楽じゃなくなっているから。
そして最大級の僕の本音を言おう。
本当はこんな難解な本を読むよりも、今目の前にいる村上の体を火照るまでギュッと抱きしめたいと思っている。だけれども、それはきっと無理なことなのですよ。
ここで僕が青春を楽しんでしまったら、中学からずっと犠牲にしてきたものが無駄になるのですよ。
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