第5ゲーム 話を聞けこのクソジジィ!

 宿泊施設『ルフラン』

 黒のキングの麓にある、ひっそりと建ったビルタイプのホテル。

 ホテルのフロントは3階にあって、1階と2階はゲーム会場になっていた。

 こんな時間でも人が多く集まり延々とゲームを繰り返している。

 その中には…


「あ、カルテ!また格ゲー荒らししてる!お客さん困らせちゃダメってオバさんが言ってたでしょう?」

「あーあ?別に良いだろ。格ゲーで俺の右に出るやつなんてそうそういないんだからよ」

「私には負けるくせに?」

「あぁ!?やんのかコラ!」


 どうやら2人の知り合いだろう。

 金髪の少年は向かい合った格ゲー台の片方に座り、反対側は長蛇の列ができている。

 するとロリットが誉に耳打ちしてきた


「あの人、は、カルテ。私たちと、同じ、プロゲーマー」

「そうなんだ…この国は個性豊かな人たちが多いな…」

「うん…長くなる、から、先、案内、します」


 てとてととロリットは歩き、丁度一階に来ていたエレベーターを開けた。

 小さな箱に全員乗り、3階に連れられる。


 誉もブランカも、エレベーターに乗るのは本当に久々だった。

 前にいた桜舞にはなかったし、前々回にいた国にもなかった。毎回こんな小さな箱が人間を乗せて遥か上まで上がっていくのだから凄いものだと感心したものだ。

 旅をしていると、やはり国によってどこまで進化しているのかが目にして分かる。

 やっぱりこのクロスルードゥスという国は発展していた。世界で一番発展している科学の国、ウェーテゥンスヒァップの隣国なだけある。なんならこの国の裏の支配者はウェーテゥンスヒァップと言われているくらいなんだから。逆に、そっちからクロスルードゥスに移ってきた人が多い。特に子供が…


 ウェーテゥンスヒァップは科学の国でありながら知識の国と呼ばれるコネサンスと肩を並べるほどの知識力を持つ国。

 他の国より十数年先の世界の形を成している国で、そこに生まれた子供たちは幼い頃から厳しい教育を受けていく。あそこに住んでいるのは頭の硬い、科学と知識でしか物語れない人物ばかり。そんな国で生まれた子供たちは…そのほとんどが親の重圧に耐えることができなくなり、この国にやってくる。それは、『前世』から全く変わっていないことだった。


(でも、結局この国の裏は奴らなんだから…可哀想なものだな)


「師匠、どうかしたんですか。いつもなら羊羹2本に琥珀糖1瓶分食べている頃ですよ」

「君は僕をなんだと思ってるんだ」

「旅する絵描きで糖分お化け」

「ひどいな。こう見えて色々考え事をしてるんだよ…」

「…羊羹2本でも、食べ過ぎなのに…琥珀糖1瓶…?食べ過ぎ、だと思います」


 ちなみに誉の持っている琥珀糖の瓶は大体映画館で売っているポップコーンのバスケットLサイズくらいだ。

 普通なら糖尿病になるしまずまずそんな生活をしていて生きていられるものかと気になるところだが、彼は人生で一度も虫歯にも糖尿病にもなったことはない。なんなら病気自体かかることがなかった。

 最後にかかった病気は胃腸炎。

 それも『前世』でだ。


「まぁ…良いんだよ、別に。普段からずっと頭をフル回転させてるんだから…」


 チンっ

 エレベーターが上下に軽く揺れて、ゆっくりと重い扉が開いた。

 いつのまにか3階に着いてしまったようだ。

 薄暗い、ほんのりとした灯りの中にカウンターが一つ。

 カウンター、というよりかはポーカーテーブルだった。

 真ん中にはラベンダーが飾られている。

 …時期が違うと思うが。

 カウンターの向かいにはオーナーらしき夫婦が立っていた。

 男は背が高く細身で、深緑の瞳は焦点があっていない。

 女はそれを支えるようにして笑顔で立っている。

 ロリットは2人に嬉しそうに駆け寄っていった。


「ただいま。お客様、連れてきた、よ」

「あぁ、知っているよ。子供たちが教えてくれたからね。道案内ご苦労だったね、ロリット。ロレットはカルテとまた言い争いをしているんだろう。仲がいいな…」


 ふんわりと彼女の頭を撫でて、それから誉たちの方を男は見てきた。


「初めまして、異国のお客様。私は『ルフラン』のオーナーのネックロースと言う。こちらは妻のリリカルだ。よくこんなホテルに来てくれたね。何泊するんだい?」

「えっと、先生…」

「ふむ…それは未定でね、少なくとも1週間はいる予定だ」

「宿泊延長はありだよ。あまりここに人は来ないからね。いるのは子供達くらいだ…なら、まずは1週間コースかな。残念ながら個室は子供たちが使っていてね、4人部屋を3人で使ってもらうことになるが…よろしいかね?」

「…ん?4人部屋を、3人で…?」


 4人部屋を3人で使う

 別に大したワードじゃない。

 だが、誉の性別を知っている者からすればそれは大問題だった


 誉はいくらなんでも早急に言わなければならないと判断してポーカーテーブルにバンっと手を叩きつけた


「残念だが、僕は男なんだ。だから2人部屋と1人部屋の二つを用意してもらえないだろうか?金はいくらでも出すんで」

「ふむ、だが1人部屋がなくてだな…どうにかお二人を説得して3人部屋でいけないだろうか?」

「僕が嫌なんだよ。女性と一緒の部屋は息が苦しくなる」

「師匠、船では一緒に部屋でしたが…」

「ブランカは別!今回は銀葉がい…」

「私は大丈夫ですよ!」

「…らしい。では、3人部屋で準備をさせてもらおう。リリカル。準備は頼んだ。その間に…坊や、私とゲームをしませんか?そうですね…単純にリバーシブルにしましょうか」

「勝手に話進めてんじゃねぇよ…てか、この机ならポーカーだろう」

「ふむ、では始めようか。先手は譲ろう」


「僕の話を聞けこのクソジジィ!」


 結局、誉の意見は採用されることはなく、キレた誉は盤面を全て自身の色に塗りつぶし、虚しい声だけが響き渡ったのでした。

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