第8ゲーム ゲームスタート

 悪夢とはまさしくこのことだろう


 なぜ自分は見知らぬ空間にいて、なぜ双子の姉は別の場所にいるのか


 なぜ自分は何も知らず、なぜ双子の姉は知っているような顔をしているのか


 いつもと違う雰囲気


 いつもと違う話し方


 これじゃぁまるで、今までのが演技だったかのような…


 狐に化かされているのだろうか?いやそれはない


 そうではないと信じたい


 だって彼女は、あの時悪夢から助けてくれた、唯一の家族なのだから…


『おはよう、ロレット。いい夢を見れた?』

「悪夢なら見たよ。それより、これはどういうこと?起きたら見知らぬ場所にいて…ロリットは何か知ってるんでしょ?」


 するとロリットは怪しい笑顔で答えた。


『勿論。だって皆さんをここに呼んだのは私達だもの』

「私、達?なんで?どうしてこんなことするの?今すぐ出してよ!」

『大人なんかいなければいいのに』

「!!」

『思い出した?まぁ、思い出したとしてもゲームは始まっちゃった』


 くすくすと怪しく笑うロリット。

 すると彼女の後ろに4人の少年少女が現れた。その中にはホテルで格ゲーをしていたカルテという少年もいた。

 彼らもまた怪しく笑っている。


「ふむ…見事嵌められた、と考えていいのかな。でも、僕たちがここに誘導されてきた、にしてはおかしいかな。多分、大人なら誰でもよかった、って感じか?」

「師匠とロレットさんはまだ子供ですが」

「お前も見た目はそうで中身はちがうだろ…はぁ」

『誉お兄さんに関してはただの見定めです。目的は大人だけ。でも…プレイヤーにはロレット、あなたも含まれているわ』

「なんでっ、どういうことなの?!」

『そんなのどうでもいいわ。今は、ゲームの方が大切でしょう?』


 完全におかしくなっているロリットに驚きと不安を隠せずに、ロレットは誉の腕を無意識に掴んだ。

 すると、ガコッ、ガシャァァン!と四角の壁が小さく外れた。

 そこからは大量の水が流れ込んできた。


「へ?へ?へ?」

「キャァァァ!おぼ、溺れちゃ、泳げないぃぃ!」

「ロレット、君は僕に捕まるんだ。ブランカ!」

「大丈夫です。全ての部位に高レベルの防水魔術はすでに施しています。銀葉さんはお任せください」


 急に押し寄せてきた水の流れに押しつぶされ、溺れないように誉は呆然としているロレットを抱え、ブランカは運動音痴な銀葉を支えて迫り来る水に耐えていた。


 するとそれをサーカスを見るかのように笑いながらロリットは言った。


『ここは私達子供が正義の国。大人は邪魔してこれない空間。皆さんにはゲームをしてもらいますよ。まず第1ステージ、簡単な脱出ゲームです。四角から水が流れ込んできて、時間が経つにつれて次は下の四角が開き8つになる。出入り口はそこの扉だけ。でも鍵はどこにもありませーん。さぁさぁ、あなた達は、どうやってこの部屋から脱出しますか?じゃぁ、健闘を祈るわ。let's play up!』


 ブチっ

 画面が消えた。

 だが今はそんなところではない。

 部屋の半分まで水が浸かってしまった。

 どうにかして脱出しなければ…


(扉は…無理だな、水圧のせいで開かない。力技でも無理だろう…魔術も低レベルのものしか使えない…それに、彼女らがどこまで息が持つかというリミットもある。まだ満水にはなってないからいいものの…水は四角から出ている。でもその穴は人間ではないれない。それに…彼女はこれをゲームと言った。なら、必ずどこかにヒントが…)


 くいっくいっ

 ロレットが服を引っ張った。

 何かを見つけたのだろう、ついて来てくれと先に動き出した。

 水の中に入り、向かったのは部屋の底。

 脱出用扉の反対側の床。

 そこには小さなパズルがあった。

 1〜8までの数がバラバラな場所に置いてあり、会いているマスはたった一つ。

 よくある、数を1〜8まで順番に並べるゲームだ。

 だが、それが正解なのだろうか?なんとなく…違和感が走る。


 ロレットは慣れた手つきでパズルを解き、すぐに1〜8の順番に並んだ。

 これで開くはず…だが…


 ガコン


 鈍い音がした

 すると急に水の流れが強くなる。


(まずい、やっぱり違ったか…なら…)


 急いでロレットを連れて水から顔を出す。

 いつのまにか天井に手が届きそうだった。


「ごめんなさい!間違えちゃった…」

「大丈夫だ。僕も多分まずはそうしたさ。あまり君は喋るな。次は僕が行ってくるから…その前に…銀葉」

「ふあ、ひゃい!」

「今からいう言葉の数を出していってくれ。漢字は漢字のまま。。や、はいらん」

「は、はい!」


「ここは私達子供が正義の国」

「12」

「大人は邪魔してこれない空間」

「13」

「皆さんにはゲームをしてもらいますよ」

「17」

「まず第1ステージ、簡単な脱出ゲームです」「19」

「四角から水が流れ込んできて時間が経つにつれて次は下の四角が開き8つになる」

「36」

「出入り口はそこの扉だけ」

「11」

「でも鍵はどこにもありませーん」

「14」

「さぁ、さぁ、あなた達は、どうやってこの部屋から脱出しますか?じゃぁ、健闘を祈るわ」

「35」

「let's play up!」

「10」


 それを聞いた瞬間、ザバンッと音と水飛沫を上げて水中に潜っていった。

 そしてまた、あのパズルの元へゆく


 誉もまた、この手のゲームは得意だった。

 ナンプレや、パズルなど、頭を使うゲームは特に。

 慣れた手つきで、順番通りに並べていく。


(12、13、17、19、36、11、14、35…10は要らないな…8…はない。なら最後に8を入れて…)


 カチャッ


(クリアだ)


 部屋の鍵が開いたのだろう。急に扉が開き、水の流れに乗ってそのまま部屋の外に流されていく。

 水が引いていくのは簡単だった。

 次の部屋の四角に大きな穴があり、落ちないように網が敷いてある。

 まぁ、水の流れに逆らえるはずもなく、その網に引っかかって全員生き延びることができた。

 銀葉など死にかけている。


「なんとかなったか。おい、生きてるか」

「なんとか。師匠も大丈夫ですか?」

「背中打ったくらい。それより他だ。ロレット。無事かい?」

「はい…すみません。ご迷惑をおかけしました」

「大丈夫。まぁ、いきなりのことだったし、判断力が鈍ってもしょうがない。でも、この先はしっかりしてくれ。僕はアナログゲームしかできないから」

「…はい。でも、なんでわかったんですか?答え」

「あ、私も気になりました」


 どうにかこうにか全員無事だった。

 だがなぜ答えがわかったのかは彼しか知らない。

 だから聞くしかなかった

 すると誉はびっちゃびちゃになった上着を脱ぎながら答えた


「あれの答えはさっき銀葉に答えてもらったかずの下1桁の数だ。2、3、7、9、6、1、4、5。一番右下は8だ。まぁ、そうだね、あの時だけ少し、話し方が違ったというか…区切りがはっきりしていた。それかな…まぁ、銀葉みたいに、脳内で漢字変換して数を答えてくれるやつなんて…ブランカも出来たな」

「出来ますよ。ですが、銀葉さんのほうがはやいです」

「んん…まぁ、それが答えだったってわけ。もし間違ってたら強行突破してた」

「…すごいなぁ、誉お兄さんは…わたし…まだ納得いかないや。なんでロリットがあんなことをしているのか…それに…」


 ロレットは耐えていた涙をポロポロとこぼし、途切れ途切れで言った


「ロリットの、あの目は…スンッ…完全に、殺しに…スンッ…きてた…やだよ…なんで、こんなことになったのかなぁ…」


 先ほどまで仲が良さそうだった双子が、急に仲が崩れ去った。まるで、階段がどんどん崩れていったかのように。

 この双子には謎が多すぎる。

 全員なぜこんな状況になったのか理解できていない。


 急変した双子の姉

 見知らぬ空間

 敵と思わしき4人

 始まったゲーム


 ロリットは誉を見定めと言った。

 じゃぁロレットについては?大人2人のついで感覚だった。


『大人なんかいなければいいのに』


 なんだ?2人は今まで、どんな環境にいたんだ…?


 どれだけ考えてみても、謎が深まっていくばかりだ。


「はぁ」


 誉は思いため息をついて、そしてバサっと上着を鳴らしてそのまま流れるように羽織った。

 さっきまで濡れていたはずなのに、いつのまにか彼の着ているもの全てが乾いている。

 それに驚いているロレットに笑いかけ、そして言う


「悩んでも仕方がない。今は、この悪夢から脱出することを考えよう」


 ヴォン

 そしてまた、嬉しそうな顔でロリットがこちらを見つめていた。

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