第2ゲーム 歩く本棚 ゲーム破壊

「先生!本当にあなたって人は!なんで物事考えずに自由奔放に動きまくってるんですか!クロスルードゥスは携帯がないと入国禁止!そんなの常識中の常識ですよ!引っかかる人なんて初めて見ました!」


 と、あられの特殊な力で瞬間移動して来た銀葉はその場で誉を正座させ、ガミガミと説教をし始めた。

 オレンジ色の髪は左上の方で花型に結われ、瞳は澄んだ青空のように綺麗な青。大きな丸メガネをかけている。そんな彼女こそが、誉の担当を務めている人物、銀葉だ。


「全く。お金は次の絵のオークションで出たお金から引いておきますからね」


 と言って彼女は誉にブランカと同じ、スティックタイプの携帯を渡した。


「ある程度の設定は終わっています。なのでもう入国できるかと」

「ん、ありがとう、銀葉。あられもありがとう。はいこれ。船で売ってた水饅頭。黒蜜ときな粉をかけて食べると美味しいよ」

「わぁ!ありがとうございます!誉さん!では銀葉さん、またお帰りの際はお呼びくださいね」

「あ、ありがとうございました。あられさん」

「はーい!では、またのご利用お待ちしております!」


 あられはいつものセリフを言ってその場からポンッと消えていった。

 なんで急に現れて急にいなくなるのかは企業秘密だ。知ってるのは社長の摩多羅またら影冥えいめいと上司の蛙生かわずい翠雨すいう。そして誉くらいだ。

 兎にも角にも入国することが可能になったわけだ。そこで近くにいた門番たちを見ると、全てを見ていたのか門を開けてくれた。

 急に強い風が吹き抜けていき、銀葉が一生懸命飛ばされないようにブランカに捕まっている。

 誉はじっとその場に立ち、そこから見える世界を目に焼き付けた。

 壁に負けないくらいに高いビル。

 所々チェスの巨大駒が置いてあり、街がチェス盤のようになっていることがわかる。

 空にはドローンみたいなのが飛び回り、中心には大きな飛行船。そこから流される今日のトップランカー。

 そこらじゅうにファストフード店とゲームセンターがあり、完全にゲーム好きにために作られた街だ。


「…想像よりすごいな。でかい」

「そうですね。でも、アブソリュートの防護壁の方が高いです」

「あれは…レベルが違う。守ると言う意味もね…さーて、なーにやるか?やりたいゲームある?」

「私、ゲームしたことありません…銀葉さんは…?」

「へ?私ですか?基本的にゲームはしません。読書ばっかりなので…」


 このメンバーは全くゲームをしない奴ばかりだ。

 特に全くと言っていいほどやらないのがこの銀葉という女性である。

 誉はデジタル系のゲームはしない。アナログ系のゲームならやる。例えば、ポーカー、ブラックジャック、ソリティア、チェス、将棋、囲碁…などなど。

 ブランカは生まれた環境が環境のせいでゲームに触れたことがない。でも、電車や船の中でたまに誉と一緒にやっていることがあるため全く、ではない。

 では銀葉はどうか。彼女は本の虫である。または歩く本棚。そのあだ名の命名者である摩多羅影冥曰く


「少なくとも、読んだ本を一言一句間違えずに覚えてるし、なんなら本の題名を言ったら一瞬で思い出すしな。コネサンスの大図書館の本を読み漁ったらしいしな。携帯で調べるとか早いから俺の秘書にならねぇかって聞いたんだけどそっこーで断られたわw」


 つまりそういうことだ。

 花より団子

 団子より本

 ゲームより読書

 という感じなのだが…それ以外にも理由があるのだ。

 なんせ彼女、ゲーム…特に電子ゲームをやってみてもゲームの機械をぶっ壊すのである。

 どういうことだと思っただろう。

 では想像してくださいませ。


 まず、目の前にお好きなゲーム機械をご用意くださいませ。あぁ、まだ起動はしないでくださいね。

 ではそこに銀葉を置いてください。

 彼女に電源をつけさせてみてください。

 はい、それでゲーム機が壊れました。

 修復してみてもセーブデータも全て消えています。初期状態スタートとなります。


 携帯は壊しません。何故なら彼女にとって必須品ですので。

 まぁ、そういうことがあってやらなくなったわけです。ちなみに、アナログゲームはただ単純に弱いからだ。


「じゃぁ、まずはホテルをとりに行って…」


「イカサマしてんじゃねぇよこのクソガキィ!」


 そんな声が耳に突き刺さった。

 なんだと思うとそこには二つのゲーム機を挟んでおっさんと小さな子供がいた。

 おっさんの方は完全に酔っている。

 イカサマ…ということは少女が不正したと言いたいのだろう。

 だが…あのタイプのゲームではイカサマはしにくい。ただのプレイスキルだと思うが…


「おいおい、またやってるぜあのクソジジィ。この国じゃイカサマしたら一瞬でバレるっつうのに…」

「何より対戦相手がな…イカサマなしの天才ゲーマーだぜ?無理に決まってんだろ」


 どうやらいつものことのようだ。

 それに…あの少女はとんでもなく強いらしい。ただ単純に負けて悔しいからあんなことをしているだけだろう。阿呆だな。


「うぅ、この街はこんな人ばっかりなんでしょうか…先生、早めに行きましょう…きゃっ!」


 ドンっ!と誰かが銀葉に当たった。

 ハンバーガーやフライドポテト、コーラーが空を舞い、ビチャビチャっと地面に落ちる。

 それに自動掃除ロボットが気がついて跡形もなく片付け始める。

 簡単に倒れてしまう銀葉をブランカがすぐに支える。


「いっててて、ありがとうございます、ブランカさん」

「相変わらず弱いですね。やわいし…」

「う、否定できません…」

「…それよりも、大丈夫かい?」


 誉は先に銀葉にぶつかった方を気にした。

 ぶつかったのは少女だった。

 手を差し伸べると、目に涙を浮かべながら手を取り、立ち上がった。

 くすんだ金色の長い髪はバサバサで、右から左にかけて短くなっている。

 目は太陽のように真っ赤で、どこか弱々しい表情だ。

 真っ赤なバッテンと真っ青なボタンの目。

 片方は真っ白な包帯、片方は縫い付けられた猫耳のフード。

 所々包帯とファスナー、縫い目などが付いた服。

 右足は包帯でぐるぐる巻き、右は赤、左が青の靴を履いている。

 そして、右目は真っ黒な生地に金色の刺繍で目が描かれている。

 大体身長は140後半くらいに身長。

 手には猫のようなぬいぐるみがあった。


「あ、えっと、ごめんなさい…ぶつかって…しまって…」

「い、いえ!私もみていなくてごめんなさい。怪我は?ありませんか?」

「は、はい。大丈夫です…ご、ごめんな、さい」

「謝らなくていいですよ!私が悪かったんですから…」


 お互い謝られ、謝り返す。それの繰り返しが始まった。

 全く、これを何時間やるつもりなんだろうか…

 誉は軽く頭を抑え、銀葉の頭を掴み、ぐいっと引き寄せ、その少女に聞いた。


「お嬢さん、前に誰かがいることを忘れることを気づかなかったんだから、そこまで急いでいたんだろう。何かあったのかい?」

「はぅあ!そう、でした…あ、えっと、どこでやってるんだっけ…」


 どうやら誰かに食事を持って来たようだ。

 いや、今、朝なんだが…


「あ!おーい!ロリットー!」


 そんな声が、先ほどのゲームセンターから聞こえたのだった。

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