第11ゲーム 攻略ラビリンス③
「ふむ…ここで行き止まりっぽいが?」
そう言って誉は濡れ羽色の壁に手を当てた。天井を見上げると、どうやら部屋の壁にぶつかったようだ。
その壁の色は濡れ羽色
どこにも出入り口のような場所はない
間違えたのか。そう思っただろう。だが、どうやらロレットは分かっているようで、ブランカの袖を引っ張った
「?どうかしましたか」
「ブランカお姉さん、さっきみたいにこの壁、蹴り倒せる?」
「可能です。先ほどと同じ素材なので。やりましょうか」
「うん。お願いします!」
ブランカはさっきと同じように左足で蹴りを一発入れる。
「多分、今のルートは濡れ羽が仲間外れなの。ランプブラック。しっこく。あんこく。でも、濡れ羽はくがはいらない上、その時その時によるけど、漢字にするとれが真ん中に入る。くがない。れは必要ないってことだと思う」
当然のように倒れる壁。その奥には…
「一本道か…」
白と黒の壁に囲まれた一つの通路。
その奥は薄暗く目を細めてみても見えない
普通ならこれでクリアのはずだが…誉はやっぱり最後まで怪しむことをやめなかった
誉は壁に手を当てた
(…ただの壁…いや、奥の方にさっきの倒れた壁と同じ素材の壁があるな…進めるには進めるが…ひとまず)
「もたもたしてられない。ぱっぱ遠くに行こう。ルートがなければ戻って来ればいいさ」
「でも、ここの道が塞がったらどうするの?」
「大丈夫。今からその対策をするから」
そう言って誉は胸ポケットから小さな二つの銀色の球をだした
(うん、完全に入ったら壁が下に下がる仕組みか。エラーが起きた場合にしたからもある。となれば、それが降りてこないようにすればいいだけだ)
ゆっくりと心臓から手に向かって力を流していく。
すると青い炎が現れ、二つの鉄球はそれぞれ上と下に分かれて浮いていく。が、それも一瞬にして一枚の丈夫な板へと変わり、ピッタリと額縁のようにはまった。
そして…バキバキバキバキ!っと上下から音が響いた。よく見ると鉄板の一部が凍っていた。
「凄い凄い!鉄球が鉄板になったー!それに…ねぇねぇ、何をしたの?さっきのバキバキーって音!」
ぴょんぴょんと跳ねながらロレットは誉に抱きついた。
まぁ、電力と魔法が主力のこの国では錬金術はとても珍しいものだろう。こうやって子供が興味を持つのはなんら不思議なことではない。誉もそのような理由で錬金術師になったと言っても過言ではないんだから。
「触らないことをお勧めするよ。鉄板はついでだけど、このギミックを完全に潰しにいったんだ。どんなものでも凍らせて仕舞えば勝ちってね」
「でも、錬金術って物質の変化でしょ?水もないのにどうやって作ったの?」
「水なら空気中に大量にあるだろう。でも、今回はそっちじゃなくてこっちを使った。何か自身に変化はないか?」
「へ?」
そう言われて手を見てみる
でも手は違う
じゃぁ足?顔?髪?どれも違う
じゃぁ、服?
「あ、服が乾いてる!」
「なるほど、私たちの服に染み込んでいた水分を集めて結晶化させたんですね…さすが師匠です」
「魔力がなくたって知力と錬金術の仕組みが分かってさえいれば生きていけるんだ。さ、話はここまでだ。タイムリミットが迫っている」
「えぇぇ?急がないといけないじゃないですか!走りましょう!」
「そう言って一番最初に脱落すんのは君だよ、銀葉。自分の体力の無さを忘れるんじゃない」
「うっ…」
「大丈夫です。いざとなったら私が抱えていきます。師匠はロレットさんを」
「ブランカさん…!うぅ、大好きですぅ」
「ほら、急ごう。こっちだ」
それを合図に全員が走り出す。
まぁ、走り出した瞬間見事こけた銀葉は既にブランカによって救出されお姫様抱っこ状態で運ばれている。
「さっきついでにこの通路を確認したけど、一本道だ。行き止まりになったら壁をぶち破ってくれ」
「分かりました」
「…誉お兄さん、それ最初っからやってたら…」
「魔法が遮断されてるなら錬金術も遮断されてるかと思ったんだよ。一か八かやってみたらできただけ。これからはちゃんと使うよ」
すると…
ドォォォォォン!
と後ろから轟音が鳴った
そしてどんどん別の音がこちらに近づいてきている。
「おいおい嘘だろう、もうタイムリミットなのか?!」
『そうですよー。のんびりし過ぎちゃいましたね』
ヴォンっと空中に電子ディスプレイが浮かび上がり、相も変わらず笑顔なロリットが映っていた
『あぁ、大丈夫ですよ。水責めが始まっただけでゲームは続いています。死んだらみなさんの負け。それだけです。大丈夫。ゴールはすぐそこですよ。それじゃぁ、頑張ってくださいね』
プツンと通信は切れ、後ろから水が迫ってきていた。
「っ!水が足元まで来ちゃいましたよ先生!これはまずいです!」
「言われなくとも分かっているさ。ブランカ、ロレットと銀葉を連れて先に行け!まだ防水魔法は効いてるだろ!」
「はい。ですがその量となると危険が…」
「分かった。時間稼ぎは任せろ」
誉はくるっと後ろに振り返りその場で止まる。
後ろからは津波の如く水が攻め込んできている。
自身の横を3人が通ったことを確認し、誉は水をまた凍らせていった。波を一瞬にして氷に変え、壁となる。
だがこれは一時的な凌ぎにしかならない。誉も急いでその場から離れた。
「師匠、壁、貫通しました。ここがゴールです!」
「っ!!」
バリィン!と後ろで氷が割れる音がした。そして再び響く水の音
「トラウマレベルだなこれ!くそっ、とにかく…前方の水を…」
右足を前に踏み込むと同時にブランカたちがいる場所までの水が全て蒸発した。それと同時に靴に染み込んだ水さえも消えていく。
誉は今ある全ての力を足に注いで走った。
そして…
「っあぁ!」
バッとゴールへ着くとすぐにその扉が閉まった。
完全に元に戻れず、水が入ってこないように、まるで金庫のような扉が閉まる
はぁ、はぁ、っと荒い息をゆっくりと落ち着かせ、誉はその場に座り込んだ
「心臓に悪いな、これ…」
「師匠、脈拍数が上がってます」
「これはしょうがないよ。普段は知らないもん…ロレット、無事かい」
「はい。生きてますよ」
と言っているがかなり疲れている様子。
そりゃそうだ。さっきから水責めで殺されかけてるんだから、疲れるに決まっている。
だが休んでいる暇は与えてもらえない。
また空中にディスプレイが現れ、また、気持ち悪いくらいの笑顔でこちらを見つめるロリットがそこに映っているのだから
瑞花誉は禁忌を描く FreeCell @FreeCell-Books
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。瑞花誉は禁忌を描くの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます