二枚目

チュートリアル

「ロイヤルストレートフラッシュ。はい、僕の勝ち」


 桜舞から出発した超大型客船『桜吹雪』

 その船上カジノ

 一つのポーカーテーブルに人々が集まっていた。

 その中心にはこのカジノの総支配人らしき顔を覆い隠すような仮面をした男性と、反対側に堂々と座っている黒い仮面をした女性がいた。

 雪のような白銀の長い髪が特徴的なその女性はポーカーのプロと呼ばれる総支配人相手に現在20戦中19勝1敗。19連勝中なのだ。彼がくる前に相手をしていたディーラー達との対戦を合わせると合計ゲーム回数122戦120勝2敗。

 いくら総支配人でもこれ以上の負けは不味かった。

 彼は毎回イカサマをしていた。

 賭けとカジノの国、オリジュールでも誰にもバレず通用してきたディーラーだった。

 なのになぜ、なぜこの女性には勝てないのだろう。

 勝てたのはたった一回。初戦だけだった。

 なぜこうも勝てないのか。

 なんならあちらにペースを奪われてしまう。

 どうイカサマしても思い通りにならず、相手が勝ってしまう。

 まるで、彼女の手のひらで踊らされているかのように…


「ふむ、こんなもんか」


 すると女性は満足したのか席を立ち、今までの勝負を見守っていたディーラーに声をかけた。


「これ、全部換金してくれる?できれば早くめに。明日の…ってもう今日か、今朝到着予定の港で降りる予定なんだ」


 そう言ってチップを任せて船上カジノからその姿を消した。


 その数週間後だろうか、船上カジノの総支配人が引退したと、風の便りで彼女の耳に入ることになった。



————————————————————



「師匠、起きてください。もう朝ですよ。数分したら港に着きます」


 4212号室に響く綺麗な声。

 リリリリリリリリリリリリリリリ…っと鳴り響く電話の音。

 にゃーんと鳴く機械混じりの猫の声。

 スースーと寝息が混じる。

 若葉のように綺麗な、三つ編みカチューシャにした髪に瞳は髪と同色。だがどこか他の人たちと瞳孔が違う女性が、布団から出てこない師を起こそうと布団を叩いた。


「なんなら銀葉さんから電話が来てます。それも6回。何度も出ては寝てると言って待ってもらってます。もう限界だそうです。早く出てください。じゃないとチルベ…」

「うっ…頼むから…それは…やめて…」


 ようやく起きたらしい、布団の中から少しだけ顔を出してきた。

 雪のような白銀の長い髪は寝起きのせいでボサボサ。うっすら開いた瞳は深い深海のような色と太陽に照り付けられた向日葵のような色のオッドアイの女性だ。

 どうやら寝不足なようで、目の下にクマができている。


「帰ってきたのは3時でしたか。先ほど船上カジノのオーナーがゴマスリをしながらメラを持ってきました。おそらくあれはもう2度とこないでくれ、ですよ。一体どうやったらあれだけ儲けることができるんですか?」

「…相手の…癖と…イカサマを…している…手を…よく見たら…出来た…確か…1億メラ…だった気が…する…」

「ただでさえ絵で儲かっているのにこれ以上儲かってどうするつもりですか。大富豪になるつもりですか」

「大富豪なんて…やだ…僕は…ただの、旅人で…絵描きだし…」

「…それより、早く電話に出てくれませんか」

「…ん」


 もぞっと布団から手を出して、摩多羅堂が開発した新型の携帯を受け取り、ボタンを押して電話を繋げた。


「もしもし…ぎん…」

『あー!ようやく出てくれましたね!『合歓木』先生!まったくもう、今どこにいるんですか!すぐに行くんで!』

「別に…こなくて…いいよ…」

『ダメです。次の画集の打ち合わせです!多くの方々が待ってるんですよ!ほら、今どこですか?』

「…船の、中」

『では次の目的地はどこですか?』

「…」


 むくっと布団から顔を出し、カーテンを開けた。

 汽笛が船内まで鳴り響き、窓の外には大きな門。

 門の奥にはチェスのルークのようなものが見える。

 彼女は…瑞花ずいかほまれはどこか楽しそうに答えた


「クロスルードゥス…遊戯の国さ」

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