突撃
「突撃しろ」
中佐だろうか、男は歩きながら兵士に命令して回った。フェレンツたちの近くでも彼は迷いなく言った。
「行け、ほら行け」
マズーは彼の言葉で悟った。自分は特別ではないと、ここにいる兵士にしかすぎず英雄ではないと。塹壕から出る。水溜まりやぬかるんだ土地を踏んで前に進んだ。ここからは時間との勝負だった。相手の塹壕に辿り着くか、それともここで浮いたれて死ぬか。マズーの三メートル左に砲撃が着弾した。目の前を走っている兵士が倒れていく。自分の背後の兵士もだ。見えない、だがわかる。倒れていくのが。
「突撃!」
前を軍曹が走っている。走っていた、彼はすぐ吹き飛んだ。真っ赤な肉片となったのだ。
「軍曹!」
フェレンツは叫んで振り返ったがそれを見たステイムがすぐ彼の背中を叩いた。
「振り返るな!」
彼は言った。彼がこの中で一番冷静な状態だった。だがその冷静は一般生活で言えば、パニックと言っても過言ではなかった。フェレンツたちの方は過呼吸で倒れてもおかしくない状態だ。
「走れ!」
ステイムは叫んだ。弾は何故か当たらない。それは幸運というべきかわからない。もう数十メートルで敵の塹壕だ。もしこのまま逃げたらどうなるだろう。マズーの頭にそれがよぎった。家族は嬉しがるだろうけど周りからは逃げた臆病者だ。でも逃げたい、逃げたい。あの時、自分への期待と愛国心から受け取った軍服を心底恨んだ。心底自分に絶望した。心底、心底逃げたいという惨めな気持ちに侵された。でも目の前だった。マズーはコッキングをし、塹壕にいる敵に撃った。
「手榴弾を投げる!」
どこからか聞こえた。フェレンツたちは頭を下げた。塹壕ないで爆発が起きた。すぐに頭を上げ、目に入る全ての敵兵に銃口を向けた。一人づつ塹壕内に飛び降りた。フェレンツは生きることに必死だった。塹壕内の通路で見えるものは全て撃った。全て撃ったのだ。味方もいたかも知れない。彼に直撃したのはその現実だった。「今、誰を撃った?すぐにかけよった。敵兵だった。そっと胸を撫で下ろすと後ろから何かで殴られた痛みが生じる。振り返ると敵兵が岩を持っていた。幸い、フェレンツは背中を殴られ、血は出なかった。銃剣で彼を刺した。躊躇はなかった。敵だ。彼はゆっくりと力が抜けるように倒れていった。フェレンツも膝をつき、彼の胸ポケットを調べた。何か役立つものがあるかも知れない。水のボトルがあったらどれだけ嬉しいことか。出てきたのは手帳のようなものだった。中には彼の家族と思われる写真があった。彼の顔を見る。
「くたばれ、クソ野郎」
彼はそう言った。動向が開いていくのがわかった。「俺は何を奪った?」頭の中でその言葉が連呼する。彼の命だけか。それとも。
「おい! フェレンツ何してる!」
ステイムの言葉でハッと我に帰った。
「早く! ついてこい!」
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