もう一つの避難先、ライト文芸

 日本人は本当にジャンル分けが好きで純文学・大衆文学、ライト文芸、ライトノベル、児童文学と実に5ジャンルに年齢別に分かれました。

 じゃあ「ライトノベル」と「ライト文芸」には差があるのか。

 答えは大いに差があります。文芸と言う以上は芸術性も求められるからです。だから巷に聞くライトノベル≒ライト文芸なんてのは大嘘です。それどころか最近ここ20年ほどは純文学にライトノベル要素が入ったものまであります。『蹴りたい背中』とか『推し、燃ゆ』ですよね。そう、芥川賞受賞作品ですらここ約20年の傾向としてはラノベ要素を含んでいるものもある。したがってライト文芸というのは逆で難読度でいったら純文学≧大衆文学≒ライト文芸>ライトノベル>児童文学だと思ってください。

 証拠に書店の棚を覗いてください。ライト文芸ジャンルの本は一般文芸の棚に入っているはず(あるいは大衆文学の横に置かれているはず)。拙著における「ライト文芸」の定義とは異論・反論もあろうが「大衆文学作品に含まれる入門作品群」とした。だってライト文芸の公募みてみ? 「一般文芸に近しい作品」としっかり書いてないか? WEB公募のものですら。

 では例のごとく巻末のライトノベル年表とライト文芸年表を見てみよう。2011年に『ビブリア古書店の事件手帖』の登場でライト文芸が誕生したとあるね。でも本当は各出版社側がライト文芸と2011年にジャンル分けをしただけであって本当は2011年前からもライト文芸ってあったんだよ。『塩の街』とか『半分の月がのぼる空』とか『ミミズクと夜の王』あたりで。そうなんだよ。ここでもライトノベル難民が発生してて「『萌え』とかいい加減にしてくよ」って言う層がやっぱそれなりに多く居て……それで文芸性が高いライトノベルはジャンルがさらに分かれたんだ。

 それどころかライト文芸っていうのは実写化されやすいのです。要はTVドラマ化や実写映画化ね。ここがライト文芸とライトノベルの決定的な差だと思ってる。つまりアニメ化じゃなくて実写化なんだ。やっぱりライト文芸は大衆文芸の世界とほぼほぼ一緒なんだ。ライト文芸は文章のレベルが高いんだ。下手すると本屋大賞、直木賞がライト文芸ジャンルから出ても全然おかしくないわけ。現に『君の膵臓をたべたい』は2016年本屋大賞2位受賞だ。ここがライトノベルとの決定的な差だ。しかもライト文芸って言うのは1000万部突破!という作品が少ない代わりに薄く、広く、長く売れるので打ち切りが少ない。ここでも分かることがある。ライト文芸の売れ方は大衆文学とほぼ同じなんだ。

 また、こんな読書ライフコースまで出来てしまった。


 児童文学→ライト文芸→純文学・大衆文学


 つまり「ライトノベル回避コース」というものまでが誕生したってことだね。特に女子中学生、女子高校生、女子大学生の間でね。

 ここからが私の勝手な考察だ。話8割引きで聞いてくれ。「じゃ、何で今は空前の異世界恋愛ブームなんだよ」って突っ込みが来ると読者の君は思わないか。そうなんだよ。実は一定数の女子はこんな読書ライフになっているはずなんだ。


 児童文学→ライト文芸→ライトノベル(異世界恋愛)


 つまり「婚約破棄する!」って奴を読んでるのは恐らく短大・専門・大学を出た後にブラックな社会を見て愕然とした層が読んでいる可能性が極めて高い。特に「乙女ゲームの~」って奴は。これ人生リセット願望なんだ。若年層ってのは人生リセット願望があまりない。でも人生のやり直しが出来ない、出来にくい日本では「幼稚化」(精神年齢の逆行)が大人から進行していると私は推測しているんだ。特に女性は。「溺愛」とか「婚約破棄」などは自分が高校生辺りだったらたぶん「バカじゃねえの?」ってバカにしてたはずなんだ。でも実際に社会に出て……あるいは会社生活ではなんとか仮にうまく行ってても実際に結婚生活してろくでもない男と判明した場合は……自分の逃げ場をラノベ世界に求めたというのが異世界恋愛ブームの真相なんじゃないか? と思ってる。


 最後に……過去の名作ラノベ群が『吸血鬼はお年ごろ』や『十二国記』や『陰陽ノ京』のようにライト文芸レーベルへ変更となった場合はファンも全部ライト文芸ジャンルに持っていかれることとなる。その時……ライトノベルというジャンルは本格的に崩壊することであろう。特にコバルト文庫は2015年にオレンジ文庫と名称を変更したと同時にジャンルもライト文芸に変更となった。これはライトノベル界にとって非常に痛いことでコバルト文庫ファンが一斉にライト文芸に移動したことを意味する。2015年当時はライトノベル界が異世界転生バブルに浮かれていた時代だが既にバブル崩壊の足音がもう聞こえていたんだなとライト文芸の年表を書いて筆者は改めて実感している(※筆者注:形の上ではコバルト文庫は現在でも電子でのみ発刊という形で継続しているが……なんでこんな記述になったのかはライトノベル年表の注をぜひご覧ください)。


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