第8話 師弟 はしゃぐ16歳
ブランカは誉から一歩下がった場所でチェキを取り出し、『鱗月の湖』の写真を撮った。
その写真は何の偽りもない、目に映る光景と同じ景色だった。
影冥は一度、ブランカになんの師弟関係になったのかと聞いたことがあった。
そして返ってくるのはいつもあやふやな答えしか返ってこなかった。しまいには…
「あなたが師匠の弟子になればいいじゃないかと言ったんでしょう。今では感謝していますが別に何の師弟かなんてものは分かりません。私には師匠のように絵を描く技術や錬金術の才能もありません。私ができるのは師匠の手伝いとそばにいることだけですから」
何故か怒られる羽目になった。
だが今こうやってみていると師弟関係というよりかは先生と助手、のような関係にも見えてくる。
ブランカの鞄には必ず入っているものがある。
まずは誉に作ってもらったチェキ。
撮ったチェキを貼って記録できる大きな日記帳。
数々の本。
誉からもらったスケッチブック。
羽のついたガラスペンとそのインク。
チルベが食べるネジ。
そしてタロットカードだ。
なんでタロットカードなのか。これも聞いたことがある。
ブランカのことだから何か意味があって持っているのだろう。そう思っていた。
だが返って来たのは意外な返答。
「何となくです。何となく、というか本で読んで気になったので買ってもらった記憶があります。結果、占う相手がチルベしかいなかったのですぐに興味を失ったのを覚えています」
じゃぁ捨てないのか、と聞いてもやはり返ってくるのは「何となく」という言葉だけだった。
影冥から見ればブランカが思っている以上に彼女は誉の弟子なんだなと思える。
いつも誉の周りで彼の役に立とうと動き回っている。
彼が絵を描いている時はお茶を用意したり甘味を用意したり。時には彼女も隣で絵の練習をすることだってある。
そんな師弟がいてもいいんじゃないかと思ったりもしていた。だがやはり声には出せない。ブランカにどう言われるかわからないからだ。
そこで何も知らない命がこちらをみた。
影冥はまずい、と思ったがすぐに誉が楽しそうに命に向かって声を出していった。
「命!湖に浮かんでいるのは水龍神の鱗なのだろう?画材に使いたいんだ!取ってもいいかい?」
「うむ!好きなだけ使うといいぞ!じゃが!それ相応の絵を描けよ!分かっておるな?」
「分かってるさ!よし、ブランカ、影冥、あの花びらを集めるのを手伝ってくれないかい?100は欲しいな!」
誉は靴を脱ぎ捨て、大切な荷物を置き、無邪気に湖に走っていった。
濡れるのを覚悟していったのだろう。それはやはり正しくて、水面の上を歩けるのはやはり彼女だけだったようだ。
「ははは!すごいよ影冥!君も早く来なよ!」
珍しく子供らしく、楽しく水遊びをしながら花びらを集める誉に影冥は苦笑、ブランカは無表情だがどこか嬉しそうだった。
「私はあの中には入れないので師匠をお願いします」
「おう。任せとけ。じゃぁ、荷物頼むな」
影冥もそう言って何故休暇なのに持っているのかわからないキャリーバッグをずんっとおき、羽織を脱いで誉の元に向かった。
さて、彼らの年齢をお伝えしていなかっただろう。
誉と影冥は現在16歳。
ブランカは20歳。
口調と雰囲気で20歳にいってそうで実はいってなかったり、彼らと同い年か一つ上かと思いきや案外年齢が離れていたり、人の年齢は見た目では決めつけてはいけないのだろうと改めて思う。
ちなみに命は神だからか100は普通に超えている。
誉が生まれた国では16歳は立派な大人扱いされ、影冥が生まれた国では16歳はまだ子供。
生まれた国は違えど、その国によって年齢の扱いが変われど、大人からすればまだ16歳は子供だ。
こうやって2人揃ってはしゃいでいても微笑ましい光景に思える。
「ぷっはぁ。すごいな、水の中も本当に綺麗だ。影冥!どっれだけ集まった?」
「ぜーんぜん!てか、お前だけ網持ってずるいぞ!俺にも使わせろ!」
「やだよ、自分で作ったんだからさ。おーい、ブランカ!錬金釜の準備しておいてくれ!」
岩の上でちょこんと座りチェキでこちらを取っていたブランカはそう言われて誉の持っていた荷物の中から白銀に水色の装飾が施された小さな釜を取り出した。
いつの間に帰って来たのやら命がそれを不思議そうに見つめた
「錬金釜、とな?この国ではきかんの。何をする道具なんじゃ?」
「これは、師匠が作ったものです。師匠の錬金術の才能は錬金術師の
「ん?何故じゃ?これがなくても作れるのか?」
「はい。師匠は錬金術師でもありますから。ですが、これが使えないのにはこれが理由ではなく…」
ブランカは少し迷って、それから小声で伝えた
「師匠は、魔力を持っていないんです」
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