9月
「るー、シフト見せて?」
「なんで?」
「今度、しんたろうとななとるーと私で遊びに行こうよ。」
夏休みの終わりかけ、るりさんからのまさかの誘い。夏休みバイト三昧だったおかげで、私はるりさんともななちゃんとも一段と仲を深めていた。るりさんに対してタメ語になったくらいだ。
「なんで急に?」
「私、谷ヶ山に行きたくてさ。それしんたろうと話してたら行こうってなって、しんたろうがるー誘おって言ってさ。」
「行く!絶対行く!楽しみ!」
確かに夏休み、しんたろうくんとはずっと一緒にいたし、そこにるりさんやななちゃんが一緒喫煙所にたまることもたまにあった。予想外のメンバーではないが、しんたろうくんが私を誘おうと言ってくれたことがたまらなく嬉しかった。しんたろうくんとはバイトの終わりやどちらかの呑みの迎えの帰りに遊ぶことはあったが、約束をして私服で遊ぶことはなかった。二人じゃないにしろ、初めて私服で遊ぶ。しかも大好きな人たちと。それだけでとても楽しみでずっとワクワクしていた。
当日。
『着いたよお』
車を出してくれたのはしんたろうくん。ななちゃんと家が近い私は近所のコンビニで早めに集合し、二人でタバコを吸っていた。
「おはよ!車ありがとうね。」
「おはよう。ありがとう!しんたろうくんはこれでしょ?」
私達は運転してくれるしんたろうくんにコンビニで飲み物を買った。コンビニではいつも決まったものを飲むしんたろうくん。聞かなくても分かるので自慢げに買って渡した。
「おはよ。全然いいよ!流石分かってんじゃん。」
「当たり前ね。ずっとこれ飲んでるじゃん。」
「私後ろ乗るね。」
ななちゃんが後部座席に座った。るりさんはまだ来てないので前も後ろも空いてる。
「るー前乗んないの?」
「どうしよ。るりさん前乗りたいかもじゃん?」
「どうせ寝るからどこでもいいでしょ。」
「じゃあ前乗ろうかな。」
「どーぞ!乗ってください。」
最初から前に乗る気満々というかしんたろうくんの隣希望だったが、感情丸出しなのは恥ずかしく、そんなやりとりを経て私は隣に座った。
るりさんを迎えに行っていざ出発。
谷ヶ山に行く前にお昼ご飯を食べた。谷ヶ山まではそこから一時間少し。るりさんとななちゃんは気持ちの良い天気と乗り心地で後部座席で眠ってしまった。
「おねーちゃんたち寝たよ(笑)」
「ね、言った通り。絶対寝ると思ったもん。」
私達は寝てる後ろの二人に気を遣って小さい声で話した。四人いるのに二人の空間。秘密を共有しているみたいで楽しかった。
「着いたよー!」
「うわ、寝てた。ごめん!」
「気持ちよかったー!」
しんたろうくんの声で起きた二人。目指してきた夕暮れの時間にぴったりだった。綺麗な夕暮れが見えるのは、駐車場から少し歩いた先。その前に寄ったトイレに行っておくことになった。
「ね、るー楽しかった?」
「もうずっと楽しそうだったもん。二人でキャッキャして仲良くてさ。」
「え、起きてたの?!」
「いや、結局は本当に寝てたけど、最初の方がちょっと見てた。」
「るーって本当にしんたろうの前では女の子だよね。」
起きてたなんて。驚きながらも、私の恋路に協力してくれる二人が本当に有り難かった。勿論二人のことは大好きだし、四人で話すのも楽しいけど、声の大きさを気にしながら二人で話すことは普段なことで、楽しさが増すスパイスだった。本当に楽しかった。
用を済ませ、歩くこと十数分。
「きれーー!!!!」
頂上には綺麗で澄んだ景色が広がっていた。
「すごい!本当にこれは感動するね。」
それぞれが思い思いに気持ちを言葉にする中、私はなかなかできなかった。本当に綺麗だった。綺麗すぎた。大好きな二人と隣にはしんたろうくん。そして目の前には素敵な景色。それが幸せすぎて。終わってほしくも時間が進んでほしくもない。勿体無いくらいだった。噛み締めるしか出来なかったのだ。普通に見ても相当綺麗な景色だけど、状況が私の目で見たものを何倍にもしていた。
そして帰りはどこにでもあるいつものうどん屋。結局落ち着いてしまうのだ。良い旅の締め。なんだかんだ長時間ドライブだったので、それぞれの家までは三時間かからないくらいだった。みんなで騒ぎながら半分も帰り着いてないくらいの頃。
「やばい、また眠くなってきた。」
そう言って後ろの二人はまたもや眠ってしまった。もしかしたら気を遣ってくれたのかもしれない。本当に眠かったのかもしれない。どちらか分からないが、旅の終わりが見えかけの今、私はしんたろうくんと少しでも一緒に過ごしたいという気持ちだった。
「大丈夫?眠くない?」
「今は大丈夫。」
「眠くなんないようライブする?」
いつものドライブでは私が音楽をかけているので、しんたろうくんはいつものプレイリストを歌えるようになっていた。私のプレイリストにはしんたろうくんに向けての聴いて欲しい曲やお薦めしてくれた曲が、しんたろうくんのプレイリストには私がよく流している曲が入るようになっていた。
そこからいつも共有していた音楽のカラオケライブが始まった。しんたろうくんは歌うだけじゃなくてちゃんとボケてくる。いつも同じとこで同じようにボケて、私が同じように笑う。そのおかげで一人で聴いていても思い出しちゃうくらい。いつもと同じように歌って笑って喋って。私の大好きな時間が流れた。
「俺さ、誰の車でも歌えるわけじゃないんだよね。」
「しんたろうくんが?誰の車でも歌ってそうだよ?」
「いや、るーの車では初めの方から歌ってたけど、あんまりそんなことないんだよな。」
「何それ良い意味?気遣われなさすぎるってことかあ」
きっとこの会話、しんたろうくんは良い意味で言ったんだと思う。私も嬉しかった。茶化して逃げたけど、特別を感じてしまった。しかし同時に、意識されていないことも意識してしまった。分かっていたこと。それよりも私は特別を望んだ。希望通りってことじゃん。しんたろうくんとの日常の中でたまに感じるチクチクを今日も私は見ないようにした。
ツインズ るり @luv___kyapi
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