ホームパーティ

 プロテストに合格した次の日、私はいつも通り学校へ登校していた。

 

 先日はプロテストの関係で、ジムでトレーニングなどは何も行っていないので、いつも以上に身体が絶好調だ。


「おはようオーラ」

 

「あ、イーゼルちゃん!おはよう」


 いつもの赤いソファーに座っていたオーラに挨拶を済まし、私は隣に腰を掛けた。

 

 実の所、オーラに対して「転移ボクシング」のプロテストの日程について何も話していないので、既に私が合格している事をオーラは知らないのだ。

 それ以前に、私が「転移ボクシング」を始めた事を知らない。

 

 なのでドッキリを仕掛ける様な気持ちで鞄からライセンスカードを取り出し、自慢げにオーラへ見せびらかしてみた。


「そういえばオーラ。ちょっと見せたい物があるの」

 

「うん?なになに?」

 

「じゃーん!」


「カード?えーっと……テレポートボクシングプロフェッショナルライセンス、イーゼル・アインホルン……んんぅぅ!?」


 私が右手で掲げたライセンスカードを、オーラは両手で握り締めてまじまじと観察している。


「私、プロ転移ボクサーになりました」

 

「……は、はあぁ!?い、イーゼルちゃんがプロボクサー!?」


 私の宣言にオーラは大きな声を上げ、その声は教室中に響き渡るのだった。

 

 すると、「転移ボクシング」という言葉に反応したのか、クラスの皆が私たちの会話に耳を傾けている事に気が付いた。

 恥ずかしい。


「ちょ、声が大きいよ!」

 

「むぐっ!」


 慌ててオーラの口を私の手で塞いだ。


「で、イーゼルちゃん!その、プロボクサーってどういう事なの!?」

 

「実はさ……」


 私は「転移ボクシング」を始めるまでの顛末を全て話した。

 「天使」の女性が打った「右ストレート」を目指して、今は頑張って練習中なのだ。


「なるほど……それで食事量がいきなり増えたり、青痣だらけになって学校に登校して来たの?」

 

「そういう事!」

 

「……という事は、イーゼルちゃんがプロボクサーになる為のテストに合格したって事!?あ、あの大人しくて可愛いイーゼルちゃんが!?」

 

「可愛いは関係ないじゃん」

 

「おめでとー!」

 

「むぐぐ!」


 私が合格を伝えた瞬間、オーラが私に抱き着いてきた。

 私の頬へ顔をすりすりと擦り付けている。

 サプライズ的に知らせたとは言え、私的な事を友人に心から喜んで貰えるというのは凄く嬉しい。

 私は心が温かくなった。


「むぐ!で、オーラは「国家公務員試験」どうだったの?」

 

「あ、うん。合格したよ」


 オーラは私に話していない秘密の夢があるらしく、それに向けて「国家公務員」試験を受けていたのだ。

 偶然、その試験日が私のプロテストの日と被っていたので合否の結果を聞いたのだが、進学校である「カワナン高校」で毎度成績1位を誇る秀才のオーラがテストを受けたのだ。

 そりゃ、合格するよね。


「流石だね。難しかった?」

 

「いや?3日くらい勉強して受けたら合格したよ。楽勝だね!」

 

「そうなんだ?私も受けてみようかな?」

 

「それが良いよ!取っておいて損は無い資格だよ。でさ、「転移ボクシング」のプロテストってどんな感じだったの!?」

 

「それがさー……」


 昨日行ったプロテストについて私は詳細にオーラへ伝えた。

 会場の雰囲気やテストを受ける練習生たちの殺意の籠った鋭い目付き、そんな話をするとオーラの目がだんだんと輝き始め、普段は聞けない物珍しい話にテンションがぶち上っている様だった。


「対戦相手を一撃でTKOした!?」

 

「うん。ジャブで様子を見ようとしたんだけど、それをガードした相手の両腕ごと骨折させちゃって。それでレフェリーが試合を止めて私が勝ったの」

 

「イーゼルちゃんって、そんなに強いの!?」

 

「それが分からないんだよね。ジムの会長が言うには、並みのボクサーじゃ受け止められないパンチ力を私は持ってるらしいんだけど、ランキングに名前が載る実力者には通用しないらしいんだよね。強いのか弱いのか、よく分かんないのが現状かな?」

 

「へぇ〜……こんな細腕のどこにそんな力が?」


オーラが私の手を持ち上げて不思議そうにプラプラさせている。


「わぁ、以外に筋肉あるかも」

 

「毎日会長に鍛えられてるからね」

 

「ほぇー……あ、ならさ。今日はお互いの合格祝いって事で、ホームパーティを開かない?」

 

「いいね!でも会長がなんて言うか……連絡してみるよ」

 

「うん」


 私はスマートフォンを開いて、シイラさんに本日はジムを休みたいという旨をメッセージで送信すると。

 「丁度あんたに調整して色々なトレーニング器具を新調する所だから、今日は休んでも良いよ」

 というメッセージが帰って来た。

 

 久しぶりにゆっくり出来そうだ。


「会長がいいって」

 

「じゃあ放課後は私の家でパーティーだ!まぁ二人しかいないけど?」

 

「何食べる?」

 

「モチのロン、宅配ピザでしょ」

 

「わぁ、お腹空いてきたかも」


 学校が終わった放課後にゆっくりするなんて実に一カ月振りだ。

 プロテストに向けて地獄のトレーニングを繰り返して来た私だが、今日くらいはゆっくりしても王様は許してくれると思うよ。

 明日からはもっと厳しいトレーニングが始まりそうだし、それに向けた下ごしらえってやつよ。

 たまには美味しい物を食べて気合を入れないとね。


 放課後、学校が終わった私達が最寄りの転移装置から駅前にワープし、列車を使ってオーラの家へと向かった。

 豪華なエントランスを抜けてエレベーターで高層階へ一気に駆け抜けると宇宙空間に突入した。

 この景色だけは何度見ても飽きない物だ。

 

 非常に美しく、雄大で、感慨深いものがある。


「お邪魔しまーす」

 

「邪魔しちゃやーよ」

 

「なんでよ」


 オーラの家は1678階建ての超高層マンションだ。

 窓ガラスからは宇宙空間に繁栄した大都市の景観がキラキラと輝いている。

 室内には大きなソファーに大画面のテレビ。

 私の住んでいる狭いアパートとは大違いだ。


「いいなぁ……私も引っ越したい。ねぇオーラ。ここって家賃いくら?」

 

「確か、五万ヴァルトだったと思う」

 

「意外と安いね」


 「ヴァルト」とは、私が住んでいる地域の通貨単位だ。


「イーゼルちゃんの住んでる所は家賃いくらなの?」

 

「五千ヴァルトだよ」

 

「わぁ。やっす」

 

「貧乏暮らしだからね……」


 夕食にはまだ時間があるので、それまで勉強会を開く事にした。

 最近は「転移ボクシング」漬けで学校の勉強が少し遅れていたので、オーラに頼み込んで私の勉強を見て貰う事にしたのだ。

 

 オーラ、マジで助かります!


 部屋で待っているとオーラがコップにオレンジジュースを入れてお菓子を持って来てくれた。

 地面に座布団を敷き、机に参考書とノートを開いたら早速勉強開始だ。


「あれ?固有値ってどうやって求めたっけ?」

 

「行列式方程式だよ。まず行列Aの固有値λを求めて、det(A-λI)=0を得てから固有ベクトルを求めるんだよ」

 

「あ、て事は……λ₁ ≈ 3.618033988749895にv₁ ≈ [0.850650808352039, -0.525731112119133]で、λ₂ ≈ 1.381966011250105にv₂ ≈ [0.525731112119133,-0.850650808352039]か!」

 

「正解!まぁそこまで書かなくてもいいけどね」

 

「っし!いやぁ、オーラが居てくれて本当に助かるよ」

 

「まぁね。もっと頼ってくれていいんだよん♪」

 

「あ、じゃあ次の線型写像の問題なんだけどさ」

 

「どれどれ……?」


 勉強を進めていると、いつの間にか時計が夜7時を指していたので、勉強会を終了して合格祝いの準備を整え始めた。

 

 2時間ほど勉強したが、その進み具合は順調で、遅れた分を一気に取り戻す事が出来た。


「じゃあ、私ピザ注文するね」

 

「うん。ありがとうオーラ」


 宅配ピザを注文すると、すぐに玄関先に置いてある「委託型瞬間連動装置」へ熱々の大きいピザが届いた。

 「委託型瞬間連動装置」とは、開発元の会社に月額料金を支払う事で、様々な飲食店の料理を瞬間移動させてくれる銀色の箱だ。

 ガチャン!と重々しいロックを解除すると、瞬間移動して来たピザが現れた。

 ピザにはトマトやサラミ、マッシュルームやチーズが沢山乗っており、匂いを嗅ぐだけで食欲をそそられる。

 お腹がグーグーだ。


「それでは、私とイーゼルちゃんの合格を祝して、乾杯!」

 

「乾杯!」


 ワイングラスにオレンジジュースを入れて乾杯だ。

 早速ピザに手を付けると、たっぷりトッピングされたチーズがビヨーンと伸び、これ以上は説明不要だよね。

 つまり美味しそうって事だよ。


「あむあむ!うっま~ 」


 シイラさんに食費を頂いてお金には困っていない私だが、身に染み付いた貧乏性のせいでなるべくお金を使わずに節約しながら毎日自炊を行っている。

 その為、如何にも身体に悪いですよ、という雰囲気を醸し出すジャンクフードを食べるのは久しぶりだ。

 久しぶりだからこそ、美味しい。


「そういえばイーゼルちゃん」

 

「んみゅ?」

 

「プロになったって事は試合をするって事でしょ?戦う予定はあるの?」

 

「ん-ん。ないよ。会長が言うには、各ジムとか団体に私の事を伝えて対戦相手を見つける所から始めるらしいよ」

 

「って事は、今見つけてる途中って事か」

 

「うん」

 

「試合が決まったら教えてよね!私、デビュー戦は絶対応援に行くから!」

 

「勿論だよ!とは言っても、大した試合は出来ないと思うけどね」

 

「そうなの?」

 

「うん。会長からは2種類のパンチしか習ってないし、まだ出来る事が少ないから」

 

「……その状態で相手を一撃で倒すイーゼルちゃんって、ポテンシャル凄くない?」

 

「そうなのかな?会長には毎日ボコボコにされてるんだけど」


 地獄の一カ月間で行われたスパーリングでは、それはもう毎日の様にボコボコにされていた。

 ジャブを打てばカウンターを取られ、ストレートを打てば全く当たらない。

 いつの間にかロープ際へ追い込まれてパンチを連打され、逃れようと転移すると、場所を予測されパンチを打たれていつの間にか気絶している。


「どれだけパンチ打っても全く当たらないんだよ。もう凄いんだから!」

 

「へぇー……イーゼルちゃんをたったの1カ月で相手をここまで鍛えたジム会長さんか。凄腕のボクサーなんだね!」

 

「うん!とにかくパンチが見えなくてさ。まぁ、そのパンチが滅茶苦茶痛いんだけどね」

 

「毎日顔を腫らせて学校に来てたもんね。その会長さんって、なんて名前の人なの?」

 

「えっと、名前は「シイラ・ハワード」。「ハワードジム」の会長で、種族は「狼人」だよ」

 

「シイラ……あれ?どっかで聞いた事あるかも?」

 

「そうなの?」

 

「うん。なんだっけ?ごめん、忘れちゃった」

 

「なんだそりゃ」


 シイラさんは素人目でも分かる凄腕のボクサーだ。

 彼女は一体何者なのか、いつか機会があったら直接聞いてみても良いかもしれない。


 粗方ピザを食べ終わった私達はお風呂に入る為に脱衣所で着替え、熱々のシャワーを浴びていた。

 オーラの住んでいる超高層マンションのお風呂は凄く広い作りになっている。

 浴槽も広くて、五人が入っても余裕がありそうなくらいに広い。

 お湯にはあひるちゃんのおもちゃがプカプカと浮かんでいる。

 今日はこのままオーラのお家でお泊りするので、時間を気にせずにゆっくり出来るのだ。


「うわぁ。イーゼルちゃん、筋肉が付いてきたね」

 

「うん。でも、会長が言うにはこれ以上は付かないらしいんだけどね」

 

「へ?どうして?」

 

「柔軟な筋肉と固い筋肉は全く違って、ボクサーに必要なのは柔軟な筋肉だからパッと分かりやすい目立つ筋肉は付かないらしいよ」

 

「ほぇー。私はそういうの全く分からないかも」

 

「そういえば、オーラの方こそ「国家公務員試験」はどうだったの?」

 

「別に特別な事は無いよ。第一次試験と第二次試験を受けて、合格したら「王城」に訪問して面接を受ける。それで終わりだよ」

 

「へー……え!?「王城」に行ったの!?」

 

「うん」

 

「そ、それ、凄い事じゃん!王様は居た!?」


 私はオーラの思わぬ言葉に肩をフラフラと揺らしていた。

 「王城」には働いている職員のみしか立ち入ることを許されない特別な場所で、セキュリティの関係上テレビの取材なども余程の事が無い限り入る事は無い。  

 中を見れただけでも凄い事なのだ。


「いなかったよー。頭が揺れる―」

 

「あ、そういえば私も、プロテストに向かう道中で王室の御料車を見掛けたよ!」

 

「そうなの!?王様だった!?」

 

「窓ガラスにスモークが貼られてて誰か分からなかったよ」

 

「そっか……それは残念だね」

 

「一応動画を撮ってあるけど、見る?」

 

「見たい!」


 お風呂場に置いてあったデバイスからホログラフを目の前に表示させ、シイラさんの車内から撮影した動画を再生させた。

 そこには国旗を立てた黒塗りの宇宙船が映っており、複数の警邏官が護衛している様子が表示されている。


「わぁ!これが御料車!?ネットで見るのと違って、やっぱり迫力があるね!」

 

「うん!私も直に見るのは初めてだったんだけど、見えなくなるまで目を追っ掛けたよ」

 

「私も初めてだよ。この護衛してる人達は「警邏師団」かな?制服がそれだし……」

 

「オーラ、そういう所まで分かるの?」

 

「うん。一応勉強してるから」

 

「そうなんだ」


 動画を楽しんだ私達はお風呂から上がり、パジャマに着替えてゲームを始める準備を整えた。

 現在時刻は午後の九時。まだまだ夜はこれからよ。


 そして、ゲームをする前にある疑問をオーラに問い掛けたのだ。


「そういえば、オーラ」

 

「ん?」

 

「オーラって将来の目標があるんでしょ?それは教えてくれないの?」

 

「う〜ん……」


 オーラが少し迷った後、何かを決意した表情で私に夢を教えてくれるのだった。


「うん。教えて上げてもいいよ」

 

「本当?」

 

「実は、イーゼルちゃんが将来の目標を持つまで黙っていたかったんだ」

 

「え?私の?なんで?」

 

「だってさ、イーゼルちゃんがやりたい事を見つけてないのに、私だけが前に進むのって嫌だなっ思ったの。どうせ進むなら一緒がいいもん。たった1人の親友なんだしさ」

 

「オーラ……」


 私はオーラの優しさに感動した。

 この広い世界でたった1人の親友を、私は大切にしようと心に決めたのだ。

 オーラ、ありがとう。


 そして、オーラの夢が語られた。


「……私、将来は「王城」で働きたいんだ!」

 

「お、王城!?て事は、「王城公務員」になるの!?」

 

「うん!」


 王城で働く者は「王城公務員」と呼ばれ、王様と直接顔を合わせて仕事をする事になる。

 「王城公務員」のやるべき事は様々で、この世界の内政から外交。

 その他にも様々な重要な役目を任される為、数多の資格や証明を獲得する必要がある。

 過去の実績や人間性などの総合的な事で判断され、最終的な選別は王様や側近の者達が行い人材の採用を決定する。

 志願をしても誰もが成れるわけでは無い非常に狭き門、選ばれし者しか成る事の出来ない名誉職なのだ。


「王様の元で働くの?オーラが!?」

 

「ふふん!驚いたでしょ?」

 

「驚いたけど……なるほどね。オーラなら納得かも」

 

「納得?」

「うん。勉強凄い頑張ってるのも知ってるし、優しいし、頼りになるし。オーラに向いてると思うよ」

 

「そうかな?へへへ」

 

「でもさ、「王城公務員」に成るのって凄い大変なんでしょ?」

 

「うん。必要な資格が1500以上。実務経験証明情報も100個以上取らなきゃいけないんだ」

 

「それは……長い道のりになりそうだね」

 

「そうだね。でも頑張るって決めたんだ。イーゼルちゃんもそうでしょ?」

 

「まぁね!」

 

「それに、もう40個の資格は取ってあるんだ!凄いでしょ!」

 

「え!?そうなの?」

 

「うん!結界調節師、魔導道具作成許可、速読上段。色々勉強して頑張ったんだ!」

 

「オーラって本当に凄いよね。将来大物になるんじゃない?」

 

「そんな事ないよ。上を見ればキリが無いしね」

 

「まぁ世界は広いしね。でさ、実務経験証明情報も必要なんでしょ?最初に何をするかは決めてるの?」

 

「まずは結界調節師だね。一年間働かなきゃいけないけど、やれる事からコツコツやっていこう思ってるよ」

 

「そうなんだ……」


 そして、オーラの口から意外な事を聞く事になった。


「それとね、「王城公務員」になる為に必要な実務経験証明情報の1つに、王国軍に入って「少尉」以上になるって事があるんだよね」


 世界を守る軍隊。「王国軍」は圧倒的な戦闘能力でこの世界を守ると同時に、敵対者に鉄槌を喰らわせる正義の味方だ。

 警邏、消防、救急。それら人の生活を支える三大機関も「王国軍」に属している。

 弱気を助け強きを挫く。

 そんなモットーを掲げているが故に、その道に進む事は過酷を極める。


「……は、はぁ!?あ、あの可愛いオーラが王国軍!?い、いや、想像出来ないんだけど!?」


 人に殴られた事も、ましてや殴った事も、いざその時が来たら殴る事を躊躇するオーラがその道に進むと言うのだ。

 全く想像出来ない。

 

「可愛いは関係ないもん」

 

「で、でもさ、オーラが兵士になるなんて全く考えられないよ!?」

 

「お互い様だよ。でさ、実は、イーゼルちゃんにお願いしたい事があるんだよね」

 

「……?」


「私に、身体の鍛え方を教えて貰えないかな?」


 私はその頼みを快く受け入れるのだった。

 普段からオーラには恩があるし、今日も勉強を教えて貰ってありがたい限りだ。

 それに、たった1人の親友の頼み事。

 恩が無くても引き受けるに決まっている。


「勿論だよ。でも、なんで身体を鍛えるの?」

 

「将来的に王国軍に入るなら今の内に鍛えておこうかなって」

 

「そういう事か。オーケーだよ!」

 

「じゃ、じゃあ今から教えて!お願い!」

 

「うん!」


 今日はもうお風呂に入ってしまったので、オーラとトレーニングするのは明日の朝だ。

 それまではゲームをして楽しむのだ!


「そう言えば、王国軍の「少尉」だっけ?そこまで上るのは難しいの?」

 

「え?私に格ゲーで負けたから話題逸らし?」

 

「違うよ!ガルルルルル!」


 オーラめ!次は絶対に勝つ!


「私も王国軍の事について詳しく知りたくてさ、「王城公務員」になるには「少尉」に上がらなきゃいけないんでしょ?「少尉」に上がるのって具体的にはどう難しいの?」

 

「そりゃもう、よだれが100リットル出るくらいだよ」

 

「いや意味分かんないよ」

 

「んとね、王国軍には「少尉」の下に「准尉」っていう階級があるんだけど、そこまでは誰でもなれるの」

 

「そうなの?」

 

「うん。「准尉」まではある程度の訓練を積めば誰でもなれるけど、そこが限界。それ以上の階級に昇る事は実質不可能とされていて、王国軍では「准尉」と「少尉」の境目を"壁"って呼ぶんだって」


「へぇー。何か特別な理由があるの?」


「それがね、「准尉」までは一つの力、戦闘能力とか兵器の運用とかを覚えれば良いんだけど、「少尉」からは全ての能力が一定以上に満たないとなれないんだよ。その能力の中には部隊を導く指揮能力も求められる。戦いを勝利に納める戦闘能力と、部隊を導き任務を成功に導く指揮能力。この二つを個人が両立するの事が凄く難しいから「少尉」になる事が実質不可能とされているんだよ」


「戦闘と指揮か……言葉だけじゃピンと来ないかも?」

 

「凄い難しいんだよ!戦う事と指揮する事は全く別の力だからね。この二つを極めに極めて、数万人規模の軍隊を預けられるってこの世界から認められてやっと「少尉」になれるんだから!」


「なるほど……数万人規模の軍隊。そこまで行くと想像が出来ないよ」

 

「分かりやすく言うなら、パンチ一発で銀河系を消滅させる事が出来れば「少尉」になれるよ」

 

「……は?そんな事出来るわけないじゃん」

 

「比喩表現だよ。それくらい出来ないと「少尉」になるのは難しいって事」

 

「なるほど……それは分かりやすいね。オーラ、そこまで出来るの?」

 

「ふっ、イーゼルちゃん」

 

「?」


「我、絶対不変の最強なり。その礎たるは極点に至りし王道なり!」


「……王様の言葉だよね?」


「そうだよ。私は王様を信じて、諦めずに進み続けるだけだかんね!」

 

「うん……うん、そうだね。じゃあ、私と同じだね!」

 

「うん!さ、ゲームやろう!」


 互いの近況を報告し合い、将来の目標を改めて見定めた私達は決意を新たにするのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

空拳のイーゼル 蓋世の魔王 @lordwite

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ