獣の里サンドラの巫女

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 多くの獣が共存する、獣の里サンドラ。


 そこでは、犬や猫などからライオンやトラ、馬など様々な獣が存在している。


 それだけではなく、魔法を使える魔獣や、珍しい幻獣なども住んでいた。


 サンドラは、秘境と呼ばれるような場所に存在しているが、人々への知名度は高かった。


 それは、獣の声を聞く事ができる少女がいるからだ。







 サンドラの里には、一人の巫女がいる。


 それはミクリという十代の少女だ。


 黒く長い髪に、赤い瞳をしている。


 ミクリは獣の声を聞く事ができる特別な存在だった。


 だから、毎日里の獣の声を聞いては、人と獣の共存の架け橋となっていた。


「みんなおはよう。体調はどう? 何か困っていることは?」


「巫女さま、うちの犬の調子をみてやってください!」


「うちの鳥、なんだか具合が悪そうで」


「どうか、家の前から動かない馬の気持ちを翻訳してください」


 しかし、彼女の仕事は里の中にあるものばかりではない。


 里の外からやってきた者達の相手をすることもある。


 その日も、そんなミクリの話を聞きつけたものが、里にやってきた。






 その若者の男は、ミクリに獣の悩みを解決してほしいと伝えてきた。


「実は、うちの村でちょっとした問題が起こってるんですが」


 それは魔獣に関する悩みだった。


 なぜか自分達の村の周りに、魔獣のサイサイがすみついてしまって、離れないのだという。


 魔獣のサイサイは、動物のサイと似たような存在だ。


 しかしサイと違って、水の魔法を使う事ができる。


 怒らせた時の被害は普通のサイの比ではなかった。


 男に話を要約すると、「人間と魔獣の生活区域が近くなりすぎて、様々な問題が起こっている」ようだった。


 魔獣サイサイを怒らせて、水の魔法をぶつけられる人間が多くいるという。


「分かりました。私でよければ力をになりましょう」

「ありがとうございます!」







 ミクリはその問題を解決するため、動物や魔獣たちを連れて男の村へ向かった。


 すると、そこには話通りにサイサイがたくさんいた。


「この通りたくさんサイサイがいるんですよ。小さな子供もけがをしてしまうし、お年寄りだって安心して通りを歩けないんです」

「こんなにたくさん、大変ですね」


 見たところ、ざっと百頭は確認することができた。


 そんなサイサイは、どこか怯えた様子でミクリ達を見ていた。


 その視線が気になったミクリは、さっそく獣の声を聞いてみる事にした。


「人間のよそ者だ!」

「この近くの人間じゃない」

「じゃあ、あいつらみたいに危ない奴?」


「こんにちは、私はあなた達に、危害を加えたりしないから安心して。どうしてこの村にいるか教えてほしくて来たのよ」


 すると、サイサイ達は目を丸くして、驚きながら話をしていった。


 その魔獣は密猟者たちに追われて、ここまで逃げてきたという。


 その話の裏付けをするように、最近付近では、密猟者たちが多く目撃されていた。


 その密猟者たちの組織は、遠くの土地でもともと活動していた者達だったが、その地での締め付けが強くなったのでここまで逃げてきたらしい。


「ならず者たちの相手はしかるべき人たちに任せたほうがよさそうね」


 ミクリ達は、自分達の手にあまると判断し、動物達を守る組織、自然保護警戒組織へ連絡した。


 ミクリが連絡にと飛ばした鷹が、彼等の来訪を告げたのはそれから三日後の事だった。







 しかし、彼等がやってくるよりも前に、密猟者達が行動してしまう。


 魔獣サイサイに忍び寄る魔の手。


 サイサイはパニックを起こして村の中を走り回った。


 そこにミクリが話しかける。


 念のためにと、村にとどまっていたのが功をなした。


「大丈夫よ、あなたたちは私たちが守るわ!」


 襲い来る密猟者たち。そこにとびかかる影があった。


 それはミクリがつれてきた獣の里サンドラの獣たちだった。


 ライオンやトラ、チーターにクマ。


 犬や猫なども種類は様々だ。


 その獣たちはみな、大好きなご主人のためにと自らついてきたものたちだった。


「うわあぁぁぁ、たすけてくれえええ!」


「なんでこんな変哲もない村に、こんな凶暴な獣がたくさんいるんだ」


「こっち来たぞ、逃げろ! 来るなあああ!」


 多くの獣を操る少女ミクリ。


 その力におそれをなした密猟者達は、魔獣サイサイから手を引いてその場から逃げ出した。


 彼等を逃がしたら、また他の地で被害が起きてしまう。


 そう思ったミクリは焦ったが、


「後は我々に任せてもらおうか」


 予定よりも早くやってきた自然保護警戒組織の一人が彼等をすべて捕まえていった。


 そうして魔獣サイサイをめぐる騒動は、一件落着に終わったのだった。


 自然保護警戒組織の一支部のリーダーである人物、ウルドは、ミクリに感謝の意を表した。


「善良な一市民の協力はありがたい。しかしこのための我々がいるので、たとえ特別な力があったとしても、無茶はしないように」と言った。


 しかし、自分達の活動には限界があり、細かい所には目がいき届かないため、これからも力を貸してほしいと続けて述べる。


「それはもちろんです。多くの獣たちのために、これからも頑張ってください」







 小さな村の悩み事を一つ解決した巫女は、獣の里サンドラへと帰っていく。


 しかし獣の言葉がわかるというミクリの力があるため、騒動は彼女を放っておかないだろう。




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