キラキラスリースターズ新たなる挑戦


 朝練は毎日、あるという訳ではない。

 しかし、今日はなぜか気が急いてしまい、朝練が無い日に早朝、学校へ来てしまった。


 朝練を担当している他の部の先生に理由を言い、弓道場の鍵を貸してもらおうとすると、すでに誰かがやっているらしかった。

「誰だろうか?」と考えながら道場へ向かうと、トスッ、と気持ちの良い音が弓道場から聞こえた。


『中心を捉えてる――』


 音から判断できる。


 「部長だろうか? それとも、山田さんだろうか?」と考えながら用意をしていると、そのどちらでもない声が聞こえてきた。


「やっぱり、腕が良いと違うねぇ」


 最近、全くと言っていいほど部活に顔を出さなくなった西園寺さんの声だった。

 人見知りの上がり症で、部活では良い成績だったのだが予選大会で早々に敗退してしまった人という印象しかない。


 それ以来、居づらくなってしまったのか――それとも居づらくさせてしまったのか――分からないけど、部活に来なくなってしまった。

 顔を出していいものだろうか、と迷っていると、他にも声が聞こえてきた。


「ねー、本当に、おじさん、撃てれば良いって言ってたの? 全く、当たる気がしないんだけど」

「手に馴染む……馴染むんだけど、変な難しさがあるな……」


 聞こえてきたのは、最近、クラスでも話題になっているダンジョン映えを狙ったパーティーのキラキラスリースターズの2名の声だ。

 確か、羽衣と岸波という名前だったはずだ。


「そこはやっぱ、れきの問題でしょ!」


 ぺんぺん、と腕を叩く音が聞こえた。

大方、次の撮影会の話でもしているのだろう。

 それよりも、神聖な道場で遊ぶ神経が分からない。


「ちょっと――」


 声をかけた瞬間、3人は「あっ、しまった」という顔で私を見てきた。


「すみませーん。ちょっと練習をしてまして」


 「やばいやばい」と西園寺さんが焦りながら的に刺さった矢を回収するところを見て驚いた。

 先ほどの一本が上手く中心を捉えたのかと思っていたが、4つある全ての的の中心に矢が刺さっていて、もちろん外れているのもあるけど、大きくそれてはいない。

 しかも、内何本かは継ぎ矢になっていた。


『ちょっと待って!? 何なのあれ!?』


 話の内容から、中心、または継ぎ矢は西園寺がやったのだろう、他2人も弓道の経験者として話は聞いたこと無かったが、それでもこの距離で大きく外さず当てることが果たしてできるだろうか?

 話を聞いてみようと声を掛けようとする前に、3人は急ぎ足で道場を出て行ってしまった。


「ダンジョンで上手くなったのかな……?」


 3人に共通するであろうことをポツリと呟く。

 今まで興味が無かったが、ダンジョンに行くことで技術の向上につながるのなら少し興味がわいてきた。

 今度、ちょっと話を聞いてみよう。



「ちょっとちょっと、今日は朝練無いんじゃなかったの!?」


 『廊下は走らない』と生徒の誰かが作ったであろうポスターを横目に、ぎりぎり走っていない競歩の強化版くらいの速度で歩きながら、今回の発案者である涼子を悠がジト目で見つめながら言った。


「っかしいねぇ。今日は無かったはずなんだけどなぁ」


 悠の視線から逃れるように、涼子は速足の速度を上げた。


「でも、ダンジョンから武器は持ち出せないはずなのに、おじさんどうやって外に持ってきたんだろ? 結構、不思議な人だよな」

「あぁ、それね。私も聞いたんだけど、コツがあるってことしか答えてくれなかった!」


 朱音の問いに、悠が頷き同意した。


「で、その本人はというと?」


 涼子が追い詰めるように笑う。


「また動画の炎上――というほど炎上はしてないけど、おじさんの動画って毎回、なぜか炎上するんだよね」

「今回は、エルフとか言って水着の女の子を連れまわしている動画上げてさ。本人おじさんもしっかり、顔作ってきてたしね」


 悠と朱音が笑い合っていると、不敵な笑みを浮かべた涼子が腕を上げた。


「その女の子ってのが、私って訳よ」

「んなアホな」


 どう見ても骨格からして違う顔。

 雅貴おじさんのように、「雰囲気似ているな」程度では収まる範囲にない、女の子のエルフが涼子と言われてもいまいち一致しなかった。


「この腕輪バングルに秘密がございまして、変身後の姿を想像するだけで――」


 「慣れたもんよ」と言わんばかりに、変身ヒーローよろしく構えると、すぐにあの時と同じエルフの姿になった。


「どーよ」

「ってことは、水着でダンジョン歩いている頭おかしい奴って涼子じゃん」

「そこは言わないで……」


 カッコつけながら顔を真っ赤にする涼子。


「じゃぁ、腕輪これを付ければ、誰でも好きな姿になれんの?」


 疑問を持つ朱音に「はいこれ」と腕輪を渡す涼子。

 それを素早く装着すると、朱音は途端にその姿が黒い毛を全身にまとった人狼ワーウルフへと変貌した。


「うっわ、すご」


 スマホのインカメで確認しながら、朱音は「どの角度がカッコいいだろうか」とキメ顔でポーズを取り始めた。


「次、わたし、わたしっ!」


 朱音から腕輪バングルを受け取りカチリ、とはめるとぶよん・・・という音が似合いそうな体系へと変貌した。


「なぜ河童?」

「なんでやねん!」


 朱音と涼子から速攻でツッコミが入った。


「可愛くない? 河童」

「いや、悪いけど、その美意識は分からん」

「同じーく」


 双方からの批判を受け、河童もとい悠は悲しそうに元の姿に戻った。


「それにしても、マジで凄いなこれ」

「ダンジョン攻略には全く役に立たないけど、これだけ遊べるならマジックアイテムの中でもかなり優秀な部類だよね」


 ダンジョンではモンスターを倒したり、宝物の中にユニークなアイテムがある場合もある。

 キラキラスリースターズはそんなものが出てくるような深い階層に行ったことが無いのでまた聞きのような聞いた話だったが、聞いてきた話の中でもこの腕輪バングルはずば抜けてユニークな存在だった。


「これを使えば、おじさんも私たちの動画に出られるんじゃ……?」

「「はっ……!?」」


 朱音の言葉に、悠と涼子は2人して驚いた顔をした。

 雅貴おじさんは、「炎上するから」と頑なに、それこと動画内での手伝いであっても動画に出ることを拒んでいた。


 危険な所へは行かないように、と口を酸っぱくしていってくる雅貴おじさんだが、その主な原因は、撮影していると初動が遅れるからという理由だった。

 でも、これで誰か別人に変装してもらえば、一緒に動画に出ることができる。


「つまり、深い階層に行くことができるって……ことっ!?」


 「それだ!」と、三人は良い考えを思いついたと喜んだ。

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元勇者だけど、お金が無いのでキラキラダンジョン配信系美少女パーティーに寄生してお金を稼ぎます いぬぶくろ @inubukuro

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