第3話 亡き者を祀る あられは運ぶ
龍昇桜の木は体。
その薄紫の花びらは鱗。
桜は毎年満開になるが年々その咲かせる花は少なくなっている。
国の人々は何か対策はないかと考えているがそれはどうにもならない。
花びらが一つも咲かなくなれば木は腐り消えてしまうだろう。
それは時間の問題だ。
ブランカのチェキに写ったのは桜の木ではなく目を閉じ動かなくなった龍の姿があった。
つまり人々は神の死骸を祀っている、ということ。
「…これは、この国の人々は知らないのですか?」
恐る恐る誉に聞いた。
前を歩く彼はどこに向かっているのか分からない。
彼はブランカに『前世』のことを教えてはいない。なぜ彼がそんなことを知っているのか、当たり前の疑問だった。
「この事実を知っているのはこの国の当主とその家臣。それから…今向かっている場所にいるやつらだけだよ。
いつも言ってるけど、口外するなよ。当主や家臣どもにバレたら捕まるだけじゃ済まされないからな」
「それについては分かっていますが…向かっている場所は一体どこなのですか?」
「ん?あぁ、この国に今生きている神を祀る場所に行くんだよ。桜舞国民でも知ってるやつはそうそういない。信者は少数だからな…」
そこで誉は言葉を止めた。それと同時に足も止まる。
寸前に気付きギリギリぶつからない場所でブランカはようやく足を止め誉が見つめる方向を見た。
頭の上でシャーっと声を荒げるチルベは短いしっぽを膨らませている。
どうやら近くに誰かいるようだ。
あたりは桜の木が群がっている丘で木々の間から龍昇桜が見える場所。
誉たちが進んでいる方向には人が1人ほど隠れられそうな岩が点々としている。
すると誉は軽くため息をつき手を腰に当て呆れた顔でその岩に隠れているものに声をかけた。
「いい加減出てきたらどうだ。僕に用があって来てるんだろ、あられ」
しーんと静まり返った中、少ししてからぴょこんとなにやら笠が岩から出て来た。
そしてちょこちょこちょこっと動いて直ぐにその姿をあらわす。
出て来たのは少女だった。
てるてる坊主がいくつかついた笠を頭に乗せ、飛んで行かないように顎紐をつけている。
140cmほどの体には大きすぎではないかと思うほどの鞄を背負い、うんしょと背中に合わせるように持ち上げる。
青紫色の髪は赤い飴玉のような髪飾りでおさげにしている。
大きくくりっとした目はマリーゴールドのようなオレンジ色だ。
少女はニコッと笑い2人に向かって挨拶した
「こんにちは、誉さん、ブランカさん。毎度お馴染み、
逆になんで気づかないんだと言わんばかりの顔で誉はため息をつき、あられの頭をぽんぽんと叩く
「頭に笠乗っけて、おまけにデッカいカバンを背負ってるやつなんて知り合いじゃお前くらいだ。気がつかないわけがないだろ。まったく、絵の配達はまだだぞ。一体何のようだ」
「あ、そうなんです。誉さんにお届け物がありまして…」
ドサっと重い音を鳴らして鞄を置き、中から荷物を探しはじめた。
この七下雨あられという少女は先ほど自己紹介をしたように配達員である。
世界中で有名な会社・
輸出入、美術品関係、小説、食品、配達、郵便、服、家具…というあらゆるジャンルの仕事を部門に分け仕事をしている最大級の会社。
あられはそこにある配達部門配達係『雨上り』の配達員だ。
その中でもあられは特殊で、誉が描いた絵は現在、摩多羅堂が主催のオークションだけでしか出回っていない。そのオークションに出すためにはまず彼の担当である
基本的に絵が出来れば彼女から貰ったてるてる坊主に呼びかけると風の如く現れる。
だが今は絵は完成してない。ましてや制作さえしていない。
ならなぜ来たのか。
誉はそこで一つの後悔をした。
最近やつの休暇がなかったことを。
サァァッと誉は顔を青ざめさせ、ブランカの後ろに隠れた。
ブランカはすぐに理解してそのまま壁になる。
「あ、いた。よいしょっと!」
その大きな鞄から大きなものが飛び出て来た。
そして出てくるなりその『誉宛ての荷物』は嬉しそうに言った
「やぁ!久しぶりだな!誉!君に会いに来たぞ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます