第18話 罪の束縛 謝罪

 錬金術師の等価交換と一般人の等価交換とでは意味が違う。

 だが瑞花エレンは意味が違えどやっていることは同じだろうと言った。


 例えば金と銀があるとしよう。

 これを平等にするためには金の価値と銀の価値が同じでなければならない。

 なら人々はどうするか。

 1cm3あたり金は19.3g。銀は10.5gだ。

 では人々はこれをどうやって等価交換するのか。値段で決めるのか、それとも同じ重さにして決めるのか。結局その物の質量や価値で決める。

 錬金術においての等価交換はその素材から同じ物質量を変えないと言う物だ。

 だがそれは結局のところその物を知ってないといけないわけだ。

 ではそこで、とエレンは言った。

 物質でさえ平等であるのになぜ人は平等でないのか。

 遊んで暮らしているだけの貴族と働いて苦しく暮らしている国民。

 作るだけ作らせて残してしまう貴族と食べたくても食べられず飢えて死んでしまう人々。

 なぜこんなにも人に差があるのか。

 金を持っているから偉いのか、地位があるから偉いのか。そんなはずがない。

 瑞花エレンが死ぬ前に新聞にて彼のこんな言葉が出されていた。


「人は皆平等だ。貴族も平民も関係ない。この世に生まれてきて人々に優劣をつける意味などないんだ。その時の状況によるが、別に自身が尊敬する人以外に敬語なんて使わなくていいと思うんだよね、私は」


 誉はエレンだった時も基本的に敬語なんて使わなかった。

 それが王であったとしてもそうだったし、そんなことをしても王も珍しいやつだと笑って承諾し、それもそうだと言って家臣たちに敬語はいらんと言った。(まぁそれで変わることはなかったのだが)

 恐らく使ったのは自身の師と妻だけだろう。

 それから誉に転生した後も敬語を使うのは今の所翠雨だけだった。


「一応状況によって話し方は変えているさ。例えば冠婚葬祭とか、ね」

「他は?」

「本気で誰かに物事を懇願する時」

「他」

「翠雨さんだけだね」

「アタシに対して敬語使ってるところ、たまーにしか見てないんやけど?基本さん付けなだけでタメやないかい」


 すぐに翠雨にツッコミを入れられ、それを笑って誉は受け止めた。


 すると、ようやく我に返ったのか桜舞君主が一度声を出そうとして、それをやめて、覚悟を決めて、両手を膝より前に出し、そして、頭を深く下げた。

 いわゆる土下座状態だった。

 それにいくらなんでも驚いた桜咲が慌てて彼女の服を掴みグイグイと揺らした。


「母上!何をなさっているのですか!桜舞の君主たる者そう簡単に頭を下げてはいけないと家臣たちが言っておりました!」


 だが繚乱はそれに動じず、頭を下げたまま話し始めた。


「申し訳ありません。瑞花殿。こんな老耄の接吻など気持ち悪がられたでしょう。このお詫びは必ずさせて頂きます」

「いや、もうそれはいい。いいから僕に思い出させないでくれ。それより、頭を上げてくれ、あなたには聞きたいことが山ほどあるんだ」

「龍昇桜と、この国の現在の状況、ですね」


 頭を上げた繚乱は落ちてきた前髪をスッと耳にかけ、じっと誉たちの方を見た。

 繚乱は化粧をしていなくてもとても美しい顔立ちをしていた。

 白く美しい肌。

 国中に咲き誇っているどの桜よりも美しい色の髪。

 美しく強い桜桃色の眼差し。

 その目と姿にどれほどの人物が惚れ込んだことだろうか。

 彼女は桜咲に「あっちのお嬢さんと遊んでおいで」と軽く伝え、この場から出す。

 そしてまた誉をまっすぐと見つめ、薄い唇から言葉を発するたびに、君主としての強い自信の声が響く。


「桜水龍王命様が亡くなったのは今から10年前…丁度桜咲が生まれた頃でした。その頃に私はこの子の父親と揉め合いになり、この手で…」

「打ちどころが悪かったんだろう。それを家臣どもに見られて弱みを握られてしまった、そうだな?」

「その通りです。そこで家臣たちに黙っているから言うことを聞けと言われ、言われるがままにやってきました。出来るだけ民を傷つけないようにと懇願し、私はその裏で桜水龍王命様をあの龍昇桜にその亡骸を閉じ込めるように言われ、しめ縄で魂と共に閉じ込めました。しめ縄には、私の束縛魔術がかけられています。それも、黒魔術を使いより強化し、魂を束縛させ、さらに怨念を発生させやすくする呪いがかかっています」

「なっ!何故そんなことをしたんじゃ!そんなことをすれば、父上は本当に『祟り神』になってしまう!」

「分かっています!分かっているのです…私も本当はしたくありませんでした。ですが、家臣の1人に魔術のエンチャント効果を目視出来る者がいるのです。言われた通りにしなければ、あの子の命が危ないのです」


 桜咲はあられやブランカと共に床でゴロゴロとしているチルベを撫でまわし楽しそうに笑っていた。

 それを見つめる繚乱の顔は姪っ子を見るのではなく本当の子供のように見つめていた。


「エンチャントの目視化…あんまりいないよな」

「そうやね。いたとしたら大手企業どころか国の政治に関わってくるやろうからあんま表ではみいひんな」

「摩多羅堂でも各部門に2人いるかいないかくらいだしな。俺もやっぱりエンチャント目視が出来るやつは必ず入れるな」

「それにしてもエンチャント目視にしても監視魔術の効果範囲を考えてもとんでもないやつが城にはおるんじゃろ?一体何を企んでおるんじゃ」


 その質問に繚乱は言葉を詰まらせ、少し考えてからとんでもない答えを出した。


「奴らの目的は、『祟り神』となった桜水龍王命様を支配し、全ての神の殺害を目論んでいるのです」

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