変わらないものと、変わるもの





「キューロ、ご飯ありがとう」


「え?ああ、俺はテーブルに並べただけで、ほとんど師匠が持ってきた物だと思うんだが…」


師匠は昼前まで爆睡していたが、起きてから様子がどこかおかしい。

打ち所が悪かったのだろうか?色んな意味でちょっと怖い。


「ちゃんと回復するまでまだ寝ててもいいぞ?」


「ううん、もう大丈夫。キューロが治療してくれたから」


「…そうかならいい」


起きてからずっとこんな調子だ。

いつもなら「糞虫が!お前に言われなくても自分の管理ぐらいできる」とか言ってきそうなものなのに、声色まで変わってて不気味だ。


「コホン、で師匠、今回の騒動についてお互いに報告がしたい。後、今後の行動も決めたいんだが」


「そうね、報告はこれからするとして…今後の行動はキューロに委ねるわ。私は指示された通りに動くから」


「え、えーっと…」

いよいよ心配になってきた。


議論したいわけじゃないが、ここまで素直なのは逆にやりづらい。ってか話し方が別人なんだが?


まぁあまりウダウダ考えたところで話が進まない、とりあえず俺と師匠は襲撃された後の報告を互いに行った。

グリナスタとナスタリアの件は後で言うつもりだ。


先に師匠から話を聞くことにした。

師匠はバンジャルという男と戦い、天力ルフトの流れを阻害する武器を使用され窮地に追い込まれたとのことだった。


(なるほど、師匠の体に刺さっていた異物はその武器の破片ってことか)

「それはかなり重大な事案じゃないのか?その武器に使われている素材、師匠の国は認知してないんだろ?翼人に対しての扱いといい、王国の動きは翼人が住まう国にとっては脅威だとおもうんだが」


「うん、至急教会国に戻って報告するべき案件なんだけど、でもそうすると研究所襲撃の件が…」


「………メアが居なくなった今、すぐに実験どうこうと言うこともないと思う。俺が残って研究所の監視をするのはどうだろうか?難しいか?」


「キューロだけで!?

………そ、その、キューロは、強くなったとは思うけど………私はちょっと心配…かな」


「……………」



ちょっと待て待て、さっきから喋り方どころか接し方まで変わってない?話しに集中できないんだけど?実は別人?


「あのな、師匠…どうした?今日はかなりおかしいぞ?まるで乙女な雰囲気出てるし、血が抜けすぎて頭に酸素が回ってないんじゃないか?頭に少し復元リバースしたほう━━ぎゃふー!?」


グラビティ乗せでアッパーされた。

この拳は師匠で間違いないだろう。どうやら完全回復しているらしい、もう心配ないようだ。


因みにログハウスが壊れたのは言うまでもない。




□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□




「で、糞虫の方はどうだったんだ?」


俺は今正座させられているのだがなぜだろうか?俺に罪はないと全力で抗議したい。


「えーっと、メアと戦って一度死にかけて、もう一人のあいつが出て来て傷を直して、消える前にルフトの根元?みたいなの渡されて、なんか知らんがパワーアップしてメアを倒した」


「………」

「………」




「真面目にやれ、また殴るぞ」


なんでやねん、かなり簡潔に要点絞ったんだが?


「至って真面目だ、因みに緑煌眼りっこうがんもパワーアップしたぞ!って、あ」

言ってからしまったと思った。つい先日、緑煌眼りっこうがん絡みでボコボコにされたばかりだ。


恐る恐る師匠の顔を見る。


「フッ、フフフフフフ…」

「ひっ…」


師匠は笑っていた。

にこやかにではない。獲物を見つけた野獣のごとく獰猛にだ。


なんだろう。早く国に帰ればいいのにと思った。



「ところで報告はそれだけか?糞虫」

師匠が聞いてくる。


「それだけ、とは?グリナスタと褐色美女の話ならこれからするが?ああ、でも俺も聞いた話だから正確なところはわからないぞ」

急にせっかちになった師匠に予め注意を促した。のだが。


「違う、そんなことではない。お前、私の裸を見ただろう?」


「…………………………………それはなんと言うか、しかたな」


「under G 20」


俺は額を地面に叩きつけられた。

おでこが地面にへばりついて離れない。


この落差なに?二重人格なのだろうか?


コツコツと足音を響かせ師匠が俺へと近寄る。

足音は俺の前で止まり、布の擦れる音だけが聞こえてくる。

普通にホラーだった。


「師匠。あれはホントに仕方なかったんだ。傷だけに集中してたし、そんなマジマジと見たつもりはない、ぞ…」

地面に頭をすり付けながら弁明した。


何かされるのではと戦々恐々としていたのだが、そんな俺の心境とは裏腹に、


「知ってるさ、不甲斐ない師匠で…すまない」


「じゃあ頭、頭戻して」


「………恥ずかしいから、見てほしくない」


そう言って師匠は俺の頭を撫でた。


「……」


なんとなく師匠の恥じらいが伝わってきて、俺も少し恥ずかしくなり、ついほくそ笑んだ。


「キューロ、感謝している。ありがとう」


「…いや、まぁ……無事で良かったよ師匠」



この世界にきてから、たぶん一番 心が落ち着いた瞬間だったと思う。さっきまではお互いどう接すればいいのか、ちょっと迷ってただけなんだろう。


初めて師匠の、アトラの心に触れた、そんな気がした。






だから


この時の俺たちは

いずれ来るその日の出来事など、微塵も想像なんてしていなかった。


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光と残酷~既婚者おじさん。若返って苦難の異世界生活をする~ くむ @qumu

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