第9ゲーム 攻略ラビリンス①

「おなか、すい、た…」


 真っ暗な部屋の中、ぼそっと呟いてみた


 でもそれに答えてくれる人は誰もいない


 お腹が空いた


 何か食べたい


 そうだ、パンと、シチューが食べたい


 あと、真っ赤な苺ののったショートケーキ


 すると、部屋の外から声がした


 とても楽しそうで、幸せそうな会話が


「ハッピーバースデートゥーユー。ハッピーバースデートゥーユー。ハッピーバースデーディア、ロリット。ハッピーバースデートゥーユー。ロリット。誕生日おめでとう」

「ママ、パパ、ありがとう」

「はい。ロリットが欲しがっていた教本よ。役立ててちょうだい」

「今日は特別に苺ののったショートケーキを用意した。しっかり噛んで食べるんだぞ」


 え?ケーキ?いいなぁ、私も、いつか、食べられるかなぁ?


 きゅるるるるるる


 大きくお腹がなった


 あぁ、お腹、へったなぁ


 目が覚めたら、ケーキ、あるといいなぁ





————————————————————





『第1ステージクリア!おめでとうございます』


 ぱちぱちぱち


 画面越しに響く、いやな拍手の音


 わざとらしい笑顔で言ってくるロリットは、こちらの今の気持ちを考えず、兎に角自分の聞きたいことを聞いた。


『これは簡単すぎたかな?まぁ、ロレットがそうすることは分かってたけど…くすくすくす、昔っから慌てたらダメダメだからねぇ。それにしても、本当によく気がついたね、誉お兄さん』

「僕だって最初はロレットと同じことをしていたさ。それでようやく違和感に気づけた。彼女がいたからこそだよ。だから、ロレットのことをダメなんて言うなよ」

「お兄さん…」


 誉のその言葉に、ロリットは目を丸くした


 誉は、今まで『合歓木』として活動をしてきたが、それを天才だからと一括りにされるのが大嫌いだ。だが、本来才能ある者が、一生懸命やった人が、バカにされるのは本当に大嫌いだった。


 だが、残念ながらロリットは何も思わないのか、軽く笑って話を戻した


『クスクスクス。それよりゲームを続けようよ。実は、このホテル『ルフラン』には地下があるの。4人が今いる場所は地下7階の一室に過ぎない。このフロアには系3つのゲームが存在する。それを全てクリアしたら上の階に行けるよ。じゃぁ、あと2ゲームしたら次にフロアに行けるから、頑張ってね』

「始めるならさっさとしてくれるかい。僕たちだって暇じゃないんだ。銀葉なんて明日も一応仕事なんだから」

「そうなんです!社長にどつかれちゃいます!」

『そうなんですか?なら頑張ってゲームをクリアしてくださいね。さて、第2ステージに入りましょう。次はまたもや簡単な脱出ゲーム。迷路です!』


 パチンッと指を鳴らすと四角い部屋の壁のうち三つに長方形の穴が空いた。

 その奥には幾つにも分かれた道


『一面真っ白な壁に囲まれた迷路。ここを10分以内に脱出して見せてください。あぁ、もし制限時間以内に終わらなかったら、また水攻めですからね。じゃぁ、健闘を祈るわ。let's play up!』


 画面が真っ暗になったと思ったらすぐに10分のカウントダウンが始まった。

 本当に待ってはくれないらしい。

 兎に角全員足を進めながら作戦を練っていく


「分かれて行動しない方がいいと思います。固まって移動した方が生存率は大幅に上がります」

「うん。兎に角…無難に真ん中からやってくか。一応聞くけど、ブランカ、空間認知魔術は?」

「無理です。この魔力量では不可能です。チルベなら…」

「それは最終兵器だろう。まだ温存しておけ。さて、進んでいるのはいいが…正直当てずっぽうだな…ロレット、君はこう言うのは得意かい?」

「えっと、実は私もこう言うのは当てずっぽうで…何よりゲームのマップと違って覚えられなくって…」

「覚えるのはもうすでに銀葉がやってくれているさ。兎に角、進んで行ったら何かしらヒントはあるさ。何か気になることがあったら教えてくれると助かるよ」

「うん。じゃぁ、まずは単純に右左交互に進んでみようよ。それでぶつかったら戻りつつ反対の方向に行くの」

「ですが時間制限があります。もうすでに1分消費しています」

「大丈夫…最悪の場合破壊するから」

「型破りですね…ん、先生、あそこ!」


 銀葉が急に足を止めた

 指を刺す方向には壁しかないが…

 誉は彼女が指差す壁をじっと見た。すると…


「…!よく気がついたな!銀葉!さすが僕の担当だ!」


 誉は銀葉の頭をくしゃっと撫でて嬉しそうに壁に近づいていった


「ちょ、紙は女の命なんですよ!そんなにくしゃくしゃしないでください!」


 だが残念ながらそんな声が聞こえるはずもなく、誉は壁をじまじまと見つめた


「はぁんそういうね。こりゃあ僕でもそう気づかんよ」

「…なるほど、そう言うことですか。そりゃぁ師匠も銀葉さんも気が付きますか」

「へ?どう言うことですか?」


 本当に何を言っているのかわからない状態だった。

 誉は何故か嬉しそうに壁を見てるし、銀葉とブランカは納得しているし、チルベは何故か頭に乗ってくるし、ロレットからすればもう何がなんやら状態だった。

 それもそうだろう。画家である誉でさえ気付くのが遅れてしまったのだから。


 ようやく誉はロレットの質問を耳に入れ、よく聞いてくれた!と言わんばかりの嬉しそうな顔で説明し始めた


「この壁だけ、色が違うんだ。これのどこが違うかと言うと今まで見ていた壁の色はいわゆる“白”だ。だがこの壁だけ“白”ではないんだ。この壁の色は“ホワイト”。なら“白”と“ホワイト”はどう違うのかって話にな…」

「師匠、それ以上は長くなえるのでやめてください。今は脱出優先です」

「え、あ、うん…兎に角この色のかべを見つけていくのが良さそう…でも…」

「これが正解かどうか、ですよね」

「さっきのことがあるからな、まぁ、やれることはやっていこう。多分、この壁…ブランカ」

「お任せください」


 ブランカはスカートを靡かせながらクルンと一回転し、そのまま左足で壁に向かって蹴りを入れた。

 本来ならそう簡単に壊れるようなものではない。だが、この壁は違うと誉は触った瞬間わかっていた。

 彼は錬金術師だ。それも、前世はアブソリュートの大錬金術師。

 壁の素材が違うことなんざ触っただけでわかる。

 この壁は、他の壁に比べて脆い。それも…ブランカの蹴りで壊せるほどに


 バァァァァァン!


 思いっきり放たれた蹴りに耐えられず、壁が一気に崩壊した。その先には…


「ビンゴ!」


 今までとは違い、真っ黒な空間が続いていた

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