第9話 魔力 聖力 錬金釜
このエレメア大陸には魔力が存在する。
人々の大半が少なくとも魔力を持って生まれてくる。
火、水、風、光、闇
この5つの内必ず1つは持っている。
例えばブランカは風属性と光属性を持っているし、影冥は火と闇属性を持っている。
だが、何故かどの属性にも恵まれず一切の魔力を持たずして誉は生まれたのだ。
まぁそのせいで幼少期は散々な目にあったしどこにいっても相手にしてもらえなかった。
そのせいだろうか。その分錬金術には類稀なる才能を持ってして生まれた。
その大半は『前世』の知識のおかげなのだろう。
実は『前世』では魔力はあったもののほんの少しだけでだいぶ不遇な扱いを受けていた記憶がある。
まぁそれでも大錬金術師とかいう地位にたどり着けたのだろう。
普通の人々にとって必要最低限の力=魔力なのだろうが誉からすれば必要最低限の力=錬金術であり別に『前世』同様周りの扱いが雑なだけで問題はなかった。
規格外の錬金術師は錬金術にはあまり才能がなく、その分魔力に長けた弟子に錬金術が出来るようにと錬金釜を作った。
錬金釜の仕組みはこうだ。
1.蓋を開けて中に必要な材料全てを入れる。
2.蓋を閉める。
3.作りたいものの形を想像して魔力を注ぐ。
4.完成。
結構単純なものだ。
使用者の魔力量が多ければ多いほど早く作ることもできる優れもの。
ちなみに魔力のない誉が使おうと思うとまず蓋が開かないというところから始まる。
「ははーん。天下の『合歓木』先生にそんな弱点があったとはなぁ。いや、別になくとも生活はできておるのか」
「そのための錬金術でもあると師匠はよく言ってます」
「面白いの、魔力のない師匠と錬金術が使えない弟子か。こんな凸凹な師弟はなかなかおらんぞ。して、それは儂でも使えるのじゃろうか?」
その質問に対してはブランカでも頭を悩ませた。
神は魔力を基本持っていない。
勿論魔力を持っている神もいるがそれは魔法関係の神だけだ。
だがその代わりに神力というものを持っている。
魔力とは違う神のみが持つと言われる力だ。
だが人間の中には一部神力に近いとされる聖力が存在する。
それを持つ女性は聖女として教育を受けることになっている。
「…恐らく無理なんじゃないでしょうか。聖力を持つ人でも無理でしたから」
そう言ってブランカはまだはしゃいでいる2人の内1人を見た。
そしてそれを追うように命も見た。
目線の先がどちらなのかしっかり確認し、顔を青ざめさせた。
「おいおいおいおい、なんなんじゃあやつは。わしでも感じにくいくらいに薄い聖力じゃぞ」
「しょうがないと言えばしょうがないのでしょうが、師匠の家系に聖女がいたそうです。なので多少持っているとおっしゃっていました。まぁ、それでもやっぱり小さじ1にも届かないくらいの微量ですが、それを全力で使っても開きませんでしたので、恐らくあなたでも無理かと」
まさかの誉だった。
家系…というか、これもまた『前世』の影響だろう。
結婚相手がまさかの聖女で、それも歴代最強と噂されるほどの女性だった。
つくづく考えたら『前世』は大錬金術師だし妻は歴代最高の聖女だし、『転生』したらその子孫で錬金術に長けていて微量ながら聖力も持っている、世界を変えるほどの絵師。自身が案外とんでもないやつなんだなと思うことは誉でも多々あった。
こんなチート野郎にはそうなる理由があるんだなとも思った。
「はー、遊んだ遊んだ。たまにはこうやって初心にかえって遊ぶのが一番だな。遊べて、その上必要なものも集まる。これこそ一石二鳥だ。いや、影冥との勝負にも勝ったし、三鳥だな」
全人ずぶ濡れで、だが満足げな顔で右手に花びらの大量に入った細かな網を持ち2人の元に帰って来た誉。
その後ろには残念そうな顔の影冥がついて来ていた。左手には誉とは違い袋に入った花びらがあった。
量は2人ともよくとっているがそれは一目瞭然。誉の方が圧倒的に多かった。
「お主らなぁ、本当に元気がいいの。こっちは父上のことで困っておるのに」
「すまない、楽しめる時に楽しんどけがモットーだからね。インスピレーションは沸いてるし、どう描くか、何を使うかは決めてるから後は描くだけだ。今はその一つ目の材料を手に入れたばっか。ブランカ、影冥が集めてくれた分を頼む。僕はこっちでやってるから」
「分かりました。命さん、見ますか?」
「うむ!見たいぞ!」
目をキラキラと輝かせ、命はブランカの背中に引っ付きひょこっと顔を覗かせる。
本当に、神様だと言われなければ完全にどこでもいる女の子なのだろう。
ブランカは疲れ切って自身の魔力でつけた火で誉の分も一緒に服を乾かしている影冥から受け取った花びらをバサバサっと錬金釜に入る分だけ入れた。
そのまま閉めずにまず風魔法で花びらについている水滴を吹き飛ばし、何やら液体を入れてそのまま蓋をした。
「う?何を入れたんじゃ?水か?」
「いえ、師匠が作った絵の具にするために必要なものを全て混ぜたものです」
そのままブランカの手元に優しい風と薄い光が漂い、錬金釜に集まる。
そして少しするとチーンと音が鳴り続けてプシューっと空気が見れる音がした。
ブランカはぱかっと蓋を開ける。
すると中には薄紫色の、だが銀色っぽさもある液体の入った瓶が出て来た。
「これが、世間一般には知れ渡っていない、師匠の絵の具の作り方です」
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