戦場の中で

「おい! フェレンツ何してる!」

ステイムの言葉でハッと我に帰った。

「早く! ついてこい!」

ステイムが手招きをした。立ち上がると銃剣は折れていた。近くの塹壕を掘る用のシャベルを手に取りもう一方の地には銃を握ったままだ。塹壕の影から男が出てきた。フェレンツは躊躇なくシャベルを突き刺した。簡単にシャベルは抜けた。すぐさまステイムが彼に鉛玉を撃ち込んだ。同じ通路からもう二人出てきた。一人をフェレンツが銃で撃ち、もう一人を少し遅れてステイムが撃った。コッキングし次の銃弾を撃ち込んだ。捨てイムも同様に人を殺した。自分たちの心拍数が今までにないほど上がっていることに二人は気づいた。速い、死にそうだ。その考えがフェレンツによぎった。

「マズーはどこだ!」

フェレンツは叫んだ。彼がいない。友がいない。目の前を少佐が通った。彼は基地で面識があった。

「少佐!」

フェレンツは呼び止めた。彼の無事を心の底から願った。また友を失うのがつらかった。まだ彼には耐えられなかった。

「毒ガス攻撃はもう終わった。毒ガスももう消えてるはずだ。ガスマスクを外せ!」

少佐は泥だらけになった顔をこちらに向けた。フェレンツたちはガスマスクを外した。息が切れていた。

「フェレンツ二等兵です。マズー二等兵は見ていませんか? 友達なんです」

「いや、見てないな」

少佐はそう言いながら後ろに迫っていた敵兵士を撃ち殺した。フェレンつはすぐさま銃を構えた。走りながら壁に肩を擦りながら走った。通路の角はクリアリングをしながら前に進んだ。背後はステイムが守っていた。土埃と共に血煙が存在していた。そこに煙と炎。地獄があるのならここだろう。家の険悪な雰囲気よりもこっちの方が辛い。なんならその険悪な雰囲気の方が恋しいと感じるほどだ。自分が狂ってしまったのだろうか。通路からまた敵がやってきた。ナイフで襲いかかってくる。避ける。銃を持ち直し、殴った。だが相手はまだ刺そうとしてくる。ナイフが捨てイムの左肩に刺さった。顔が歪んだ。フェレンツはまた持ち直し撃った。次だ。

「クソ野郎!」

名前も顔もよくわからないやつが叫んだ。銃口をフェレンツに向けた。死ぬ、彼はそう直感した。帰りたい。

「クソ野郎はお前だ!」

ステイムが男を撃った。死ななかった。帰れない。

「次だ! フェレンツ!」

また男が出てくる。

「おい! 俺だ!」

デビンだった。

「デビン、マズーを見なかったか?」

「あの怖気ついてたやつか。あいつなら反対方向に走っていったよ」

「それって」

「あぁ逃げたんだよ」

一瞬の静寂が流れた。何も思わなかった。卑怯者とも、幸せな奴とも、ただただ何も思わなかった。唖然としていたのだろうか。彼にはわからない。

「フェレンツ、よくあることだ。あいつの好きにしてやれ」

ステイムは刺されたところを素早く包帯で止血した。砲撃が塹壕の上を横切っていく。

「頭を下げろ! 身を低くするんだ!」

デビンは叫んだ。土埃が上がった。

「戦車隊が近づいている! 備えろ!」

どこからか聞こえる。こんな状態では誰が何を喋っているのかなんて探っている暇はなかった。

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山羊と戦争の果て 睡眠欲求 @suiminyokkyu

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