第13話 残念な美女 当主の弱み
摩多羅堂配達部門総部長を務めている凄腕の配達員。
会社内で影冥に文句や説教をいえる2人のうちの1人。
前社長夫婦の親友であり、そちらにも文句が言える人。
『合歓木』の正体を知ってる数少ない人物で、あられが担当になる前に担当していた。
全てのことにおいて完璧な彼女だが、一つだけもったいないなと思うところがあった。
それは、来ているTシャツのセンスだった。
「あれほど部下をこき使うな言っとんのに何約束やぶっとんねん。あんなぁ、社長はそんなつもりなくとも、そとから見たら職権乱用しとんねん。『合歓木』先生見習ってみぃや、ブランカさんのことこき使ってないやろ」
「いや、たまにこき使ってるようにも見える…」
「んなことどうだってええねん。とにかくあんたはなぁ…ドクドクドクドク…」
こうやって影冥に説教しているわけだが現在彼女が来ているTシャツはカエルが寝転んでテレビを見ているというデザインのものだった。
可愛いのには可愛いのだが、こう、彼女が着ているとどうも残念だなという感情が出て来てしまう。
そんな説教して、されている2人を置いておいて、誉はあられに聞きたいことを聞いた。
「ねえ、あられ。君は邑楽桜咲という子を知っているか?」
「へ?邑楽桜咲さんですか?はい。知っていますよ。もう少し前でしょうか、配達の依頼を受けたので覚えています。それに…この後配達する仕事を受け取っていますよ?」
「…は?」
何を言ってるんだ?こいつは。
さっきブランカが言ったことを否定するのかこいつは。
今、邑楽桜咲は幽閉されていると聞いた。
なのに、なぜそんな状況であられに会うことができるんだ?
それに、今日のこの後?
「あ、えっと、その子はどんな姿だった?覚えている限り教えて欲しいんだが」
「う?んーそうですね。はっきり鮮明に覚えていますよ。なんせ珍しい髪色だったので。桜色のボサボサの髪に前髪は黄緑色の髪飾りで上げていておでこが見えています。目はさくらんぼみたいな色でした。服装は何だか巫女さんのような、陰陽師が着ているような感じでしたね。誰から見ても可愛らしいお嬢さんでした」
「…ドンピシャだな」
「ん?なんじゃ、その娘か」
いきなり命が何か知ってそうな声を上げた。
「何か知ってるのか?」
「うむ。名前は知らぬが、姿なら其奴が言ったのと同一人物じゃぞ。ボロ布を被った母親と名乗る
まさかに発言に片手を頭に当て、諦めたように深く深くため息をつく。
なんでこうも予想外なことばかり起こるのか。専属配達員は知ってるし龍の姫は匿っている人の名前さえ知らぬと。
いや、何となくわかっているんだ。こういう禁忌を描くことに予想外はつきもの。いつも何でこうなる、という場面を経験して来ているが毎回ため息をついてばかりだ。
誉は一度思考を止めて絵の構成について考え直した。
龍昇桜
水龍神
象徴の桜
『鱗月の湖』
神の娘
恐らく付け加えられるであろう桜舞君主とその娘。
亡骸を崇拝する国の人々。
そして元凶であろう嘲笑う家臣達。
これらをどう描くか。そしてそのために必要なのは…
(キャンバスは縦長、かな。それにはもう少し枝を成長させる必要がある…絵の具はあるし…ここは桜舞君主達と会ってみないとな…僕は…『合歓木』は真実しか描かないから)
「師匠」
そこでようやくブランカが口を開き、誉の背中をつんつんと触った。
どうやら調べ物が終わったようだ。
「何か分かったか?」
「はい。色々ハッキングして調べたのですが…正確には邑楽桜咲は桜舞君主の姪っ子だそうです」
「…なるほどね。うん、そういうことか…オーケー。ありがとう、ブランカ」
「1人で理解しないでください。私はそれ以上のことは言ってませんよ」
「だって言われなくても予測できたし…」
「じゃぁ正解発表です。邑楽桜咲の両親はすでに亡くなっています。表では不慮の事故により死亡となっていますが、本来は母親は子を産んだ際に死亡。父親は桜舞君主と言い争いになり、取っ組み合いになりその際に足を滑らせ頭を打ち死亡。恐らく桜舞当主はそれをきっかけに家臣達に弱みを握られ今に至っているのかと推測します」
「うん。予想通りだね。でもまぁ、桜舞君主もとんでもない方だね、男性相手に取っ組み合いって…僕なら死ぬね」
「師匠は錬金術と絵を奪われたら終わりですからね」
「絵しか取り柄がないからなぁ…錬金術がないと生活も案外厳しいし…はぁ。自分で言っててなんか虚しいよ。さて、それより、翠雨さん、すみませんね、わざわざ説教してもらって」
まだ説教されすでに心がズタボロの影冥のことなど心配せず、誉は翠雨に話しかけた。
怒っていた翠雨は誉の顔を見るとパァっと笑顔に変わり、影冥を捨て置き誉に抱きついて来た。
「久しぶりやなぁ先生。元気にしとったか?すまんなぁうちの社長が。それより甘いものばっかり食べてないやろな?体壊すで?」
「あはは、体は壊さないように食べてるよ。大丈夫大丈夫」
本当に大丈夫大丈夫と思っていた。
ブランカが余計なひと言を言うまでは
「師匠の糖分摂取量は通常の人の約5.2倍です。今日はすでにりんご飴、羊羹、桜焼き半分、そして私はコーヒーに入れた大量の角砂糖を見逃していません」
その場が一瞬にして凍りつき、誉が翠雨の逆鱗に触れたのはまた別のお話なのである。
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