《強襲》

「見つけた」

彼らは、集団で行動していた。

幸い、彼らはPARAISO内に侵入こそしているが、まだ目立った動きは見せていなかった。

「そこまでだ」

彼らの目の前に、立ち塞がる。

「お、お前、誰だ‼︎」

そうだ、今の俺は姿が変わっていたのだった。

「何者かは知らないが、今すぐここから失せろ!」

そんな言葉に、俺は不敵な笑みを浮かべながら告げた。

「さっさと、目を覚まして現実に戻ったらどうだ?」

「…っ⁉︎」


住人の抹消には、管理者ツールが必要不可欠となる。

彼らがどこまで、その使い方を知っているのかは定かではない。

だが、まだ一人の存在も抹消してはいないとなると、彼らにはまだ隠された目的があるのだろうか。

どうやらPARAISOでも、自分の身体能力は全て正確に反映されているようだった。

ただ、現実と違うのは、死の概念がないという事。

いや、死だけではない。

痛みも、それに伴う苦しみも、全てここPARAISOでは無効化される。


ノイズを除いて。


「ぐはっ」

腹部に強烈な蹴りを入れる。

相手は数メートルほど宙を待った後、力なく地面にひれ伏した。

「お前…まさか…」

一人が何かを話し始める。

「俺らの仲間をほとんど一人で蹴散らした、あいつか?」

その言葉に、俺は不敵な笑みを浮かべながら、言った。

「あぁ、そうだ」

PARAISOでも、戦力はそのまま。

そのおかげで、十分に彼らと渡り合う事ができたのだった。


彼らはまだ、転移装置を頭に装着したままだった。

記憶が転移できるなら、厳しい条件があるが、その逆も可能となる。

だからこそ、管理者ツールを呼び出し、あらかじめプログラムしておいた武器を生成する。

彼ら、所謂ノイズの意識を強制的に現実に引き戻す、ナイフのような武器を。

ただ、仮想世界の構成上、この武器は相手に直接接触させる必要があった。

だからこそ、俺は地面を蹴り、一瞬で彼らとの距離を詰めた。

「や、やめろ!」

彼らは必死の抵抗を試みる。

しかし、フィジカルでは完全に俺の方が有利だった。


「終わったぞ」

そう、横山に告げる。

『あぁ、こっちでも転移装置の稼働が始まってる、直に彼らの意識も戻るだろう、光綺も帰っておいで』

そう言われて、管理者ツールを呼び出した時だった。

『待って』

横山の声が、深刻そうなものへと変わった。

「どうした?」

そして、こんなことを告げられた。

『人口が…急激に減少していっている』

意味が分からなかった。

全て、終わったはずだ。

それなのに何で…


「ぐっ……!」

突然、背中に強い衝撃が走る。

「いっ……てぇ……」

横山の忠告を、思い出した。

先ほど言った通り、PARAISOには死という概念が存在しない。

痛み、出血、疲労、空腹、これらも全てなくなる。

しかし、ノイズはそうはいかない。

転移時に、それらが無効化されるプロセスを踏むことができていないのだ。

だからこそ、俺は今のように痛みを感じたし、傷もついた。

そして何より、この世界では不安定な存在であるノイズは、死ぬ。

傷つけられ、痛みや出血といった異常なデータを生み出し続けると、仮想世界でプログラムを構成しきれなくなり、消えるのだ。


「誰…だよ」

感覚の鋭い俺が、攻撃に気づけなかった。

すぐに辺りを見渡す。

そこに、元凶がいた。

「お前は…⁉︎」

あの時、俺の目の前で自殺した男が、不敵な笑みを浮かべながら立っていた。

何で、こいつがPARAISOにいるのか、それが分からない。

ただ、明らかにこいつはやばい、それだけは、分かる。

「横山、すぐに本部の前を捜査してくれ、自殺した男が、俺の目の前にいる」

『……分かった、くれぐれも気をつけてくれ、最悪、こちらから光綺を強制送還する』

「…了解」

そう言った後、横山との連絡は途絶えた。


目の前の敵に、向き直る。

相変わらず、そいつは気色の悪い笑みを浮かべていた。

「お前は、何が目的なんだ?」

その問いかけに、返ってくる言葉はない。

呆れていると、そいつはもう眼前にまで迫ってきていた。

「ちっ……」

間一髪で攻撃を避ける。

そいつの手には、ナイフが握られていた。

仕方がない、そう思った俺は、管理者ツールを呼び出し、先ほどの武器を再び生成した。

ただ、どう接近するかが問題だった。

こいつは、フィジカルが普通の人間のそれとは比べものにはならない。

下手すれば、こちらが痛手を負ってしまう。

だったら…

俺は、新しいプログラムを入力する。

そして、自身のフィジカルを最大限まで引き出した。

ただ、それをすればいつか疲労で倒れる。

だからこそ、早期決着が求められた。

地面を蹴る。

それに、相手もすかさず対応してきていた。

久しぶりの感覚だった。

戦時中、最前線で戦った人物の中に、俺と同じく接近戦を得意とする者がいた。

あの戦いで、俺は死の淵まで立たされた。

支援部隊の助けがなければ、俺は今頃死んでいたはずだ。

あの人物に匹敵する実力を、こいつは持っている。

ただ、このデータ化された世界では、俺の方が一枚上手だった。

普段なら届かない攻撃、それも、今のバフがあれば有効になる。

武器が、そいつに触れた。

その瞬間だった。


「え…?」

武器は、跡形もなく砕け散った。

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現実のコンフィーネ 《AGAINST》 §oya @Soya_Minaduki

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