男友達から聞いた話 -前日譚-

 この話、うちの親父から聞いたんです。僕が小学生だった時、友達と一緒にいた時にに巻き込まれたことがあったんですけど、その時に五十嵐いがらし――あ、五十嵐ってその時に一緒にいた友達で、そいつが事件が起きた日の朝からちょいちょい変なことを言ってたから、そのことを世間話のノリでうちの親父に話したことがあったんです。あ、話したのって、つい最近なんですけどね。久々に実家へ帰省した時に、ふと、あの時のことを思い出して。

 最初、親父はな様子で、話を聞いてくれてたんです。僕は僕で、あいつ――五十嵐があの日だけなんかおかしかったというか、普段はまともな奴なのに、あの日だけ猫がいるとかなんとか言ってたので。それで少し気になってて。それで、僕があの時の話をしている時の、親父が意味深な表情をしているのを見た時に「なにか知ってるんだろうなぁ」って、直感的に思ったんですよ。


「……親父、もしかして、なんか知ってるん?」


「いやぁ、ちょっとな。気になることがあって。」


「なんか気になるやん。言って?」



 実はうちの親父、生まれも育ちも僕の地元なんですよ。親父が通ってた小学校と中学校、俺の母校でもあるぐらいなんですけど、どうも親父が小学生だった時に、小学校周辺で「野良猫が大量に殺される事件」があったらしいんですよね。その時の事件の犯人は、無事に捕まったらしいんですけど。

 親父いわく、学校周辺に野良猫がめちゃくちゃいたらしいんですよ。今でいう地域猫のような感じで、あちらこちらに猫がいる、みたいな。今だったら本当に地域猫にしてもよかったような気もするんですけど、やっぱり時代が時代なんで、誰か(学校の近所に住んでる人)が勝手に餌やりしてるんだろうと怒ってる人が多かったらしいです。仕方ないんですけどね。

 そうそう、たまに業者が捕獲したことがあったらしいんですけど、隠れて子どもを産む猫がいたのか、総合的な個数はあまり変わらず――って感じだったみたいなんです。ただ、いつだったかな?親父が小学校の高学年ぐらいの時期だった気がするんですけど、学校周辺にいた野良猫たちが、少しずつですが、人間の手によって殺されたような感じで死んでいるのを見つける大人が、増えてきたらしいです。たしか、春から夏にかけて増えたんじゃなかったかな?

 幸いにも、子どもらが学校にいない時間帯に死体が見つかっていたようで(たぶん早朝にペットとの散歩をしてる人とかが見つけてたんじゃないかな)、子どもたちが猫の死体を見る機会はそうそうなかったらしいんですけど、やっぱり、ほら、気味が悪いじゃないですか。野良猫といえど、人為的に殺されているような死体って。しかも一匹だけじゃなくて、何匹もが見つかるって気味が悪いですよね?だから、学校の教員や保護者、近隣住民の間で「(犯人はまだ分からんが)とりあえず子どもらを守ろう」という空気感が生まれたらしいです。

 あ、そうだ、話が前後して申し訳ないんですが、猫の死体が見つかるようになる前に、とある一匹の野良猫が小学校に住み着いてたらしいです。うちの親父いわく、いつの間にか住み着いていたらしく、いつから学校にいたのかは分からないみたいなんですが、野良猫のわりに人懐っこい三毛猫らしく、子どもらのアイドル的存在だったらしいです。ただ、その三毛猫、小学校周辺で猫の死体が出るようになってから、急に行方不明になったらしいんです。大人に聞いても知らないの一点張りだったようで(実際は本当に行方が分からなかったらしい)、子どもたちは、子どもなりに三毛猫を心配していたらしいです。

 そうそう、それで、野良猫の死体が少しずつ死ぬ中、子どもらの登下校が「親の付き添い込み」になったり、近隣住人の中からボランティアとして「学校周辺を見回る人」が出てきたり……。事情が事情だから仕方ないんですけど、いつも以上に、周りの大人が子どもの行動を制限するようになったらしいんです。警察には連絡したのかなぁ?そこら辺のことは、どうなってたのか聞かなかったなぁ……、すみません。もしかしたら、親父も子どもだったので、当時の大人がどこまで対策をしていたかは分からないんじゃないかなぁ。

 そうそう、犯人なんですけど、逮捕されるまで一般人の前には姿を見せなかったらしいんです。もしかしたら、姿を見せていたのかもしれないんですが、大人たちがいうにはは一切いなかったらしいです。でも、ある日の平日、子どもらの間で集団ヒステリーのようなことが起こったらしいんですよね。親父いわく、朝早くに猫の鳴き声で起きたらしいんです。


「母ちゃん、母ちゃん!なんか猫の声しない!?すっげー聞こえるんだけど」


「朝早くになんなのよ、もう。猫の声?猫の声なんて聞こえないけど?」


「嘘だぁ、猫の声がずっと聞こえるんだけど!なんかに似た声なんだけど!」


 みーちゃんって、です。学校に住み着いてた、あの子です。みんな勝手に「三毛猫のみーちゃん」なんて呼んでたらしいんですが、あの当時、母校に通っていた子どもら全員が、同じ日に同じ体験をしていたらしいんです。みんな、口をそろえて《《みーちゃんに似た声の猫が鳴いてる》って。大人たちには猫の声なんて聞こえなかったらしいんですが、猫の死体のことがあったから、とりあえず学校に連絡をしたんですって。結局、どのお家からも「うちの子が猫の声がすると言ってて――」っていう連絡が相次いだことで、完全に休校になったらしいんです。まぁ、休校にしたおかげで、犯人がうまいこと捕まったらしいんですが。

 すでに学校にいた教員たちが、職員室でばたばたしている頃、今まで猫を殺していた犯人が学校に乗り込んできたらしいんです。学校に乗り込んできた理由はよく分からないんですが。よりによって、果物ナイフのような小さめのナイフを持っていた犯人が、教員を切りつけてしまったらしいです。どうにかこうにか警察を呼び、逮捕されたみたいで……。切りつけられた教員は、命に別条がなかったみたいでよかったんですが。こんなことがあったらしいんです、うちの母校の小学校。との関係性は分からないんですが、僕と五十嵐が不審者に襲われかけた時、うちの親父はを思い出していたようです。

 親父が小学生だった時の犯人は、結局どうなったかは覚えてないそうです。刑務所に入って出所したのか、刑務所の中で死んだのか――。もしかしたら当時の新聞(ニュース?)で取り上げられてたかもしれませんが、忘れてた方がいいのかなぁ……と。親父から話を聞いただけでも、それなりにショッキングな事件なので。その方がいいと思います。

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学校の怪異 佐伯眞依 @saekimai

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