第22話 号外 屈折魔術 逆転

「あ、あぁ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 元老の狂った声がその場に響き渡った。


 朝の満開祭会場。その中心である龍昇桜の下でことは起こった。

 観光客はおろか、国の人々がいる中で、この国の運命が左右されることが起こったのだ。


 龍昇桜の幹をグルーっと一周囲んでいたしめ縄が青い炎に包まれ消え去っていったのだ。

 そして次の瞬間、龍の咆哮が国中に響き渡った。

 龍昇桜は姿を変え、薄紫を帯びた銀色の龍へと姿を変える。

 その龍の美しさに皆、目を奪われ、人によれば国に伝わる伝説の竜を思い出させた。

 だが龍が現れたのは一瞬だった。

 龍は桜が散るようにして桜吹雪を作り消え去って行った。

 何が何だか分からない人々と、消え去った龍に絶望を覚えた城の家臣ども。

 元老は杖から手を離してしまいふらふらとその場に座り込んでしまった。

 そして


「なぜじゃ。なぜしめ縄が…『狐の悪戯』がとれてしもうたんじゃ!どう言うことじゃ!晴茂!」

「分かりません。ですが…あれを破壊できるのは…」

「!邑楽繚乱…あのクソアマがぁ…!」

「ですがおかしいです。やつはここに姿は表していません。破壊は不可能です」

「ならなぜじゃ!なぜ水龍神が解放されてしまった!これではわしの計画が…!」


 元老は国民の前だと言うのに声に出して騒ぎ始めた。

 それを止めようと晴茂が動こうとするがそれはすでに遅く、元老がついに口走ってしまったのだ。


「なぜじゃ…なぜ計画が崩れたんじゃ!水龍神を『祟り神』にして神を殺さなければならないのに…全てをわしのコマに…!」


「へぇ、おっさんそんなこと考えてたのか。どーりでな」


 そんな声が響いた。

 これは聞いたこともある声。

 あの日の夜。契約を結んだばかりの男…そう、摩多羅影冥が立っていた。それも2人。

 それに加えて蛙生翠雨、七下雨あられ、そして命と邑楽桜咲までもがいた。

 次々と予想外の出来事が起こるため元老や晴茂、そしてその場にいた衛兵と国民たちは驚きを全く隠せない。

 すると影冥がもう一人の自分にこう言った。


「いんやぁ、まさかここまでしてるのに気づかないとはな。エンチャント目視化できるやつってそいつだろ?全く気づいてないぜ?」

「それについては同意見です。まぁ、こいつらの面白い顔が見られて私は嬉しいですよ」


 全く話し方の違う2人の影冥。

 だが元老と晴茂はすぐに理解した。あの話し方はよく知っていた。普段はこちらが有利はずなのになぜか奴が話すとあちらに飲まれそうになる。そんな声だ。

 元老は顔をどんどんタコのように赤く染めていった。

 そして唾を撒き散らしながら怒声を浴びせる


「まさか摩多羅堂社長に姿を変えて出てくるとは何事じゃ邑楽繚乱!」


 魔術の中に光属性を使った屈折魔術が存在する。だが光属性を持っているから使えると言うわけではない。魔術にもランクというものがあり、1〜10のランクが存在する。数字がでかいほど強い。屈折魔術はその中でも7に位置する。そのためほとんどのものが使えないが…


 ぐわんっともう一人の影冥が歪み、徐々に本人の姿に戻っていく。

 一瞬にしてその場に国民達の驚きの声が上がった。

 この国において彼女を知らない者はいない。

 強く、美しいその女性を見て皆の顔は喜びに変わる。

 この国で唯一桜色の髪をもってして生まれる当主の一族、邑楽家。

 現桜舞君主、邑楽繚乱がそこにはいたのだ。


「よくもまぁ今まで私を利用し、国民を欺いて来ましたね。その上神を自身の支配下に置いて全神を殺す?冗談を。お前は『神殺し』にでもなりたいのか?それとも、桜水龍王命様を利用した罪でこの場にいる桜舞国民全員に恨まれるか…さて、どうしたものか…」

「黙れぃ!なぜだ、なぜ、どうやって壊した!」

「簡単なことよ。あの夜、あんた達が会った摩多羅影冥は私だった。その時に私の魔術で『狐の悪戯』を壊したの」

「そんなわけないじゃろ!『狐の悪戯』はさっき!この場で!この目で壊れるのを見たんじゃ!」

「幻覚魔術よ。これも屈折魔術と同じ技術。でもそれは壊したところを屈折魔術で見えないようにしただけ。さっきまでついていたのはただのしめ縄よ。ん…ただのしめ縄じゃないわね」


 元老達の計画の外でもまた別の計画が存在した。


 誉が考えた計画は次のとおりだ。

 まず翠雨が水魔術で水鏡という鏡を作り出し元老や家臣の姿、及び龍昇桜と『狐の悪戯』を確認する。そこで誉が錬金術を使い『狐の悪戯』と全く同じ見た目、全く同じ効果のものを作り出す。

 そして影冥の姿をした繚乱とその秘書役としてブランカが同行し、相手に仲間だと勘違いさせている間に屈折魔法を駆使しながら『狐の悪戯』を破壊。その裏で待機していた命と翠雨がこっそり偽『狐の悪戯』をつけ準備完了。

 同時刻に誉が絵を描き進め、あられが配達し、今頃…


 と言うところで裏から慌てた様子で衛兵の一人が元老の元に駆け寄り、耳打ちする。

 するとみるみるうちに元老の顔色が悪くなっていく。

 その表情を見て影冥は悟り、ニッと笑った。

 そして次の瞬間


「号外!号外だよー!『禁忌の箱』!『真実の鏡』!『合歓木』先生の新作が5500億メラで落札!舞台はなんとここ桜舞!」


 国がざわめいた。

 新聞一面を飾る美しい絵。

 そこには『合歓木』が描いた作品が写されている。

 ばさーーーっとぶちまけられる号外に引っ張りだこの人々。

 そして確認した瞬間、皆の元老を見る目の色が変わり果てた。


 その状況に絶望しか見えない元老に近寄って来た繚乱がはっきりと言った


「もう逃げ場はない。大人しく罪を認めてもらうぞ」

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