第20話 計画 猫 準備
深夜0時の祭会場
観光客も地元の人間もその場にはおらず、静寂だけがその場を支配していた。
龍昇桜のすぐ近くには衛兵がずらりと並んでおり、とある人物に向けて敬礼している。
腰の折れた小さな老人と、目元が髪で隠れた背の高い青年がその敬礼の相手だ。
腰の折れた方がボソボソっと呟く。
「計画は順調に行っているようじゃの。まぁ、一つ予想外が起きたがのぉ…
「はい。申し訳ありません。私の魔力量では監視魔術の範囲がギリギリでした。なので実際に行ってみるしかないかと…」
「そうじゃろうな。じゃが下手に動けば水龍神様の娘である龍姫様にバレてしまうかもしれん。そうなっては我々の計画は終わりじゃ。慎重に動かなければならん」
「はい。それよりも、元老殿。今日来た客人ですが…本当によろしかったのですか?こんな時間に龍昇桜を見たいだなんて…いくらなんでも怪しいかと」
「ふぉっふぉっふぉ、大丈夫じゃよ。あれは大物じゃ。丁重に扱わんといかん。それに、あやつ如きに何かされてもこの兵の量なら勝てるわい」
そう言って2人はちらっと客人の方を見た。
20時頃、とある客が城にやってきた。
桜舞君主が逃亡している中、次の立ち位置にいる元老がその人物と出会った。
まるで椿油でも塗っているかのように艶やかな黒い髪に燃える炎のような真紅の瞳。
和装のようで動きやすい、今時の様式に作られた黒と白の服。その左胸には金属でできたアクセサリーが飾られている。
ふぅんと興味深そうに顎に手を当てて女性のような男性は言った。
「いやぁ、さすが世界一美しい桜といわれるだけありますね!管理されるのも大変でしょう」
「いえいえ、これも当たり前のことです。ですが最近害虫の被害が酷くなっておりましてな、ぜひご支援いただけたらなと思っておるのですが…どうですかな?」
それに青年はニヤッと笑い、宣言した。
「ぜひやらせてください。我が摩多羅堂の名にかけて、龍昇桜のためにご支援いたしましょう!」
そう、自信にあふれた笑顔で、摩多羅影冥は宣言したのだ。
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同時刻______
誉とブランカはまた『鱗月の湖』にきていた。
勿論絵を描くために来たのであって彼の言った一芝居の中で今この行動は意味をなしてはいない。
ただこの芝居の結末を描くだけだった。
誉の隣で火を焚き、その場で日記をつけているブランカがふと質問した
「師匠、なぜこんな回りくどいことをするのですか?普通に壊して解放すれば早いのでは…?」
それについては当たり前の質問だった。
確かにブランカの言うとおりさっさと壊して魂を解放させた方がいいだろう。それが最速の策だ。だが誉はあえてそれを選ばなかった。その理由は…
「僕の絵は、真実だからこそ信憑性を増す。そのために必要な芝居だよ。使える時はどんなチャンスでも利用しないとね。今回もそのためだよ」
「つまり自分のためというわけですね」
「僕を悪人みたいに言うのやめようよ、ブランカーんむんぎゅ、むぎゅぎゅ、むぎゅ」
べちゃっと誉の顔にチルベがいきなり張り付いた。
絵を描いているときにこいつはよく顔に張り付いてくる。こうされた時は強制的に休憩と決まっていた。
そのときの状況によって誉の機嫌が変わるが、今日はとても機嫌が良かった。
キャンバスを見てみるともう7割ほど埋まっている。
メリッとチルベを剥がすかと思いきや誉はその状態で猫吸いを始める。
誉は猫が好きだ。いや、それについては語弊がある。
誉が好きなのはチルベだ。こいつ、機械混じりのくせに体がもっふもふのもっふんもっふんなのだ。それがいつも重要なときに顔にひっついてきたり頭ににって来たり、さらにはいつの間にか腹の上で寝ているのだ。
もうこれが悪いんだ。
誉は慣れたようにそのままブランカの方を向き、そこでようやくベリッとチルベを外した。
「はぁぁ、チールーベー。お前はほんっっっっと癒しだなぁ。はぁぁぁ」
ゆるっゆるの顔で誉はそう言って、ブランカから紅茶を受け取る。そしてまた砂糖を…
「師匠、ダメです。それ以上糖分を摂取すれば完全に糖尿病に…」
だがそれを振り切り、ドバドバっとぶっ込み、一息ついたところでチルベの腹をちょいちょいっと遊びながらいつも通り真剣な眼差しに変わった
「第一に信憑性を高めるため。第二にあの親娘のため。第三にクソッたれどもを地獄に叩き落とすためだよ。ああいうやつは基本的に本当に痛い目に遭わないと反省しない。まぁ、今回のは痛い目に遭うというか、絶望させる、っていう方が似合ってるかな」
「その、第二についてはどういう考えなんですか?私では理解できません」
「あぁ、それはね…あの親娘がこの騒動の後も平和に暮らしていけるためさ。とにかく、僕らの計画は火種が設置できて、尚且つ僕の絵が完成すればスタートだ。銀葉にも連絡したし、準備が整い次第全部終わらせられるからね」
そう呑気に話していると、桜の木下の鳥居から命が出てくるやいなや嬉しそうな顔で言った。
「こちらの準備は全て完了したぞ!『合歓木』先生!絵の方は順調か?」
その報告に誉はニヤッと笑いすぐにまたキャンバスに向かい合った。そして
「もう終わるさ。大丈夫。何があろうとも、この勝負において奴らに勝ち目はないんだからね」
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