圧倒的筆力で描かれる近未来SFの金字塔

汚染された地上、「エンプセル」を中心に繰り広げられる愛憎渦巻く人間ドラマ。聞き慣れた企業名が日本語名に改名されていたり、平成や令和から繋がる現代日本からの繋がりを想起させる描写力と知識量に裏付けされた精緻な世界観、そして徐々に明かされていくエンプセルに関する情報。

エンプセルに惹かれ狂っていく人々、女性が極端に少ない現状、ディストピアであることがありありと描かれる地下都市、汚染された地上も含めて、人類の安息の地はもはやどこにもないのかもしれないとすら思える説得力。異形の生物が跋扈する危険な場所であってもそれでも、人間としての業は途絶えることがない。

人間として在るということ、エンプセルとして在るということ、そしてひとりひとりの生々しくリアルな生き様が喉元に突きつけられるようで、読み進める手が止まりませんでした。一読者でしかない私が言うことではないとわかっていながらも、この作品を、もっともっと多くの人に読んでほしいです。とても素晴らしい傑作です。

その他のおすすめレビュー

ジャック(JTW)さんの他のおすすめレビュー486