第23話 覚悟 告白
「うぁ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
元老はすぐさま自分を守るために晴茂や衛兵を押し倒してそのまま逃げようとした。
どしんと尻餅をつく晴茂。
目に見える元老は…父は今までの栄光は消え去り、崩れ去って行ったのが目に見えた。
周りから飛んでくる国民からの怒声と物。
頭にまんまとゴミを被り、無様にも元老は逃げようとするのをやめない。
だが…
「うっつ!ぐあぁぁ!離せ!わしを誰だと思っているんじゃ!わしはこの国の王になる者じゃぞ!早く離せ!離さんと殺してやるぞ!」
いつの間にか行先に現れた翠雨の長い足から繰り出される蹴りが元老に直撃し、その場に倒れ込む。
それをすぐに水魔術で作り出した普通の何十倍もの大きさをしたカエルが上に乗り、その動きを封じた。
「残念やけど、あんたがアタシに勝てることはないよ。0%や。元『
「う、『
「やから、元やっていっとるやろ。もう引退してる。あぁ、安心しぃや。実力は鈍っとらんからなぁ」
「くそ!くそくそくそくそ!これも全て貴様のせいじゃ邑楽繚乱!」
そう叫んでみるがもう全てが遅かった。
国民全ての元老を見る目が変わっていた。
冷め切った、冷たい目。
突き刺さるようにその視線が飛んでくる。
元老はついには言葉を失ってしまった。
戦意喪失した元老を横目に、繚乱はその場に姿勢正しく正座した。
一気になんだなんだと目線が集まる。
丁度ほとんどのものが視線を揃え、見えていないものにも状況が伝わったその瞬間、一瞬にしてその場がざわめいた。
ドゴン!
強く、痛々しい、何かと何かがぶつかる音がした。
まさかの繚乱が土下座をしていたのだ。
よく見ると地面と頭の間に血溜まりができ始めていることに気がついた影冥がすぐさま駆け寄って顔を上げさせようとしている。
「おい!血が出てる!早く顔を上げろ!頭からは洒落にならねぇ!」
だが繚乱は一切動かない。動こうとしない。
何が何だかよくわからない状況のなか、繚乱は口を開く。
「この度は我が家臣が皆に多大なる迷惑をかけたことをこの場において謝罪する。この騒動の原因は私が起こした一つの過ちから始まる。私には姉がいた。だが姉は子を産んだ後すぐに亡くなり、私はその夫と言い合いになり、押し倒してしまった。殺す気はなかった。と言うのはありきたりな答えだ。だが私から言えるのは姪の父親を押し倒し、打ちどころが悪かったため殺してしまった。それを家臣達に弱みとして握られ、こんな事態に陥ってしまった。奴らは黒魔術によって作られたマジックアイテム『狐の悪戯』を使って我ら桜舞の神、桜水龍王命様の魂と亡骸を龍昇桜に宿し、怨念をためさせ、『祟り神』にしようとしていた。私は弱みを握られたのは勿論、姪を人質に取られ逆らえる状態ではなかった。そのせいで皆を騙すこととなってしまった。誤って許されることではない。それはわかっている。だが、謝らせてくれ。本当に申し訳ない」
言葉通り、謝って済まされることではない。
一国の王だからと言って殺人は許されないことだし、何より神を利用していたのだから。
だが国民はすぐに一つのことを理解した。
国の象徴である龍昇桜…もとい水龍神が亡くなり、ましてやそれを利用していた。だがそれを知らずに自分達も利用されていたのだから。
全ての元凶は桜舞君主ではなく、元老や、家臣達だと言うことを。
すると誰かが声を上げた。
「君主様!確かに殺人は悪いことだけどよ、水龍神様と俺らをいいように使おうとしていたのはあの元老どもだ!全部が全部あんたのせいじゃねぇ!だから顔を上げてくれ!」
いつぞやの桜焼きの店主だった。
その手には相変わらず桜焼きがある。
店主の声を元に、その場がどんどん桜舞君主への優しさの声で集まり始めた。
「君主様ー!大丈夫だ!顔上げてくれー!」
「君主様ー!」
「桜舞君主ー!」
一つ二つと声が重なり合っていく。
その声に繚乱は体を震わせた。
怒っているんじゃぁない。
嬉しいのだ。
繚乱は腕で目元を擦りながらようやく顔を上げ、血を流した顔で何かを決心した顔に変わる。
桜桃色の瞳は鋭く、国民全員を見渡すように、ハッキリと、こう言ったのだ。
「私は桜水龍王命様を利用したこの騒動に終止符を打つ。だが私も人を殺めた故、罰を受けるも当然の立場だ。そこで、私はこの場を持って桜舞君主の座を降りることにする」
「…えぇぇぇぇぇぇ!?」
国全体が震えた
いつのまにか声を拡散する魔術を繚乱は使っていたらしく、会場から離れている龍華神社にも聞こえていた。
「次の君主はもう決めてある。第192代桜舞君主、邑楽繚乱の名において宣言する。第193代桜舞君主に、我が姪。邑楽桜咲を任命する!」
国民の目線が一気に繚乱と同じ髪色と瞳を持つ少女に集まった。
桜咲からすれば集まったその目は恐ろしいものに変わりなかった。
今まで人目につかず生きてきたが故にこんな場には慣れていない。
もしこんな大勢に見られる気概があったとすればそれは家臣達による汚物を見るような目だけだった。
ただ不安だけが彼女を襲った。
そして彼女が恐れていた言葉がしんとした空間に、小さな声だとしても聞こえ、やってきたのだ
「あんなチビで桜舞君主が務まるのかよ?」
と
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