第5話 大錬金術師の子孫 神の娘

 その子供にはツノが生えていた。

 立派な龍のツノが。

 水縹の長い髪をツーサイドアップにし、前髪はツノのせいか3つに割れていた。

 目はくりっと大きく黄金に輝く月の如く美しい瞳。だがどこか人間味離れた瞳孔をしている。

 首には青色に輝くまぁるい玉の首飾りをつけている。

 身長はあられよりも小さく恐らく110cm前後。


 まぁ、どこからどう見たって人型の何かだ。

 この人ではない何かの人種を見るのはこの3人は慣れたくないが慣れてしまっている。

 少なくとも猫のような機械のような生き物がブランカの頭に乗って常について来ているので違和感はない。


 はてさてこの少女、一体どこから出て来たのだろうか。と言うかいつからいたのだろうか。

 それについては誉が少し心当たりがあった。

 あられが岩の裏に隠れていた時、チルベが珍しく尻尾を太くして威嚇をしていた。

 チルベは機械のように見えるがそれ以前に猫だ。

 警戒心も強くなれた人物以外にはよく威嚇をする。

 だがよくよく考えたらおかしなことだった。

 何度も会っているはずのあられに威嚇をしていた。

 だがよくよく考えたらそれはあられに対してではなかったのかもしれない。

 となるとやはり、最初からこちらをつけていた、と言うことになるだろう。


「…お嬢さん、話を聞いていたんだったら龍華りゅうか神社の関係者だろ」

「うむ、関係者といえば関係者だが、もっと深い部分じゃな。それよりも、お主の噂はよく耳にしておるぞ『合歓木ねむのき』先生。嘘は描かず。本当の姿を描く。神主らが言っておったぞ。まさか龍昇桜の正体に気づく輩がおるとは思わず近づいてみたらまさかのお主がそうじゃったとは。これも何かしらの運命なのかの」


 どう見たって子供の姿のはずなのだがどこか年寄りくさい話し方をする少女。

 ブランカと影冥はそんな彼女に引いているが誉だけは驚いていた。


「まさか、君が桜華命龍姫さくらのはなめいりゅうひめなのか?」


 そう聞いてみると少女は嬉しそうになり、胸に手を当て堂々と宣言した


「そうじゃ。儂こそ桜華命龍姫。今を生きる桜舞の神であり、水龍神…桜水龍王命さくらすいりゅうおうのみことの実の娘だ」


 ならツノが生えていることに3人はしっかり納得した。

 いやそんなことを言っている場合か。

 あそこで死骸となっている水龍神の娘だと?

 いくら誉でも本当にそうなのかは予想できてはいなかった。ただ勘で聞いてみただけだ。

 だが何とも運がいいのだろう。今最も会いたい人物が自ら出て来てくれたのだ。

 誉は小さな神の目線に合わせるようにしゃがみ、肩を掴んで聞いた


「桜華命龍姫、僕は真実を知りに来たんだ。神主どもには何度か会っているけどどうも引っかかる部分がある。だからこそ神の娘である君に聞きたいんだ」


 神の娘はなんじゃ、そんなことかと笑い誉の方を叩いた。


「そんなこといくらでも答えてやるぞ。じゃが、お主なら分かっておるな?等価交換じゃ。儂はお主を探しておったんじゃ。嘘を描かず真実を描くお主に、この国の真実を描いてほしい。勿論儂はそれ相応の情報をやろうじゃないか。そうじゃろ?大錬金術師の子孫よ」


 一瞬だけ誉の顔が凍りついた。

 『前世』についてバレたのかと思ったからだ。


 大錬金術師の子孫。それについては嘘偽りはない。

 誉の『前世』の名は瑞花エレン。

 名前は元素を意味するエレメンタルから来てるとかどうとか。

 誉はまさかのエレンの子孫だ。

 確かに死ぬ前は結婚もしていたし子供もいた。

 親戚はいなかったし自身が瑞花誉という人物に生まれ変わったときは驚いたものだ。

 まさか『前世』の子孫に『転生』するとは思わないだろう。

 後々調べた話だが、エレンの子供はエレンが殺された後大切に育てられたそうだ。恐らくアブソリュート人にとって奇跡に近い子供だったからだろう。

 だからと言ってまぁよくこんな時代にまで子孫を残せたものだと感心しているし、何よりエレンの遺伝子が強すぎるせいでエレンと誉の容姿は瓜二つだ。

 そのせいだろうか、神は人間より遥かに長い時を生きる。恐らくエレンを知っている神からすれば誉はまるっとそのまま生まれ変わったのではないかと疑ってくるだろう。

 まぁ、生まれ変わったのは事実だが。


「…僕の絵はとてつもなく高いぞ。オークションじゃ余裕で億はいく」

「じゃが、それを描くための価値ある情報が必要じゃろう?なぁに、この国の禁忌くらい余裕で話してやるぞ?」


 お互い何か企んでいる顔で笑い合う。

 そして誉は言った


「依頼を受けるよ。ただ、重要な画材が足りないんだ。あなたの言った『鱗月の湖』に案内してくれないか?」

「うむ、いいじゃろう。3人とも儂についてくるといい。あぁ、それと…」


 長い髪を風に靡かせ自信満々の笑顔で、それでも隠しきれない子供らしい笑顔で少女は歩き始めた


「儂のことはめいとでも呼ぶといい。桜華命龍姫じゃぁながいからな」

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